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超機械文明に魔王が転生したならば!  作者: Per猫
第二話「魔力黎明」
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2-5 防衛部隊

(……この都市は腐っている)


 警察は悪党達から賄賂を受け取り、子供達を売人が薬漬けにし、政治家は権力の拡大に余念が無い。

 誰にも、どこにも正義は無い。

 都市下層部で積み重なった貧民達の腐った死体の中にも。

 上層部で売春と収賄、密売を繰り返す権力者達の腐ったはらわたの中にも。

 正義を叫び、その実、拉致誘拐爆破強姦を行うテロ組織の腐りきった脳内にも、だ。


 自分が変えなければならない。

 アカネはそう意気込んで着任したものの、現実には王都から派遣された王国軍やアルテリア都市政府の発言に逆らえず、犯罪者の端くれを追い立てるのみ。

 浄化など夢のまた夢。

 この街では、ブレイドの操縦技術など何の役にも立たない。

 求められるのは、金と運、そして相手をやり込める舌だ。

 彼女はその内、恵まれた家系から生じる資産のみしか持ち合わせていなかった。

 結果として、現在の防衛部隊は事故死した(事になっている)前隊長がいた頃に比べて、大きく弱体化している。


「……それでも私は、アルテリアを変えたい」


 方法は、ある。

 婚約を催促してくる、あの薄汚い都市政府高官の家の人間となり、発言力を得た上で都市を内側から変えていくのだ。

 両親もさぞ喜ぶことだろう。

 しかし、そう都合よく事が運ぶとも思えない。

 結婚をした後に防衛隊長を解任され、二度と表舞台には立てない可能性が高いのだ。

 故に、残る手段は……。


「武装蜂起、か」


 所謂クーデターという奴だ。

 実戦の機会は少ないものの、隊員は日頃から訓練を重ね、第二世代型ブレイド(B-Raid)も数十機保有している。

 都市上層に不満を持つテロ組織と合流し、ベイン・タワー中枢にある都市行政府と議会を素早く制圧。都市の癌とも言える者達を処刑する。

 王国軍兵士達も油断している今なら、そういった事も決して不可能ではない。

 むしろ、現実的な案と言えた。

 勢い余って作戦書類を作ってしまったほどだ。


「だが、本当にそんな事をしていいのか? クーデターなんて、社会を乱してしまう行為は悪ではないのか」


 正義とは。

 正義の執行の為ならば、どんな犠牲もやむを得ないものとなるのだろうか。

 着任以来、否、物心ついてから悩ませてきた問題がアカネの胸を締め付ける。

 その時、キーキーとした甲高い声が、部屋に仕掛けられた音響装置から発せられた。

 部屋に備え付けられた体調管理システムだ。


『ストレス値が上昇しています! 疲れていませんか? マッサージでストレス値を下げる事を提案します! オプションでアンチエイジングも受けられますよ!』

「うるさいなぁ、もー! なんで週イチでオフに設定し直さなきゃ駄目なのよー!」


 いかなる変化か。

 それまでとは打って変わって、アカネの口調が子供じみたものとなる。

 というか、本来の口調が出ただけに過ぎない。

 胸だけは人一倍成長したものの、平均よりかなり背丈が小さい彼女が威厳を少しでも保つには、封印せざるを得なかったものだ。


「どーせ、子供っぽいわよー……アンチエイジングしてどうすんのよー……」


 ちゃぶ台に顎を乗せ、頬を膨らせる。

 アカデミー設立以来、最優となるブレイド操縦スコアを叩き出したアカネだったが、彼女が搭乗するブレイドはいつだってコクピット内のペダルやシートの高さが真っ先に調整された。

 そして、冷やかし文句はいつも決まって「チビ」が付くのだ。

 このような成りでは、隊員達も心を開かず、変えられるものも変えられまい。


「……いっそ、怪人や怪物が現れてくれれば、何かが変わるかもしれないのになぁ」


 ―――それは、子供っぽい戯れ言だった。

 口にした当人も勿論、本気で言っているわけではない。

 しかし、彼女の言葉は、図らずも叶えられてしまうのであった。





「おいお前ら! さっきの隊長の言葉、ゾクゾクしたな!」

「ああ、ゾクゾクしたな!」

「最高だ」

「明らかに無理してる感じが出てて、地の性格とのギャップがたまらないぜ、なあおい……!」


 アルテリア防衛部隊保有巡視艦、旗艦「ゲッコー」、船橋ブリッジにて。

 複数人の男達が手を休める事無く、話に花を咲かせていた。

 見守る艦長もそれを咎めず、相槌のつもりかただ頷くばかりだ。


「……だが、悲しそうだった」

「ああ、この後に王国軍連中との会議があるからな。心配なんだろう」

「最高だ」

「俺達もしっかりしなきゃなんねぇ……」


 男達は、お飾りとして配属されたアカネを軽んじてはいなかった。

 どころか、常に部下の身を案じ、しかし一般人の安全を最大限守ろうとする彼女を心底愛していた。

 彼女の弛まぬ献身と、彼女が日々口にしていた信念が部下達に通じた結果と言えよう。

 「貴方を護る」、せめて、その心だけは大事にして欲しいと。

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