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第一生存者

高層ビル並に高々と伸びた木々の間から微かに見える太陽は既に傾き始めていて、ここに来てから長時間経ったのだと自覚させる。

そんな頃合いにまだ声変わりのしていない少年の叫び声がこだました。



「だっだずげでーだでがーはやぐー!!」



鼻水や涙を垂れ流し、こちらにそう叫びながら向かってくる少年にピントを合わせてみると、どうやらその少年は僕らのよく知る人物に酷似していることに気がついた。

森重大輝もりしげたいき――――――弱冠12歳にして飛び級で同じクラスとなった我が高校の同級生である。

いつも背中にノートパソコンを入れた鞄を背負い、おかっぱ頭で卑屈な目を周囲に向け、俺たち同級生を下に見たような態度をとるクソガキ。

もとい皆から生意気だと思われがちな彼が一体なぜこんなところに?

俺は疑問を感じずにはいられなかった。


というか彼は修学旅行への出席は強制ではなかったはず。

なのにここにいるということは大方誰かからか隠れて連れてきてもらっていたのだろう。

…彼も修学旅行、もしくは沖縄に行きたかったということだろうか?

だとしたら災難である。

来なくてもいいところに来て今現在進行形で命を脅かされているのだから。

今なら彼に同情しなくもないよ。うん




「赤神朱音!早く大輝くんを助けなければ、命が危ない!!」


「…でもあの数ちょっと厳しいかも。」


「…だろうね。多すぎるよ。あれは」




思わず俺も納得するほどに今の状況は大変熾烈を極めていた。

後ろの魑魅魍魎達は今も増え続けていて、軽く300は下らないだろう。

さっきは100頭で少々骨が折れるだろうと言ったから、その3倍の数であるこの状況は本当に不味い。

だからそれを赤神さん一人でってのは流石に厳しい話だ。

しかも今彼と怪物達との間はかなり肉薄していて、一撃で怪物達全てを屠れない限り生き残りが彼にその牙をつきたてるのは最早明確であろう。

そうなったら赤神さんは自分を責めるだろうし、会長も後悔と悲しみの渦に呑まれる。


だからここは俺も彼女と一緒に参戦しようと思うのだ。

何人一人の命がかかっているのだ。

ここで俺の力を隠しても、得にはならないし

流石に罪になるのではないだろうか。(…どうせ俺の力を目の当たりにするのは、ここにいる数人だけだし。秘密にしてもらえれば何とかなるはずだよな?)

今回は人命救助を最優先にするべき、だ。



「…なら俺も出よう。赤神さんは左の方をお願い。俺は右を担当する。」


「…了解。」


「おっおい大丈夫なのか?堂ケ崎久音??お前はいつも体育休んだりして運動は苦手のはずでは…」



会長が俺の体のことを心配をするが、無問題モウマンタイと親指を突き立ててアピールした。


…そもそも体育の授業を休むのは別に体が弱いからとかそういう理由ではなくて、逆に人としてあまりに力が強すぎるから加減がわからないというのが本音である。

もし俺が加減を間違えて同級生に消えぬ怪我を負わせてしまったら申し訳が立たないし、それだけに留まらず皆が毎日のように使っているグランドが穴だらけになる危険性もないではない。

もしそうなったら俺は同級生から白い目で見られても仕方がない惨めな学生生活を送る羽目になる。

そうはならないようにと何とか学園長に頼み込んで体育の授業は無理言って休ませてもらっているのだ。

おかげで成績は少しだけ下がってしまったが、俺は極力現実では地味で平凡な日常を送りたいと常に思っているのでそんなの苦でも何でもない。

それにテストで多少は挽回しているので心配することはないのだ。

…だが事情を知らない同級生からは相当俺が体が弱いのだと心配されていることだろう。

何故なら俺が毎朝学校につくと、机の上に健康に良さそうなサプリメントとか食品が置かれているからな。

ん?これなんの嫌がらせ?

始めはそう思ったがどうやら彼らは本気で心配しているらしく、時々かかりつけのいい医師がいるので看てもらったらどうでしょう?と置き手紙が挟まっている時もあった。


えーと俺は健康そのものだし、必要ないからね?なんか気持ち悪いんだよみんなのその優しさ的な何かが!

俺は当時あまりの気色悪さに鳥肌がたったのを思い出し、一瞬だけ身を震わせた。





「…まあ見てて会長さん。」


「…楽しみ。」


「おっおう!分かった。くれぐれも怪我の無いように、二人とも頑張ってくれ。」




そう二人を見送る会長を後にして(ていうか会長は戦わないのかよ!?てっきり会長はあいつらに立ち向かって行くのかと思っていたのに…まあ居ても邪魔なだけだからいいんだけどさ。)、二人は走り出した。

風のように水のように光のように、常人には見えぬほどの速さで森重くんに追い付き追い越して二人はそれぞれの技を静かに発動させる。



「…神楽流参『風車かざぐるま』」


「無手『羅流群ラ・リュウグン』」



俺よりコンマ一秒早く技名を呟いた赤神さんは自身を縦回転させながら怪物たちの間を擦り抜けていく。

すると怪物たちはまるでバターのように簡単に縦に裂かれて、地面に少し遅れて次々に怪物達は倒れる。

見事な手際といえよう。流石は剣の道では右に出る者はいない人!

難なくやってのけるその男前っぷりに痺れるあっこがれるうううう!


そしてそんな赤神さんとは対照的に俺はと言えばこの鍛え上げられた拳を幾重にも幾重にも重ねて怪物たちにお見舞いするという、芸も減ったくれもない単純な技を放った。

…まあそれを目でとらえるような奴はここに多分いないのだろうけどさ。

それに一匹当たりに約100発は打ち込んでいることから、怪物たちは1匹残らず元の姿を保っておらずただの肉塊と化しているわけだが。。。





多分森重くんの目で見ると何かが通り抜けた気がして振り向いたその瞬間には、今まで自分を散々追い掛け回していた怪物たちが縦に裂かれて絶命していたり、元の形も分からないぐらいに肉塊と化した怪物が目に飛び込んできたことだろう。

案の定彼は口をあけて、唖然としていた。

というか彼は胸を抑えて吐き気を訴えているように見える。

あまりにも怪物たちの死に様がグロテスクなようで、彼は口から一杯吐瀉物を吐き出していた。

今年13歳になる彼にはこの惨状は少し早かったかもしれないね。

…いや、多分何歳になったとしても初めての人にこれは流石に、吐くなという方が無理なのかもしれない。

とりあえず森重くんにはお疲れ様デシタとだけ言っておいた。



「…堂ケ崎くん容赦なさすぎ。」


「…怪物を縦切りにした赤神さんには言われたくないよ。主に断面図が気持ち悪い。」



赤神さんが縦切りした方をよく見てみると断面からうようよと、中に寄生虫でもいたのであろう。

細くて長いハリミミズのような奇妙な生物が臓器の中を駆けずりまわっている。

相当に鳥肌の立つ光景だ。

…それにくらべてどうだろう?俺のはパッと見ただの肉塊だ。

時々動くけど、寄生虫が這いずり回っているのよりはましだとそうは思わないかい?(どっちもどっち)




「…もっと加減するべき。」


「…それはご尤もです。はい」



やりすぎたかもな…そう自覚するくらいに怪物の肉塊というのはインパクトが強すぎた。

でも仕方ないと思わないか?

あいつらこちらを襲おうとしてきた敵だし、人間以上に絶体硬度あると思ったから少し強めに打っておこうと思っただけなのに…

実力の10分の1程度で軽くあてるだけのつもりで放ったんだぜ?これ?

怪物たちの装甲が脆すぎたのか、俺の力が強すぎたのか…

多分後者なんだろうけど、これがホント体育の授業なんかじゃなくてよかった。

もしやったとしたら同級生が肉の塊となってみんなに『こんにちは』するとこだった。いやー危ない危ない。



「おーい。赤神くん、堂ケ崎、だいじょう…ぶのようだね。寧ろ怪物たちが可愛そうなレベルだな!」


「「…手加減はした。問題はない。」」



会長はこっちに小走りで向かいつつも、この地獄絵図のような怪物たちの亡骸を見てもケロッとしている。

(会長も慣れたものだな。三十分ほど黒霧の森で住まう怪物たちを見てきたからであろうか?…まあいいんだけどね。吐いてもらってもこちらは困るだけだから)

そして俺はといえば赤神さんと被るようにして言葉を重ねてしまい、少しぎこちなく頬を掻いていた。

赤神さんは微妙に照れていて、頬を少しだけ赤くしている。可愛い。



「にしてもやりすぎじゃないか?原形をとどめていないものまであるじゃないか!」


「…ごめん。被った。」


「…いや、気にしなくていいよ赤神さん。」



彼女は律儀にも俺に謝ってくれた。え何?赤神さんそんないい子さんでしたっけ?

わたくし記憶にございませんが、何があったんですか?赤神さん??



「むっ、森重大輝がとても苦しそうにしているな。背中でもさする必要があるようだ。」


「…人に謝るなんて珍しいね。赤神さん。」


「…失敬。小さいころから悪いことしたら謝ることはちゃんと学習済み。」


「あのーさっきから俺のこと無視してませんか?お二人さん?」



会長が涙目でこちらに訴えかけているが素知らぬ顔で、俺は森重くんの元へと向かった。

彼は全身を酷く震えさせて、歯もガタガタ音が鳴っている程の怯えようだった。

…この先に一体何があったというのだろうか。



「…もりしげたいきくん、だよね?」


「…………。」



声には出さなかったが、彼は微かに頷いて肯定の意思を表した。

確かに酷似していると思った彼はやはり『森重大輝』のようである。

しかし問題はここからだ。なぜ彼が道のないところからこちらに逃げてきたか、なのであるが…



「…何故こちらに逃げてきたのか。今はなせる?」


「…えっ!?えーと、それは、あれ、怪物が、で、門に、入れ、追いかけて、で。」



断片的に出てくるのは意味がありそうでその実単体では意味の分からないものばかり。

無理もない、先程まで怪物たちに追われていたみたいだし、この惨状を見て心穏やかなのは多分誰もいないことだろう。(ちなみに俺の今の心境は『何も感じない』が正解だ。長年こういうことをやってきているので最早一つの「作業」みたいなものなのだ。)

…これは少し彼が落ち着くまで時間を置く必要がありそうである。



「…会長?」


「分かっている。一時彼が落ち着くまで休ませる、あちらに他の同級生もいるかもしれんしな。今は情報がほしい。」


「…了解。」




俺たちは森重くんが落ち着くまで一旦あちらの班のことは据え置いた。

確かでない勘より確かな情報を求めていくべきだってどこかの誰かが言っていた気もするしね。

そんなこんなで体内時計で30分ほど、彼の背中をさすりながら徐々に調子を取りもどしていく様を俺たちは静かに待ち続けたのだった。










































「…まずは助けてくれてどうもありがとうございました。」




そう言って森重くんは丁寧に頭を下げる。

いつもの生意気極まりない彼なら絶対そんなこと言わないだろう。

現に頭を上げた瞬間こんなの不本意だよと彼は不機嫌そうな表情をしていたのだけど、お礼はしっかり言ってくれたのだ。

であるならこちらもそれに答えなくてはならないよな?




「…気にしないで。同じクラスの仲間なんだから」


「…お礼がいえて、偉いでちゅねーおかっぱ。」


「ばっバカにしてんのか!?この暴力剣士!」




…まあ俺が折角カッコいいようなこと言ったのに赤神さんのおかげで台無しではあるが、俺ちゃんとお礼返したからね?

一緒にしないでよ?棒読みで悪態をつく赤神さんとは何があったかは知らないけどさ。

今にも噛みついてきそうな彼を宥めるようにして、俺らは本題に入った。




「…で?なんで君はあっちの方から逃げてきたんだい?あちらにも他のみんなはいるの?」


「…他のみんなというか3人かな?あっちにいるのは。分かれ道で大多数の人が右に進んだからねぇ。僕らみたいな左にわざと進んだ組は数少ないよ?」




やはりというかやっぱりというか多数の人はあちらの班の方に向かっていっていたらしい。

…ま妥当だわな。どちらかと言えば右の方が道が小奇麗に整備されていたからね。人里がある可能性もあるわけだし

選択としては間違っていない、左へと足を進めた方が逆に曲がった性格であると言える。


しかし結局あちらの班とは連絡がつかない状況であるし、案外あちらの一見安全そうな進路の方が罠だったのかもしれない。

それなら大勢の同級生たちがトランシーバーで言っていた通り『建物』に全員監禁されてる、もしくは殺されていることが簡単に予想される。

一体彼らは何をしようというのだろうか?

ゆくゆくは奴隷として売るつもりなのか、それとももっと他の大いなる犠牲を払って行われる何かにイキニエとして捧げるつもりなのか…少なくとも現段階では何とも言えないのは確かであった。




「…ぼっ僕はその、助けを助けを呼びにきて、、けっけして白い怪物から逃げたわけじゃ。。。」


「…白い怪物?」




俺は怪訝な顔で森重くんを見やる。

彼の顔には明らかな恐怖の表情が浮かんでいて、見る見る青くなっていくのが分かった。

それはその『白い怪物』ってやつの所為なのだろうけど、色だけじゃその生き物の特定は難しいんだよ。

だからもっと詳しく聞こうと僕は身を乗り出した。



「そっそう、白い怪物。ここから30分位かな?歩いたところに目の前の黒い霧よりさらに濃ゆい、まるで闇そのもので閉ざされているような、そんな場所に出てね。そこで僕たちは見たんだ。”白い怪物”を」



俺が近づいたためか、かなり嫌そうな顔をされて後ろに一歩下がった彼は全身を身震いさせながらそう答えた。




もしかしたらその闇のようなものは、結界なのかもしれない――――――今まで531回の異世界を経験している俺はそう位置づけて、さらに森重くんの話を聞くと彼は森に入ってからのことを淀みなく答えていった。

以下は彼の証言に基づいて、俺が整理した状況の報告である。





森に入ると『ペラルス』と名乗る研究服を着た男がいきなり現れ、安全な所まで僕たちを案内してくれるらしい。僕たちはそれに乗った。

どんどん森の中に侵入していく中、流石に不審がった同級生達(彼曰くクソ野郎共)がどこに向かうのかとしつこく聞いてみたらしいのだが『ペラリス』は返答せず。

とうとう分かれ道に差し掛かり、まあ『ペラリス』のことは不審がっていた一同だが、怪我をしている者もいるため最低限治療することができるだろう場所へ彼の導くままに右の道を進む。

…と見せかけといて彼の注意を完全にそらして、奇跡的に無傷だった6人が左の道へと静かに逸れた。

左の道に入るとすぐ黒い霧の森が姿を現して、全員驚愕したが奴らはこちらにこれないのだと分かり、他に安全で休めるところはないかと辺りの森を探索し始める。

一時間後、先に言った闇が横一線に敷かれている平地を発見。

近づいてその闇のようなものに触れようとした瞬間、突如”白い怪物”と評すまるで二足歩行で歩く竜のような怪物が地面から出現する。

慌て返った一同がなんとか勇気を振り絞り特攻をかけたが、簡単に避けられて特攻をかけて近くにいた二人が怪物に掴まれて握り殺された。

それを見た他の4人は『こいつには絶対に勝てない』と悟って四方八方に逃走を図ったが、”白い怪物”が何か囁いていると思った瞬間さっきいた無数の怪物がまたもや地面から出現。

それに追われて僕はここまでなんとか逃げてきた。



というわけらしい。

嘘みたいな話かもしれないがホントの話ダヨー

現に彼は今も泣きそうな顔で唇を噛み締めながら、言っているのだから。

そんな彼の真摯な姿を見ていると、これが『冗談』ではないことは誰にだって分かることだ。

だからこそ今俺らは決断に迫られていた。



「…どうする?会長。」


「ふむ。右の道に戻るか、このまま進んで怪物に追われているだろう3人を助け出すか。。。」



会長はメガネを外し、目頭を押さえて上を向く。

…これは難しい問題だ。

確実に3人を助けるか、多分敵の本拠地であろう建物にこの4人で突っ込むか。

正直このまま赤神さんと俺で、大体の怪物は殺れるはずなのだが相手には知性を持った人間がいる可能性がある。

どう転がるかは俺にもわからない。

だからここは出来るだけ人数を増やして、行動のレパートリーを、戦力を増やすべきじゃないかな?

俺はそう思うが、どちらを選んでも最善手とはとても言えない厳しい状況だ。

…さて会長はどうする?



「…3人を助ける。」


「ああ、その方がいいかもしれん。現在出来るだけの戦力は整えておきたいものだからな。」


「…それじゃあ早くしないと、ね。」


「そうだな。彼らの命が危ない。」




俺が足が思うように動かない、腰の抜けた森重くんを担ぐことに決め(森重くんはかなり嫌がった様子だったが、時は一刻を争うのだ。悠長なことも言ってられないと無理矢理俺は担いだ)早速俺らは彼らが逃げたであろう場所に森重くん先導の元急ぐ。

彼らのために俺らは駆けて、彼らが生きてることに俺らは賭けた。

…どうか無事でいてくれ。安藤清詞あんどうきよし

俺は3人の中に含まれている幼馴染であり、唯一の小学校からの友人の名前を思わずそう呟いてしまわずにはいられなかった。





ショタがキタコレ!

いやだから何だと言われても困りますが






次回予告

3人のうちの一人早乙女愛華さんにスポットを当てて話を進めたいと思います

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