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超機械文明に魔王が転生したならば!  作者: Per猫
第二話「魔力黎明」
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2-8 タグ

「すまないが、邪魔するぞ」


 申し訳なさを微塵も感じない声で、アグレアスは言った。


 そこは、やけに広々としていて、清潔感に溢れた空間だ。

 執拗なまでに白く塗られた壁が、どことなく居心地の悪さを与える。

 自動開閉装置を抜けたアグレアスが中へ歩みを進め、壁と同じ色で塗られた受付の前で止まった。


「トロン・クリニックへようこそ! 本日はどういった御用件でしょうか?」


 高級スーツを着た男性が受付の中から、にこやかに声を掛ける。

 銀縁眼鏡と神経質そうな顔つきが特徴的だ。


「ふむ。暫し待て」

「は?」


 受付の男は気の抜けた返事をするが、まあ無理も無い。

 唐突に目の前の客が目を閉じ、瞑想し出したのだから。


(……現状でどこまでのレベルが出せるかだが、……長くて数時間、短くて数十分といったところか)


 するべき事は二つだ。

 しかし、消費する魔力量は大きい。

 即ち、失敗は許されない。


「あの、お客様……?」

「見ろ」


 言葉と共に突き出された指は怪しく光り、男の頭から正常な思考を奪う。

 低級錯乱魔法。

 軽度の魔法防御で対処が可能だが、それを彼に求めるのは酷な話だっただろう。

 そして、アグレアスは命じる。


「────私の、言う事を、聞け」


 それは、完成された洗脳魔法。

 先ほどの錯乱魔法と同じく光属性の派生だが、複雑な精神階梯を駆使しなければ成功はあり得ない。

 魔王の生きた時代でも、扱える人間は数えられる程しかいなかった。


「あー……了解しまし、た。ふ、へへ」

「……少々、言動が怪しくなるのが難点だな……まあいい。エリナ、来ていいぞ!」


 アグレアスが後ろに声を掛けると、エリナが銀髪を揺らして開閉装置から姿を現す。

 その顔は、不安と懐疑に満ちていた。


「魔王様、大丈夫ですか? 怪我はありませんか? ……それで、魔法で洗脳っていうのは」

「ふむ、会心の出来ぞ!」


 顎で示す先には、焦点の合わない瞳で虚空を見つめる銀縁眼鏡の男。

 その様子からは、自由意思を感じない。

 とはいえ、数時間程で魔法は解けるはずだ。

 運が悪ければ数日に長引くかもしれないが、魔王の下僕になれるのだから幸せだろう。


 アグレアスはハンカチに包んでいたタグを男に見せ、話す。


「いいか、俺達は事故でタグが外れてしまった。これは、外れて壊れたタグだ。中の情報を読み取る事は可能か?」

「あー……、都市運営委員会タグ管理課の認可書類はお持ちですか?」

「必要無い。適当に処理しろ」

「はい。……では、少々お待ちを」


 眼鏡の男はタグを受け取ると、何やら空中に手を伸ばす。

 すると、いかなる現象か。

 突然、半透明な四角形の板が幾枚か、男の手の周りに現出した。

 表面には文字列が並び、どうやら載せられたタグの解析を行っているようだ。


「エリナ、何だあれは?」

投影板ホロ・フレームですね。特殊な粒子で形成される、情報を映す板です。王都の方でしか見た事のない技術でしたが、最近はアルテリアでも使われているようですね」

「光の魔法でも似た事は出来るが……なかなかに奇妙な光景だな」

「手から炎とか出す人が言うと、説得力ありますね……」


 時折エリナは鋭い事を言う。

 ともあれ、男は作業を完了させたようで、歪な笑顔で魔王に施設の奥を示した。


「か、解析完了しました。ハイネ・アインナッシュ様とニーナ・プリムス様ですね? あちらの部屋の機械で、情報を引き継いだタグの埋め込み手術をしますので」

「あの、私はまだタグが体にあって……」


 エリナが申し訳無さそうに首に手を当てて言う。

 色々あって奴隷に落ちた身だと前に言っていたが、未だタグを保持していたらしい。


「はい? あー、ええと、確かこちらのタグがニーナ様のものだったのでは……?」

「その事は忘れろ」

「はぁ……では、ニーナ様のタグには上書きをするという事で」


 商談(一方通行)は纏まった。

 アグレアスは未体験のものを味わう期待に胸を踊らせ、エリナは何故か浮かない顔で男の後を付いていく。


 そして、魔王は知ることとなる。

 全自動タグ手術。

 その作業は極めて短時間だが、凄まじい痛みが伴うのだという事を。



 数時間後。

 魔王達は上層部高級ホテルの一室の中、ベッドの上で悶えていた。


「痛い……勇者に殺された時より痛いぞ、エリナ……っ!」

「はぅ~……そ、そうなんですか……っ! い、痛くてよく分からないです……っ!」


 当初は、手術後ベイン・タワーに直行するつもりだったのだが、あまりの痛みにハイネというらしき男のタグに記録されたキャッシュを利用して、身体を癒やす事にしたのだ。

 幸いにも、ハイネは多くの金を持っていた。

 これが貧民であったなら、さぞかし酷い目にあっていただろう。

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