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説明回だと思ったけど違うのかい?

※ロクタヌ(白の王)視点です

一人の男がこの部屋から出ていった。鋭い眼光、恐怖を具現化でもしたかという禍々しい雰囲気。

この部屋は今彼がいないと言うだけで数万倍空気が軽く感じる。

緊張の糸はようやく解けて俺様―――ロクタヌ=ラグウンディにもようやく安息の地となりやがった。

思わずソファーへと深々と埋もれてしまう。そこに目の前のウザい野郎の声が囁かれる。



「…どうした第一支部支部長殿?お疲れのご様子、何かあったのか?」



嫌味ったらしく笑みを深める第二支部特殊部隊隊長モルナ=リズフィード。

こいつは何も感じなかったのだろうか。あれほどのプレッシャーを直に浴びて平気な顔をしていられるわけもねぇだろう。

あれは正しくこの世の根源たる悪だ。

空間を捻じ曲げ、世界を破滅へと導く破壊神に他ならならねぇ。

俺様は生前やつとは面識があった。当時のあいつはまだ10歳に行くか行かないかと言う子供である。

正義に燃え、人を助けようと無茶ばかりを起こすどうしようもないお人よし。

それが今までの印象だ。しかしどうだ、先程までいた奴とは余りにも違いすぎる。

なんていうか、纏う空気が重い。こちらを射殺さんとするものだ。

ありゃ人が避けて通るのも仕方ねぇことだろうよ。あんだけこちらを殺しかねん怪しい黒装束をしていたら尚更だ。

俺様の手は今でも小刻みに震えてやがる。あいつの気にやられたんだ、ボロが出なかったことだけが幸いだぜ。

でもその情けねぇ姿をこいつに察せられるのは少々癪に障る。俺様は何事でもないように手をひらひらと振るのだった。



「…なんでもねぇ。それより良かったのかよおい」



俺様も止めなかった、というか止められなかったわけだがあのままにして良いわけがねぇ。

鉄砲玉みてぇな性格が未だ矯正されていないことに少し安堵もしたが、あいつが向かおうとしている大教会とやらは色々とめんどくせぇ場所なのだ。

この国にいる種族は全部で8種族いるわけだが(『人族』『悪魔族』『竜人族』『獣人族』『エルフ族』『魚人族』『鬼人族』『妖精族』である)その大半の種族が信仰しているのが奴が向かったバルツ教。

最大勢力を誇る宗教だ。よってその内部にはドロドロとした闇が広がっていやがる。

しがらみだらけのしけた団体だ。一筋縄では会うことすらできずに、寧ろ世界から迫害されかねない。

例え崇め奉る本人様であろうと、姿形の伝わっていないこの後世代によってそう易々と信じてはもらえねぇだろう。

都合よく直接グリュンの奴に会えれば問題ねぇわけだが、そんな簡単なことじゃあねぇよな。



「ふふっ私が止められるわけもないだろう?バルツァは酷く頑固なところがあるしな。」


「…まァそれについては否定する気にもならねぇがよ。」



結局は誰も止められねぇんだあいつを。

昔も今も真っ直ぐなほど真っ直ぐさ。愚直と言っていい。

それでここまで生きてきたっていうんだからいっそ笑っちまうわな。

しかしそれで話は終わらねぇまだ俺様には聞きたいことがある。

奴と出会ったという森での出来事については報告を受けている。秘密裏に派遣したヨウ=マツデラが功を奏したようで一先ず安心したが、まだ彼は戻ってきていない。

連絡も取れないし、ヨウと同行させた元暗殺者ミルティランヌさえその行方を完全に閉ざしたままだ。

それにこれは勘だがモルナはまだ俺様に隠し事をしている。それが善であるか悪であるか、見極めは未だつかないが確かめなくてならねぇだろう。

俺様は重たく感じるその口を開こうとして、逆にモルナへとその言を塞がれることとなった。



「まお前にはバルツァのことなどどうでもよかろう。お前が本当に聞きたいのはそこではないはずだ。私が今聞いてやろう、言え。」


「…なんでいきなり高圧的な態度になるかねぇ。やっぱお前は『紫鬼の虐殺姫』だなァ!」



ふてぶてしくも足を交差させるモルナの野郎に、先程の思考は全て消え去りただ俺様はキレちまったぜ。

先程は奴の気を紛らわすため軽い言葉の打ち合いで済ませていたがもう我慢ならねぇ。

表に出やがれッ今度こそ決着をつけてやろうじゃねぇか。



「…ほぅ表に出ろと?随分野蛮な支部長様ですね。234歳が聞いて呆れるわ」


「言ったな婚期逃しの20さんよォ!精霊族は元々長寿だって知っての狼藉と見える。よってお前は死刑決定だぜ元隊長さん?」



相手をけん制するように決して目を離さず構えたのは一瞬。

アイツは本気だ。俺様も手を抜くことなんて出来ねぇ。

瞬時に床に召喚陣が浮かぶ。俺様の手には一瞬のうちに出した白のガントレットがある。

そのガントレットに床の召喚陣と同じ青い線で無数の線が描かれていく。

まるでこれが陣の中心であるかのように、煌めくようだった。



「…てめぇはまだ鎧見つけてないんだってなァ。俺様の召喚で貴様よりつえぇ野郎をここに招いてやる。」


「ほう、ならば試してみるか。私の鎌が其方に届くか否か、勝負だヴァイス。」



今にもその鎌を俺様の首元に突き立てようとするモルナ。

俺の手には七狂王鎧セブンスフィアアルミュールヴァイス』の一部が存在している。

これだけじゃあ俺様のスキル『英雄ヒーロー』の手助け程度にしかならねぇが、今はそれでいい。

とびっきりの英雄をここに召還してやろうじゃねぇか。精々吠え面かきやがれヴァイオレットォォ!



「いでよ我が英雄、『騎士王アーサー』よ!!!」


「っさせてなるものか!」



神速にも等しい鎌が俺目掛けて振り下ろされた。

風が唸り、その刀身は余りの速さに俺様にも見えない。だがしかしそんなこたぁ関係なかった。

金属と金属の触れる激しい音がこの部屋に鳴る。次いでモルナは後方へと退く。

打ち合いをせずに退避するとは奴らしからぬことだったが、この場では仕方ねぇことだろう。

目の前にいきなり現れたのは金色に輝く髪を束ねる騎士、その眼光に周囲の温度は0度を下回ったかのようだった。

かの王は勝利を約束された剣を振りかざす。無言の攻撃、それはモルナの薄皮を掠め取った。



「…まさかアーサーを一発で呼ぶとはな。流石だと言わざるおえまい。」


「ははっまあそう褒めてくれるな。これでも多少の無茶はしてやってんだからよォ」



俺様の視界で頬に軽く切り傷を作ったモルナが尚も鎌を向けている。

騎士王アーサーは既に半透明となり霧消してしまっていた。…これだから英雄ランキング上位の野郎は、扱いが難しいぜ。

俺様は大したダメージも与えられなかったことを憎々しげに思いながら、次の召喚準備に入った。

このスキルは名の通り英雄を呼び出す召喚術である。英雄は神をも越えた『システム』と呼ばれる場所にデータとして保存されているのだ。

そこから俺様は無断で英雄を拝借して現界させる。『システム』のセキュリティが固いほど強い英雄となり、モルナに勝つには数多の世界においてトップ30に入るアーサーを持ってきたわけだが…



(つかえねぇな。ガントレットだけで上位の英雄様は無理があったみてぇだ畜生め)



俺様は手に持つ光沢のない白を掲げるガントレットに視線を送る。

大部分の鎧はここには存在しない。『アポピス』の手に渡っていた。

…たく俺様のいない600年近くの間に、めんどくせぇことになりやがって。

まあ俺様の『ヴァイス』だけじゃねぇ。他の七狂王鎧セブンスフィアアルミュールも同様に何処かに消えてしまっている。

アポピスにあるのは俺様の可愛い部下たちが命からがら持ち去った情報によると『ヴァイオレット』と『ヴァイス』だけだという話だがそれもこの状況下。どうだか分かりゃあしないな。

だからガントレットだけでももぎ取れたことを今は感謝している。

対してモルナの野郎には何もねぇから、こちらが優位なのは当たり前だ。

勝ってやるぜ、1000年前の戦いに勝ち星をつけさせてもらう。



「…いでよ『無名ザノーネイム』」



俺様が唱えると出てくるのは人型の黒靄。

それは英雄になり切れなかった者たちのなれの果て。正義をその身に宿したスキルはそのままに多種多様の攻撃を可能としていた。

しかもこいつは『システム』でも特にセキュリティが設定されていない存在。

現界させるのも容易く、扱いやすい。モルナに与えた4人の英雄もそういった類の者である。

実際彼らはモルナの寝首をかこうと思って送ったのだがな。彼女のスキルによる拘束具にてこの世界に繋ぎとめられたうえ、忠実なる隷となってしまったのだから世の中分かんねぇもんだぜ。



「またそれか。そろそろ飽きてきたぞ、時には他の英雄でもよいのではないか?」


「へっ言ってろ。未だに攻略しきれてねぇくせによォ強がってんじゃねぇぞモルナッ!」



黒靄は腕とみられるひょろ長い靄を振り回し、彼女に連打を浴びせる。

モルナの姿が見えなくなるほどの手数に少々押され気味であった。辺りは煙を上げて木片やら机の破片が飛び散る。

先程までいた簡素ながらも整われた部屋から一変してしまった。廃墟のように物体は全て原形が分からなくなるほど朽ちてしまう。

床や壁が破壊されないのが唯一の救いか。しかしそれも時間の問題だろう。後はモルナの体力がなくなるのを待つばかりだ。



「ざまぁねえなモルナッ!これ如き簡単にのしてみやがれってんだ。」


「…ほぅよいのか本当に。」



声が聞こえた。まだ少しばかり余裕のありそうな声である。

俺様は軽く舌打ちし、無名ザノーネイムを更に呼び出すと、蠅一匹逃しはしない陣形が整えさせる。

彼らの殴打は最早風と同義。避けることなど出来やしない。それらがモルナの体に無数に突き刺さった。

最早動けはしまい。俺様は勝ちと見ていつも持ち歩いている白いレースのついたパラソルを開く。

くるくるくる回すと茶色い殺風景なこの部屋も少しはましになるだろうさ。

笑いがこみ上げてくる。とうとう勝てたのだと、勝ちを予言するに至った。

しかし後に続くのは底冷えしたモルナの一言である。



「…だから、それでよいのかと聞いているだろう?ヴァイスや。」


「っってめえいつの間に抜けやがった。全く気づかなかったぜ?おい」



声のするのは後方。振り向くと彼女はそこに立っていた。

対して殴打を浴びた形跡も見えず、また衣服は奴のいたときと一切変わらない。

そして首筋にはするりと冷たい金属の刃が突き立てられている。少しでも力を入れれば俺様の首と胴体は二度と会えなくなるだろう。

仕方なしに俺様は手を上げて降参とした。

それにモルナも応じて鎌を俺様からどける。今あるのは不敵な笑み、どこか不気味ともいえる嫌な笑顔だ。

くそぉ今日も負けたぜ、参った参った。



「…ちっお前のスキル『心傷トラウマ』は反則だよなァ事象に関係なく結果を変えやがる。」


「いや、さきはちと危なかったぞ。スキルは精神的に不安定となるからあまり使いたくはなかったのだがな。」



そこに流れるのはただただ心地よい達成感。

先程まで腸が煮えくり返る思いだったのが、水へと流れてしまったかのようだった。

俺様は不本意ながらもモルナの方を見上げた。

彼女の身長は平均的な人族よりも少し大きいぐらいだろうか。対して俺様は精霊族で所詮9歳程度の子供と同じ身長である。

子供と大人位の差がある。それを対等だと見るのはあまりいねぇだろうな。

しかし分かる者には分かっちまうんだ。慎重さなど関係ない見つめる二人の確かな絆ってやつが、な。



「…ヴァイオレット様、ヴァイス様。またやってしまいましたね。これどうしてくれるんですか!」



今までどこにいたのかはわからねぇエウノミヤが若干涙目になってこの惨劇の舞台を指さした。

うん、まあこれはいつもながらひでぇ有様だなこりゃ。



「ううっこれだから来賓室であるというのに高価な物が一切置けないのです。きっとマスターもこの部屋の殺風景さに失望してしまったことでしょう。ううっもっと私が私がしっかりしないと」



壺でも割れたのか陶器の欠片をかき集めるエウノミヤはぶつぶつと呪いを囁いている。

悲壮感たっぷりのその後姿に多少の罪悪感が芽生える。

…でもまあこの部屋は元々俺様の部屋だし?どうしたって俺様の思いのままだろうが。



「…仕方ねぇ少し手伝うか。おいお前も手伝えよモルナ?これは最後の支部長命令だ。」


「おいおいここで最後の命令を使うのか。私は関係ないのに少し不公平ではないかな。」



なんて言えるはずもなく、仕方なく掃除を手伝い始める俺様はモルナも巻き込んでやったのだ。

これで少しは不機嫌そうなモルナの顔も見られるというもの、いい気味だぜ。



「…それで説明はどうしますか。ヴァイオレット様に説明したところで、知っている情報しかないのですが。」


「ん?ああそれか、それならよい。私が今晩ゆっくりとバルツァに添い寝しながらでも教えてやるからの。心配はないぞ」


「いやァある意味心配じゃねぇかそれ?」



冗談めいた会話ながらも、現実は変わりはしない。

説明に設けたこの席は無駄となったのは真実だ。

確かにモルナから全て説明してくれるのならこれほど楽なものはない。

元々彼女もやりたがっていたのだ。それをこうして連れてきたのはただ俺様とエウノミヤに合わせると言う理由が八割ほど入っていた。

ではどうするか、このままめんどくせぇ職務に戻るっつうのも億劫だしよ。

だったらあれ、あれだよ。あいつらに説明とかすればいいと思うのだがどうだろうお二人さん?



「…奴の連れてきた何?4人組?にでも説明してやるかい。あんま気は進まねぇがな。」


「…そう、ですね。彼等も何も知りません。色々と知る必要があるでしょう。」


「私も賛成だ。何も知らない奴ばかりだとやりにくいばかりだからな。同行もしようではないか、その方が彼らも休まる。」



なんか3人の意見もあったので俺様達は出向くことにした。

今頃検査も終わっているはず。彼らは知らなくてはならない。

この世界の現状を、敵を味方を、そして1000年前に存在していた俺様達七人の狂王を。

認めなくてはならない、彼らの知らないシュバルツがそこにいたのだという確かな事実を。

そして目を開いて直視しろ。非現実的な現実、その全てを。

二人に説明なんて出来なかったんや…次こそ、次こそは!

分かりやすい世界説明となっているはずですよぉ

よろしくお願いします

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