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超機械文明に魔王が転生したならば!  作者: Per猫
第二話「魔力黎明」
23/83

2-17

 アグレアスは、尚も暗がりへ這って進もうとする少女に対し問うが、彼女はもはや意識も朦朧としているようだ。


「…………て、迂闊……王国め……ここまで腐って……」

「聞こえていないのか? なら、勝手に決めるぞ。お前はこれから魔王、レオ=アグレアスの配下だ。今後ともよろしく、だな」


 一方的に言い切って、アグレアスは魔法の為に意識を集中し始める。

 と、その時だ。


「……おい、いたぞ。あんなとこにいやがる」

「ちっ、女を見られたのか。手早く済ませるぞ」


 それぞれ赤いマフラーとスカーフが特徴的な二人組が現れ、狭い路地への入り口に立つ。

 言葉から察するに、ついさっきまで車の事故現場付近でこの少女を探していたようだ。

 アグレアスは大体の事情を察した。


(なるほど、この幼女はこいつらに狙われていたわけか。だとすれば、こいつらが取る行動は……)


 エリナを下がらせ、声を掛けるアグレアス。


「なんだ、貴―――」


 男達の内、スカーフを口元に覆った方が、身を屈ませた。

 と思った瞬間、男の姿が掻き消える。


(ふむ、前だな)


 独特の勘から、男の行動に見当を付け、視線を下に落とす。

 何らかの増幅機関を利用した加速移動。

 地面には焦げ目が刻まれ、煙すら上がっていた。

 男が凄まじい速度でアグレアスの懐に潜り込み、小ぶりの刃物を振りかざしたのだ。

 機械によるアシストを利用した、一呼吸する間の襲撃。

 常人であれば、目に捉える事すら出来なかっただろう。

 だが、


「―――遅い」


 魔力を心臓から引き出し、幾何精神構造体へのアクセスをパス。

 体外、前方へ魔力を直接放射した。

 不可視の重圧が、スカーフの男の身体へ襲い掛かる。


「があっ!?」


 男は後方へ吹き飛ばされ、相棒とぶつかって崩れ落ちた。

 刹那の迎撃。

 アグレアスは眉すら動かさず、全ての所作を完了させていた。


「馬鹿め。一呼吸など生ぬるい。人を殺すならば、瞬きすら許さぬ間に殺せ」


 とはいえ、先ほどの魔力攻撃は相手が「ほぼ」生身だったからこそ通用したものだ。

 彼らが全身を機械でアシストしていれば、魔王とて傷を負っていたかもしれない。


「……あの男の人達、さっきの機動から考えて恐らく、『バレット・ドレス』と呼ばれる機械の簡易版を着けていたと思います。服で巧妙に隠されていますが、独特の駆動音がしました」


 エリナは淡々と語るが、先ほどの動きが視えていたとでもいうのだろうか?

 だとすれば、彼女は尋常ならざる神経の持ち主という事になる。

 ……しかし、今はそんな事を考える必要はない。

 アグレアスは、エリナの言葉をただ聞き返した。

 何か忘れているような気もしたが。


「『バレット・ドレス』……だと?」

「はい。機械と装甲で出来た、人間の動きを補助する鎧みたいなものですね。正規品は全身に装着するもので、今の数倍は早いです」

「フ、ハハ……! 魔力強化も無しに、あれ以上の早さを可能にするとはなあ! この世界は、まだまだ俺を飽きさせんという事か! ハハハハ!」


 世界には、自分を殺す可能性に溢れている。

 それは、なんて愉快。

 なんて期待に満ちた、夢のような場所。

 魔王なら、魔王だから、そう思って笑うしかない。


 そうしてアグレアスがひとしきり哄笑していると、倒れていたはずの赤いマフラーの男が動き出す。

 迅速な行動だった。

 片方の腕で気絶したスカーフの男を掴み、大地を強く蹴って上昇。

 ビルの外壁に到達し、蹴りつけ、また違うビルの外壁へ。

 そんな高速機動を繰り返して、男達は離脱を目論む。


「おい待て、何処へ行く?」

「魔王様っ! この子が!」


 アグレアスは飛翔魔法で追いかけようとするが、エリナに制止された。

 見れば、倒れ伏した少女の傍らで血相を変えている。


「早く治さないと、この子が死んじゃいますっ!」


 少女は今やうわ言すら上げず、ただ浅く呼吸を繰り返すのみだ。

 目の焦点は当然の如く合っていない。

 急いで対処せねば、確実に死亡するだろう。


「ふむ、分かった。口惜しいが、今はこの幼女の命が優先、か」


 アグレアスは意識を切り替え、幾何精神構造体へのアクセス、及び魔法の詠唱を開始した。

 この街で何かよからぬ、あるいは楽しい思惑が動いている事を感じながら。

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