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白の王とエウノミヤ

「…まァ遠慮せずにそこに座れや。募る話も沢山あるからな。」



俺は元白の王である目の前の少女に促され、モルナと共に大きなソファーへと腰かけた。

重厚な扉の向こうは至って普通の来賓室であったようだ。

人ひとり横たわれるだろう大きな机に広々と五人程は座れるだろう白いソファー、床には異様な形を模した絨毯が敷き詰められていた。

そこにいるのは元白の王に元紫の王、俺が元黒の王であるからここに3王がそろい踏みと言うわけである。

俺はそれを非常に感慨深く思いながらも、目の前の彼女が不器用なリにも入れたであろう粗茶に口をつける。

暑すぎることもなく、かと言って冷めているわけでもない。俺は味わうようにしてそれを飲み干すと目の前の勝気な少女に話を促す。



「…それで?君も転生したようだけど俺に何か用なのか。」


「そうさァ。今日はあんたに用があってきた、といってもここは私の庭みたいなもんだけどなァ。」



ふんぞり返って鋭くとがった八重歯を見せる彼女。

純白で光も透ける髪に彼女の真っ赤な瞳が映える。

後ろで何重にも編まれた髪が楽しげに揺れた。

そんな彼女の姿に俺は昔を思い返す。

彼女が王である前の記憶だ。一面銀世界である『白ノ国』は命を感じない死の土地であった。

生き物が生きていけないほどの過酷な環境、いるのはここに送り込まれた死刑囚達くらいだろう。

彼女はそこで異端とされた囚人であったと聞く。彼女の力は異質であった。

魔法もなく特別な力など使えないはずのこの世界で彼女はついに王にまで上り詰める。

死ぬ定めであった少女は、反旗を起こし皆から崇められ再び生を受ける。

そう考えると今こうして向かい側に座り偉そうにしている彼女のなんと数奇な人生であろう。

けして人のことは言えないが、少なくとも普通の人生であるとはいえないだろうな。

俺も、彼女も、そして隣に寄り添い座るモルナも皆運命に翻弄されている道化人。

滑稽にもこうして三人は再び会いまみえる。それにどれほどの意味が込められているのか今の俺には理解することは出来ない。




「黒聖警軍第一支部長の貴方ならそりゃそうだろうな。ここを自由に使えるのって白髪頭のおいぼれさんだけだから。」


「つれないねぇモルナ第二支部特殊部隊隊長殿?あんたがその地位についたのだって俺様が口添えしてやったからじゃねぇか。ちぃーとは有り難がってもいいだぜ?」


「…その節はどうも、でも私は今日かぎりでその任も降りる。これで貸し借りはなしのはず。」


「へぇそうきましたか。そもそもあんたの従者を召喚したのは俺様だぜ?その件についての貸しはまだ払われていないはずだがなァ。」




ケラケラと意地悪そうな笑いを浮かべる元白の王。

話を聞いてみるとどうやら彼女は黒聖警軍第一支部長となり、モルナを隊長へと押した張本人のようである。

更に彼女の力によって召喚された兵をモルナに授けていると。

これは生前の彼女たちの関係を知る俺には信じられないことだった。

そうモルナこと前世バイオレット=ジ=トレスティナは、白の王ヴァイス=ク=ブレッヒェンに過剰な敵対心を持っていた。

バイオレットが何故そこまでヴァイスを目の敵にしていたのかはわからない。

しかし彼女がバイオレットの両親を殺した元締めだと分かるとバイオレットは単身『白ノ国』へと渡る。

『白ノ国』で行われたバイオレットとヴァイスの戦いは熾烈を極めた。

元々ヴァイスは自ら戦闘するタイプではなく、死体を操るネクロマンサー。

対してバイオレットは肉弾戦を得意とする接近戦のエキスパート。

数で大いに勝るヴァイスは高みの見物。お気に入りだったのだろうフリルをふんだんに使われた傘をくるくると回していた。

俺は勿論途中でバイオレットと合流し、加勢をする。二人で幾人の死体を切り刻み、潰し、破裂させる。

等々一太刀を浴びせられる距離を作り駈け出したバイオレットを止めることもままならず彼女は、相打ちになる形でその鎌をヴァイスに叩きつけた。

両断されるヴァイスの体、バイオレットの体には心臓を突き刺さったままの聖剣が存在していた。

二人は最後の最後まで分かり合うことはなく、その身を散らせたはずだった。

何があったのかはわからぬ。ひょっとして転生をした彼女たちだからこそ分かるものがあるのかもしれない。

どちらにしても仲が良くなったことは素直に喜んでもいいことだろう。

俺は彼女たちの話を無言で聞きながらもそう感じたのであった。












「まァひとまずこの傲慢野郎のことは置いといて、だ。」



モルナとの激しい口論は実に1時間の長丁場を迎えた。

そしてようやくこちらに話を振る元白の王に、モルナは何故か拗ねたような顔を見せていた。

喧嘩するのは仲良しの印だというが少々白熱しすぎであるな。

まあこちらに話を振るだけましか。このまま終わらぬ口論を見続けるのにも嫌気がさしてきたところであったし。

俺はようやく口を開く。その声は一時間も黙っていたせいか少々かすれた声となってしまった。

しかし内容は伝えられよう声量である。問題はないはずだ。



「…俺は、どうすればいい。」



強い口調でこの空間を支配する。

今までの少し緊張感に満ちた雰囲気はより一層締まるかのようだ。

俺の一言をどう受け取ったのか。元白の王は重々しく口を開いた。



「…気が早いぜシュバルツ。ちぃーと今のこの状況を説明ぐらいさせろって。」



光に反射し白く光る八重歯はまるで吸血鬼のようだった。

彼女の言うことも一理ある。俺も現在の状況を少しだけ耳に挟んだ程度だ。

それでも俺は構わない。どれが敵で味方であるか分かるだけでいい。

回りくどいのは少々苦手だ。直球で、分かりやすい物の方が好みである。

故に小屋での説明もショートカットでやってもらうようお願いした。

それは緊急を要する事態であったから、よかったのだ。

しかし今は違う。

すぐにでも残りの4人が死ぬなどと言う事態には至らないだろう。

このような時に今一度敵を確認すると言うのは大事なことなのかもしれない。

俺は元白の王に肯定を手を差し出すことで表し、先の説明をさせることとした。



「あいよ。まずはこの世界についてだ。この世界は俺様達が大活躍した世界の1000年後の世界である。おーけー?」



聞き返す元白の王に頷く。

人から言われると違和感も甚だしいが、どうやらこの世界が1000年後の世界だと認めるよりほかにない。

しかし瓜二つのパラレルワールドのようなところかもしれないではないか。

この世界が本当に自分たちが死闘を繰り広げた世界だとは限らない状況である。

むしろ何故その疑問を今まで感じなかったのかってことが不思議でならないぐらいだ。

でも間違いないのだろう。俺の勘がそう言っていた。

ならば正しい。自分自身を信じることにする。

自分を信じれない奴は他人も形容することは出来ない。

自論であるが、正しい理論であると思う。




「大活躍って…死体集めしていただけの貴方がよく言えたものだな。笑えてくるわ!」


「おうおう、流石亜人族を救った虐殺姫殿は言うことが違うねぃ。何ならあの時のリターンマッチを今やっちまっても構わないんだぜ?」


「それは宣戦布告と、受け取ってもいいのだな?」



またも視線で火花を散らしているかのようにお互いに敵意をむき出しにする二人。

また一時間と口論をされたらたまったものではない俺が間に入ることで制し、白髪の王に話を促す。




「…で、だ。お前がこの世界を去った後大変だったらしいな。世界がまた分かれようとしていたと聞いたぜ。」



顔を少々赤くして言ったその言葉に俺は顔を沈めた。

詳細は知らんが兎に角酷い内乱で荒れに荒れたのは間違いないだろう。

あの当時突如現れた元の世界へと帰る扉。

それに七人の仲間であった王達の死を憂いていた俺にとって、またとない機会であった。

内政にもすっかり憔悴しきっていた頃合いだったこともあり、当時別の世界で契約を交わしていた精霊族のエウノミヤに全てを託し去って行った。

彼女にはとても悪いことをしたと思う。

別の世界のことであるにもかかわらず、世界の命運を彼女ひとりに握らせてしまった。

正義だなんだと喚いていたころがどこか可笑しく思う。あのころの全ては自己満足だったにすぎないだろう。

それでも素直に従ってくれたエウノミヤに一言謝っておきたい。

過去に犯した過ち、それを全部許してもらえるとは到底思わない。

しかし彼女に課した義務は並大抵のものではないのだ。素直にねぎらいの言葉を変えるのはマスターとして、勿論それを抜きにした友人として極当たり前のことではないだろうか。

…まあこれもただの自己満足であると追及されれば、その通りだと言わざる負えないがな。




「…確かに、それを初めて聞いたときは無責任なやろうだなって正直思っちまったぜ。でもなァ本人を見ているとまあそれもいいのかなと思っちまうのがまた不思議なもんだぜ。」


「それには同意せざる負えないな。当人は至って幸せそうだからな、今も。」


「…本人とはエウノミヤは今も生きてると、そういうことか?」




俺は半信半疑に聞き返す。

エウノミヤは精霊族にして長寿、そんなことは分かり切っている。

しかし1000年という時が経ち、それでも尚彼女は生きているというのか。

その言葉を彼女たちは呆気からんと回答してきた。




「ん?そうだぜぇあいつ、今でも元気いっぱいって感じで働いてやがるよ。」


「なんだバルツァ。知らなかったのか?今も私たちの後方で控えているぞ。ほらあそこに」




モルナの指さす方へと顔を向けるとロングスカートのメイド服を着こむ彼女の姿を確認した。

この部屋の隅、気配を消し堂々とその場で直立している彼女。

最後に見たときと同じ黒髪のツインテールで褐色の肌を持つ見た目が10代後半ぐらいしか見えない美少女。

その深い青色の瞳がじっと俺から離れない。

無表情とは違う、どこか感極まって喜びを表現しようにもそれが出来ずにいるように見えた。

俺は彼女の元へと足を伸ばす。

それに彼女は怯えたように物陰へと隠れようとしたが、近くに人ひとりを隠せるところなどない。

すぐに逃げることを諦め俺の顔をじっと見つめている。

真剣なそのまなざしに俺は距離を縮めていく。その距離はあと一歩前に出れば触れられるそんなとても近い距離であった。




「…変わらないなエウノミヤ。今でも、その、可愛らしい。」


「あっありがとうございますマスター。マスターもその、とっとてもカッコイイです。」



初っ端話のきっかけを作ろうと褒め合う俺ら。

ぎこちない間が空き、今まで心にとめていた罪悪感が募っていく。

謝らなければ謝らなければ謝らなければ、そう思えば思うほど言葉とは出ないものだ。

緊張からかいきなりのことで驚いているのか、頭の中は空っぽになりうまく言葉に出来ない。

その様子を見かねたのか、モルナも白髪の彼女も近くによる。



「全く奥手二人だと話が進まねえなおい!早くちょちょいと謝っちまえばいいのによぉ。」


「…この甘い空間は耐えられない。私とならまだしも、早く用事を済ませよバルツァ。」



囃し立てる二人にようやく決心をつけた俺は素直に頭を下げる。

彼女の戸惑ったような顔が様子が手に取るようにわかる。

あたふたと顔を上げるようにとエウノミヤは懇願するが、そいつを聞くわけにはいかん。

言葉を綴ることにする。彼女を、犠牲にしてしまった事実を、謝罪するために。




「すまなかった。君一人ここに残すような真似をして、それにこの世界を任せるような重荷を背負わせてしまって。本当に、すまなかった。」



誠心誠意心からの謝罪である。

それに打算や下心などあるはずもない。ただ純粋に申し訳ない気持ちを表したものであった。



「やっやめてくださいよ!マスター。貴方は私にとって唯一従おうと思えた大事なお方です。1000年の時が何ですか、世界の命運が何ですか。そんなものこの忠義にかかればおちゃのこさいさいですよ。」



貧しい胸を張るようなそんな音が聞こえる。

彼女は強かった。思ったよりずっと逞しく、生きていた。

俺は安心して顔を上げる。彼女の輝かしいまでの笑顔が眼前には広がる。



「…エウノミヤは本当にそれでいいのか。契約だなんだと言っても結局は一時のものだったろう。それをこんな、1000年も守ることなど」


「はいはいストップ、ですよマスター。何度も言わせないでください。私は忠実なる貴方様の下僕です。この身が裂かれようともこの身が朽ちようとも貴方と共に有らんとした者。それを忘れてはいけませんよ?」




俺の弱音に返されるは彼女の力強い言葉。

それに虚実など混ざるはずもなく、心からの言葉であることは一目瞭然だ。

輝かしいまでの彼女の信頼が、手に取るようにわかった。

ならばそれに答えずして、何が契約者マスターか。

俺は彼女の頭に手を乗せる。そのまま優しく撫でた。

とても気持ちよさそうにするエウノミヤにこちらも嬉しくなると言うものだ。

少しだけ彼女に笑いかける。仮面から覗く僅かな微笑のはずだが、彼女には劇物だったか。

顔を赤くして下を向くも、逃げようとはせずになされたまま。

俺はさらさらと流れるようにきめ細やかな彼女の髪をより愉しむかのように撫でるのを止めなかった。



「…エウノミヤ、貴様羨ましすぎるぞ!私にも少し分け与えよ!」



モルナのそんな声が発せられるまでその時間は続いたのだった。

次回予告

続く世界説明回。

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