想いは
彼女と同じ髪にしたい。
幸いにも、色や質は同じようなものだった。
いつも彼女の面影を追い求めた。
あの時には分からなかったこと。
今なら気づけること。
それは確かにある。
僕は彼女に恋してた。
そして、彼女はーーーー。
短かった髪が腰まで伸びた。
小さかった背もすっかり大きくなった。
シュポードは再び闇へと足を入れた。
最初に来たときはまだ幼かった。
その幼さ故に今は後悔していることがたくさんある。
でも今ならばできることがきっとある。
もう一度会えば分かるのだろうか。
彼女に言えるだろうか。
僕の想いを。
届いてくれるだろうか。
遠い彼女まで。
ずっと変わらない。
ここの薄暗さも、湿っぽさも、私の身体も。
ここに閉じ込められてから幾千の夜を重ねてきたのに、あの子を産んでからちっとも年を取らない。
十七から年を重ねているはずなのに。
背は伸びなくても髪は長くなってゆくらしく、ちっとも手入れをされていないそれはすでに石畳の上に置かれていた。
寝ようかしら、と横になりかけると無機質な音がする。
いつもの物音であるはずなのに、背筋が凍るような感触がした。
「だぁれ?」
恐る恐る尋ねてみる。
「僕だよ、愛しの女神。覚えてるかい?」
少女は眉をひそめる。
ここに入る僅かな光ではその顔は確認できなかった。
一歩一歩近付く足音が怖い。
少女は後ずさりした。
そして光が男の顎を捉えた。
「エルガート....?!」
整った眉も、優しそうな瞳も、筋が通った鼻も。
唯一違うのはその髪か。
(私の愛した男。私を心から愛してくれた男)
その男は彼が蘇ったかのようだった。
「違うよ。覚えてない?ここに迷い込んだ男の子のことを」
少女ははっとした。
「あの時の....?」
「そう。あの、小さな男の子だよ」
少女は男をゆっくりと見た。
「ああ、貴方はきっと、エルガートの来世なのね」
そして、ほんのりと頬を染めた。
男は無表情に微笑んだ。
「そうだよ」
「やっぱり」
「でも、残念ながら貴女の記憶がないんだ」
「....そう、なの」
少女はあらかさまに肩を落とした。
男ーーーシュポードはそれを見て微笑んだ。
「だから、貴女の名前が知りたい。僕たちはもう一度恋をするんだ」
「エルガート....」
「教えて?」
「アガペー....不朽の愛よ」
「アガペー....、僕は、」
「エルガート、でしょ?私は覚えているわ。貴方以上に貴方のことを知ってる」
かつて神の寵愛を得たその顔は、愛の女神でも勝てないような笑顔で溢れていた。
ーーー母上、僕は貴女を慕う幼い僕と父への嫉妬に燃え上がる男の僕との間で葛藤しています。
アガペー、それは《神の人間への愛》に由来する。
読んでくださり、ありがとうございます!
お母さんが狂ってしまって....。
最初はこんな予定ではなかったです。
ちなみに、《アガペー》はギリシア語です。
にわか知識なんで、深く突っ込まないでください。




