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超機械文明に魔王が転生したならば!  作者: Per猫
第二話「魔力黎明」
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2-7 赤い意思

「魔王様はなんていうか、本当に凄い人ですね……どうして私、付いて行ってるんだろう……」

「当然だ、魔王だからな! そんな事より、早く服を着ろ」


 未だ温もりの残るそれを手渡され、エリナは渋々と自分の着ている衣服に手を掛ける。

 だが、途中でアグレアスを睨み、不満気な顔をした。

 趣味に合わなかったのだろうか。


「あ、あの……そんな、見ないで下さい……!」

「何故だ?」

「何故って……」


 エリナはどうしてか、信じられないものを見るような目でアグレアスを凝視する。

 対してアグレアスは訝しげな表情をした後、やれやれと首を横に振った。

 そして、言う。

 自らの腰に手を当て、堂々とした風に。


「いいか? 下僕の全裸を見る事を、俺は恥だとは思わん!」

「全裸じゃないですよぉ! し、下着ありますから!」

「ああ、だが他人には全裸を晒すなよ? お前の全裸の価値が減る」

「駄目だこの人、聞いてない……」


 その後も何度か押し問答があった末、ようやくエリナは隅っこでファンキーな衣装に着替えたのであった。

 明らかにサイズが合っていない関係上、その露出は大幅に減っている。

 とはいえ、先ほど雑巾と揶揄されたアレよりはマシであろう。


「さて、丁度良く服も手に入ったところで目当ての場所へと向かうとするか」


 目的地はベイン・タワー……ではなく、タグの手術を受けられる場所だ。

 エリナの話では、医療機関か専門の施設を利用すればよいという事だ。

 現在地がおおよそ判明さえすれば、そうした場所の見当もつくらしいが。


「ふむ。その前に、やる事があったな」


 アグレアスは、仲良く並んで地面の上に寝ている男女に歩み寄り、何やら首元に手を伸ばす。

 そして、


「ふーむ、ここか? 違うか。ならば、この辺か? おや、これは骨か。つまり、ここより少し上の方をだな……」


 何か、肉を掻き混ぜるような音、そして液体が飛び散る音が響く。

 長いような、短いような時間が過ぎた。

 そして目的を果たした魔王は、極少の機械を2つ手にしていた。ポケットをまさぐるとハンカチがあったので、それで丁寧に包む。


「あの……聞きたくはないんですが、今のは一体……」

「奴らのタグだ。小さいとは聞いていたが、まさかこれほどとはな。魔力で視力を最大限強化しなければ見えなかったぞ」

「あなたの目は顕微鏡ですか!? というか、殺しちゃったんですか……?」


 自業自得気味とはいえ、一般人だ。

 エリナは恐る恐るといった風に尋ねる。

 しかし、アグレアスは意外にも手をひらひらと振って否定した。


「死んではいない、治癒魔法を掛けたからな。死んでしまっては恐らく、このタグを管理する者がその情報を受けとるのではないか?」


 その予想は的中していた。

 心臓が停止した情報がタグへ届き、それが電波に乗ってタグ管理組織へと伝わる。そして、数分後にはこの路地裏に救急隊や警察がごった返す事になるだろう(遺族からの謝礼を求めて、という但し書きはつくが)。

 不意にタグが肉体から切り離されたこの場合、事故として処理され、男達の情報端末機器等に点検の通知が来ていると思われた。


「これでよし。エリナ、この薄汚い路地を出るぞ。俺は早くイルミネーションとやらを見てみたい」

「昼間からライトは照らしてないんじゃ……」


 二人はやかましく騒ぎながら路地を出ていく。

 この先、アルテリアを襲う事件に巻き込まれるとは、つゆ知らず。






 男は、赤かった。

 大きなつば広の帽子、顔に掛けたサングラス、身に付けた外套。

 全てが赤い。

 重々しい赤だ。

 重厚な、錆びた鉄を思わせる赤だった。


 赤い男は、アルテリア中央に位置し、商業の拠点となっている地域、ストナを歩いていた。

 場所によっては、男の風貌は人の目を引いたのかもしはないが、目立ちたがりが集うこの地域では丁度良い具合に埋もれている。

 今しがた目の前の曲がり角から出てきた、怪しげな黒スーツを着た金髪青年と妙にサイズの合っていない服を着た少女達のように。

 このストナでは、色々な格好の人間を見かける。


「…………」


 しかし、赤い男も流石に、真昼間から下着姿で寝転ぶ男女を見た事は無かった。

 治安の悪い下層ならばともかく、路地裏とはいえ繁華街でこのような様はそうそうない。

 しかも、片方が知人なのだからタチが悪い。


「……ニーナ、何があった」


 問い掛けに答える者はいない。

 目の前で横たわる、かつて敵対し、しかし現在は協力している女性は白目を剥いているのだ。

 何か、襲撃があったというのだろうか。

 人一倍の戦闘技能を備えた、彼女を倒す程の襲撃が。


「……一体、アルテリアで何が起こっているんだ」


 とはいえ、嘆いている暇はない。

 危険性を考慮し、資産家の男は放置、ニーナは回収して後方へ下がらせる事としよう。

 「計画」に失敗は許されないのだ。

 昔、奴らにそうされたように、今度は自分が奴らを排除する番なのだから。

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