フラムとグリュンは姉妹。
今回はかなり短いです
ファルベ大教会、いや元ファルベ大教会と言った方が正しいのかもしれない。
綺麗に整頓された座椅子も天井のステンドグラスも全てはそこにあったと言うだけで破壊の限りを尽くされている。
少々暴れてもよいようにわざわざ最高強度を誇る物質で構成された物をここには置いていたらしいが、それには関係なく嵐の過ぎ去った後のように見えるのは何の冗談か。
壊された教台は横倒しになって二つに分けられている。
しかしそれだけしか今の現状で座れるものはない。仕方なく俺は固く冷たい台の上へと腰を下ろした。
「…それでは早速、この状況についての説明をお願いできますか。姉さん?」
仁王立ちでこちらを睨むフラムと呼ばれた金髪シスターは姉と呼ぶグリュンに説明を求む。
グリュンは仕方なくと言った態度で目の前にいるのはこの世界を救った英雄とされるシュバルツだと告げる。
彼女は目を見開き、マジマジと俺の顔を穴が開くほど見つめた。
まるで蛇のようにぐるぐると俺の周辺を回りながら、隅々まで見ていくさまは見ていてとても愉快だ。
だがそれも仕方ないことだと俺は思う。自分たちの信仰していた神がここに存在する。
そんなことすぐに信じることなんて出来やしない。半信半疑の顔を隠すことなく、ついに彼女は自らの姉に耳打ちをした。
「…本当なの?この方がシュバルツ様だなんてとても信じられないのだけど」
「神のお姿を見たことないでしょう貴方が判断できることではないわ。それに多分だけど貴方の見ている神はまやかしよ。」
まやかしと呼ばれた当の本人は、今までかけてあった『認識阻害』が未だに効いているのだと瞬時に判断した。
どうやらグリュン以外には普通の人としてしか認識されていないらしい。
俺はどうするか少し迷い、まあここまで来たのだからいいかと『認識阻害』の技能を解いた。
するとさっきまで疑惑の目を向けていた彼女はその場に尻餅をつく。
口は開きぱなしとなり、彼女はあほ面を晒す結果となったがこの反応は実に正しい。
これまでの世界でも初対面では大方このような感じであった。
曰く人ならざる神だの、神秘的な大パノラマを見ているかのようだと口々に俺の印象を伝える。
そこまで言われると嬉しいんだか悲しいんだか、結果俺との距離は開くばかりである。
出来れば知られたくないと言うのが本音、しかしこの場ではもはや意味をなさないだろう。
俺の素顔を知るグリュンが傍にいる。それだけで結局は暴かれてしまうのだから。
「わわっ綺麗な人!とても人間には見えませんよ」
「…そりゃどうも。」
「わわっなんて素敵なお声!流石シュバルツ様は偉大ですね!」
途端彼女はこちらをあからさまによいしょし始めた。
俺がシュバルツであると納得したのだろう。腰を抜かしたままの彼女はそのまま土下座の恰好へと移行した。
「すみませんでした!貴方様を疑いなんて恐れ多い。今すぐ私はこの場で命を捧げるほかありませんね!」
おいおいおいおいおい、彼女は自らの命を絶とうと詠唱を開始する。
その言葉を勿論俺は理解しえた。
内容としては祝詞、この世における命の祝詞を遺言であるかのように並び立てている。
このままでは本当にやりかねないと俺は強引に止めに入った。
「…おい、このようなところで死なれても困る。命は大事にしろ」
「ななななんてお優しい。流石は我が国を救った神。慈愛で満ち溢れていますね」
土下座したままの彼女から尊敬のまなざしを受けた。
キラキラと潤む瞳からは純粋な信仰心しか映さない。これは困ったと神と呼ばれる俺は頭を掻く。
第一この場に訪れたのは昔の俺を信仰するなどあってはならないと思い至ったからである。
神なんて大それた者ではけしてなかったのだ。ただ自分にやれる精一杯をやって、結局は最悪の展開を導いてしまった子供。
それがもうずっと昔に感じる当時の俺だ。正義の本質にも気づかずにいた哀れな放浪人。
救いの手を差し伸べても結局は全てを破壊するだけだった自分。
何が尊いものかと、反発するのも仕方のないことだよな。
だがこの目を見て自分は間違っていたのだと訂正できようか。
純粋に憧れを抱いた女性を、惨たらしくも否定することなど俺には…
「当たり前のことを…フラム、貴方はもう少し神の御膳であることを理解した方がよろしいですね。」
「ねっ姉さん…そっそうですね。私の態度は懐の広いシュバルツ様でもお許しにならないほど軽率な行動でした。深く反省の後、改めて挨拶させていただきます。」
こほんっと可愛らしく咳ばらいをした彼女は名乗りを上げる。
その声は繊細にして、よく透き通った綺麗な声。
先程俺の声を褒めていたが、彼女の方がよほどいい声であるとそう感じた。
「私はフラム=マクレール。ファルベ大教会の大司教補佐官にて其方におりますサキュ=マクレールの実の妹でございます。」
深く腰を折るフラム。下げられた頭は30度以上となり、中々顔を上げることをしない。
俺もいきなりの自己紹介に面喰ってしまったが、直ぐに我に返り自らも名乗ることとした。
「…俺はシュバルツなんて呼ばれていた唯の男だ。今はキューニェと名乗っている。よろしく」
何気なく差し出す手を、勿論彼女は受け取ってはくれなかった。
神にそんなこと恐れ多いと、頭を下げたままじっとしている。
頭を上げてくれとなんとか懇願して上げた顔にはなおも尊敬の色が消えてはいなかった。
「どうしましょうどうしましょう!姉さん、名乗られてしまいました名乗られてしまいましたよ!」
「…少々落ち着いてはどうですフラム?頭を冷やすため一時退席をお願いするわ。」
それもそうですねと輝くような笑顔のまま、彼女は去って行ってしまった。
何しに来たのだと言いたくなるが、彼女の信仰する神が目の前に現れたとなれば興奮しすぎて冷静な判断が取れないのも致し方ないかもしれぬ。
先程までいがみ合っていた二人を置いて去る彼女の後姿は妙に穏やかな気持ちになる。
グリュンの方をちらりと見るとやはり彼女も悪い気はしないのか、優しく微笑む姿が垣間見えた。
「…やはり妹とはいいものだなグリュン。」
「…えぇ少しばかり頭が足りませんけどね。大切な妹ですよ」
その横顔は今までグリュンを見てきた中で一番だろう優しく穏やかな顔であったと後に俺は語ることとなる。
次回予告
戦いが再開する、その余波はかつての王達を奮い立たせるには十分であった。




