久音とグリュンの戦い 序
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空気が淀む、今まであった物はその形を変えただのガラクタと化す。
辺りに木片が舞っていた。窓を開けてないと言うのに全てを切り裂く旋風が木製の床を等しく削り行く。
風の中心に存在するのは二つの大きな塊。巨大なエネルギーを発生させ、天災と呼ばれるものとそれは非常に酷似している。
だがその正体は人だ。片方は肩まで伸びる漆黒の髪を持ち、その恰好は何かの影であるように黒一色であった。
またもう片方は目が覚めるほどの濃緑を讃え、頭頂部に近い位置で結ばれた髪が風に揺れると共に身に着けた金色を示すアクセサリーが鈍い音を立てる。
両者はその場から一歩も動かない、いや動けないと言った方が正しい。
距離として1メートル弱の近距離と呼べる間合いでは複雑に絡み合う二人の軌道線が描かれていた。
一歩でも足を踏み入れば途端に吹き飛んでしまうだろう。軌道にぶつからない合間をかいくぐることは困難を極めた。
「…お先にどうぞ、ここはレディーファーストと行こうじゃないか」
「感謝しましょう神よ。だがこれで、終わりです」
男の方が気を緩める。先に言った通り一発の猶予を女性に与えるつもりらしい。
軌道線は消え失せ、全ての攻撃が彼に直撃すると予知される。
女性はそれを見て今まで吹き荒れていた風を一身に纏い始めた。
彼女は風使いである。数多の風は彼女の支配下にあると言っても過言ではない。
肌を切り裂く鋭い風が彼女の突き出す拳へと集まる。
一撃必殺、纏いし膨大な風を圧縮し繰り出す大技は天をひっくり返すほどの威力であった。
「…『狂嵐斬水』」
男の腹を貫いたのは風で威力を何倍にも増幅した拳である。
荒れ狂う風は凄まじい回転運動の後に、男の背後にあった巨大な扉を容易くぶち抜く。
新たに大きな横穴を作った教会は、一時の静寂に包まれた。
土煙を上げ、辺りは茶色に色づくがその中であってもしかと男の命は繋ぎとめられていた。
貫いたと思われた彼の胴体は赤く出血こそしていたが、それだけだ。
彼女は驚きを隠しきれない。
次はこちらの番だと言わんばかりに彼は膨大な雷を纏う。青に染まる雷が微かに残る椅子を穿つ。
破れた腹部が痛々しい、庇うようにして彼は立ち上がる。
瞬く間に軌道線が構築されるが、彼の腕はゆっくりと彼女の方へと伸びて行き――――
「…『光雷撃』」
その掛け声を持って彼女の体は後方へと大きく飛ぶ。
瞬間白く発光する電気が迸り、高圧電流により床が溶けてしまった。
残る周りの木材に雷は着火してしまい、火が上がる。
それを取り出したエキュロスカリバーンにて鎮火と追撃を試みた。
横薙ぎに払っただけの斬撃はこの大広間をぶった切り、教会に深い傷を作る。
生身の人間なら真っ二つとなり焼け焦げてしまうだろう攻撃も、やはり無傷でいる彼女はそれだけで強さの証明となりえた。
先程まで綺麗なステンドグラスを天井に張り巡らせ神秘的な雰囲気を醸し出していた教会も、既に何十年も放置されたかのような廃墟と化している。
瓦礫の転がる中、不敵な笑みを浮かべるのはどちらの人間であろうか。
力を思う存分に振るい、戦うと言うのはやはり良いものだと久音はそう思った。
「…なるほどやるな。流石はグリュンと言ったところか。」
「少々危なかったですけどね。神の一撃はやはり重い、私の『知識』も貴方様の前では赤子の手をひねるより簡単に打ち砕かれることでしょう。」
未だにこちらを神と崇め奉る彼女には辟易とするが、久音は新たな武器を取り出す。
『光聖護衛七刀』、光を纏いし小刀の様を取る伸縮自在の武器。
神をも蹴散らし何であろうとそれが所持者の『害』であると認めたなら切り裂ける。
正しく最強の刀と誉れ高い代物だ。間違っても小物相手には使わぬし、切り札にも近いものであるからこれまで秘匿とされていたものである。
それを彼はエキュロスカリバーンと共に二刀流として使う。
彼の周りには未だに磁場を形成しながらも、暗い影が潜む。
全てを飲み込まんとする闇が世界を侵食し始めた。
相手をするグリュン、現在のホフゥトゥ=マレリーンの額に冷たい汗が一粒流れ落ちる。
彼女のスキルは相手の情報や心理を『知る』事が出来る『知識』と風を操る『極風』のみ。
勝ち目など最初からなかった。神にも等しい男に勝てる手段など一つとして用意されていなかった。
だがしかし彼女にも意地と言うものが存在する。
過去を変えるため、自らの正義を通すと心に決めていた。ならば彼女に出来ること、それは一つしかない。
「…神よ、私は今から貴方に挑みます。どうかそれを許してほしい。」
「神ではない、よ。俺なんて全然神なんかじゃない、ただの泥臭い我儘小僧だよ。でも向かってくるなら、どうぞ。止めはしない」
彼は二つの属性の違う剣を振りかざす。
一つは漆黒よりも黒くその刀身も刻々と変化し続ける奇妙な刀、一つはこの世界を照らすよりもまだ白く発光した聖なる刀。
構えるは虎の構え、腰を出来るだけ落とし腕は顔の前で交差する。
隙間から見ゆる鋭く獰猛な眼はそれだけでこちらの戦意を削ぐのに事足りない。
その構えから出るであろう居合い切りは生半可な思いでは防ぐことも押し切ることも出来そうになかった。
しかし彼女の手は既に奥義の最終段階へと移行している。
精神を集中させ、漲る暴風を先程の拳に纏わせたよりも強く一つに圧縮する。当たればまずその肉の欠片一つとして残さず消失してしまう程の風が圧縮に圧縮を重ねていく。
彼女の目が妖しく光る。そのまま彼女は貫くイメージを被せて細く頑丈な槍を作り出した。
重さを感じない作られた風の槍に灰色が渦巻く。
彼女は笑みを浮かべる。渾身の力を込めた槍は果たして彼に届くか分からない。
だがこれが彼女に出来る最高で最悪の攻撃手段。受け止められたものはいるはずもなく、全てを消失させてきた忌まわしきスキルの果て。
風はけして自由にはなりえない。
そのようなこと、とっくの昔に彼女は痛感していたはずだったのに――――
「…こい、グリュン。俺は全てを、受け止める」
「はい、胸を貸してもらいます我が親愛なる神よ」
彼女は等々投擲に至る。
音もなりえず音速より遥かに超えた刹那の刻、風と彼と言う大きな力の塊がぶつかり合った。
突如世界は色のない時を刻む。全てが虚無と感じる永遠とも感じる時間は過ぎ彼女は見る。
無傷の彼を、風を切り伏せる絶対的な強者をその目に焼き付けた。
彼女は彼が完全に体制を整えるよりも早く離れた距離を詰める、風の槍では彼を倒しきれない。
背後に幾重もの槍を作り続けながら超接近戦を彼に申し込む。
勿論彼女に得意な武器などありはしない。拳で訴えるのだ、その溢れんばかりの激情を彼にぶつけ続けた。
「…拳で語るとは、君はいつから武術家となったのか」
「戦いとは日々変化続けるのです。私がこうして貴方に仕えるのも、この拳に覚えがあるのも全ては進化ですよ」
彼女の怒涛とも言える拳は彼に反撃の機会を与えてはくれない。
隙のない連撃に対応するのが精一杯である。
ましてや僅かに出来る刹那にも満たない隙も後ろに無数に存在する槍を投擲され、反撃にはちょいと無理を生じた。
続いていく連撃に傷一つ追うことなく対応していく久音。
まるで埒の開かない闘争の果て、それはいきなり現れた。
「…姉さん、この有様は一体なんだと言うのです。少しやりすぎではないですか?」
呆れ顔をした女性、それは先程玄関にいた女性である。
玄関で見た金色に輝く髪も砂煙舞う戦場では色あせて見えた。彼女は目が完全に笑っていない笑顔でこう言ったのだ。
「取りあえず早く止めてくださいね。ここの内装にどれだけの労力とお金が考えているか。考えたことあります姉さん」
それは戦いを一先ず中断するには丁度よい障害であったと久音はそう感じたのだった。
次回予告
引き続き戦いをするわけもなく、多分説明とか色々入ると思います




