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異世界にはもう慣れました サウザンド!  作者: 八七月
第二章 魔人スーツ研究所
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既に手は打っております

目の前の建物は勢いよく全てを灰にせんとその身を燃え上がらせている。

火柱をたて3メートルはあろうかという大火災であり、半円型の灰色質素な建物は黒く煤けてその身を融かす。

建物の地下深くに『魔人スーツ研究所』と呼ばれるアポピスの兵器生産施設は存在していたのだが、今や跡形もなく倒壊してしまっていることだろう。

ある男と女の戦いの果てに、この長年秘匿されてきた研究所は破壊されてしまった。

最早その一欠けらさえ残すことなく灰になり、研究所にあった物は跡形もなく消失する。

それが一人の男の計画した出来事だと誰が考え付こう。

男は青色の衣服を着込み道化師のような姿でその場に立つ。

まるで目の前の出来事が娯楽であり心底楽しめるエンターテイメントであったかのようだ。



「…燃えてます燃えてます。いやはやここまで派手になろうとは思っても居ませんでしたよ。」



燃え盛る建物の熱気も届かぬ数百メートル後方に様子を伺う一人の男。

彼はこの研究所を完全に捨て駒として利用し、侵入者の力量を図っていた。

研究所員や人質全てを一つの醜悪なる化け物とした『タルモテヌールス』として戦場へと放ったり、最終兵器である『七狂王鎧セブンスフィアアルミュール』をわざとさらけ出してその反応をみたりと策を講じた。

その結果アポピスにとっても男にとってもかなり貴重なデータも取れたことだし、相手が元七狂王だと分かったこの男は逆にやる気となる。

全ては彼の掌の上、多少驚くべきことも存在していたが概ね彼の道筋は逸れることはなかった。

ここを焼き払うのも証拠隠滅の為、男がやった悪行を全て闇に葬り去る事が目的。

燃え上がる火の粉はたちまち周りの木々へと派生し、この森全てを焼き尽くすだろう。

男は笑いをこらえることは出来ない。くくくっと忍び笑いをするのが癖となっているようで、不気味な笑い声は木々の間を通り抜け森全体に広がるようである。

既に怪我も絶え絶えに黒聖警軍の皆様方はここを去って、1時間ほどだろうか。

彼女らが立ち去る直前今回の作戦で最も手強い戦力とされた白銀の鎧を纏いし女性。

彼女は元七狂王の一人、シュバルツによって抱きかかえられる形となっていた。

もし彼がその気であれば気絶した彼女を強制的に動かしてシュバルツを刺すこともできた。しかし彼はそれをしなかったのだ。

それどころか彼女を連中に解放し、彼女たちが森から立ち去るのをただ遠くから見つめるのみ。

何もしなかった、彼女たちに対してこれ以上の危害を加えることを彼は意識の外へと放り投げた。

それが不味かったのか彼にその行為の代償が今ここに償われる時が来ている。




「はいはい、手を上げてー素直にこちらに投降してくださーい。そしたら無用な怪我はしないで済むよー」



いつの間にか背後を取られ、男の首元には鋭く研がれた鋭利な刀を押し当てられていた。

その張本人にである男は素直に無抵抗であると示すため隠してあった小刀数本を落とす。

肩をすくめてそれでも余裕を崩そうとしない道化師の男は、楽しそうに見覚えのないだろう暗殺者に向かって話しかけた。



「…おやおやこんなところにまだ人が居たのですかな?誰もいないと思っていたのに、少し油断が過ぎましたかね。」


淡々と話す彼に暗殺者も言葉を交わさぬわけにはいかず、その軽い口を開いた。


「いやーえらくよっゆーだね!あんたっ刀を突き付けられてるのに調子いいじゅない?…あっさてはわざと余裕を見せてこちらをきょどらせる作戦かなー?でもそんなの無理無理無理なのだよ、私とこいつがいる限りそんなことぜっっったい許してやらないんだからね!」



耳に残る甲高い声が男にとって見えない後方から聞こえてきた。

とっても軽いノリで、頭弱そうな発言ではあったが男にとってそれは凶報に違いない。

仲間はもう一人いるという彼女の言葉を信じるならば脱出するのは並大抵のことでは不可能だろう。

さらに言えば遠くから彼が観察していた男、白銀の鎧を難なく着こなした彼女と競り合い引けを取らなかった緑髪のいけ好かない優男。

それであったとするなら彼に勝ち目などない。

彼女の言う通り投降する方がよかろう。それほど彼女たちの戦いは常人には理解しがたい別世界のお話ごとのようであった。

…ただし本当に彼が一人であったとするならば、だが



「…来なさい狂鎧パープル。」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」



彼が一言そうつぶやいたかと思うと、その場に一人の少女が現れる。

上から降りてきたのか下からはい出たのか分からない。

突如としてその場に現れた紫色の鎧を着た金髪美女、その眼は確かに暗殺者を捉えていた。

しかし未だに刀は男の首筋にピタリとついて、いつでも掻っ切れる位置。

いきなり現れた女性に驚いたものの、優位性は失われていない暗殺者に余裕はある。




「…はんっお仲間さんかい?でも残念でしたー君の仲間は未だ僕の手の中だよ!早々攻撃などさせ、な・・・」


「くくくっ誰が手の中ですって?お笑い種ですねぇ笑えて来ますよ。」



一瞬の隙もないはずの暗殺者からいつの間にか彼は数メートル離れた仲間の元へと移動していた。

暗殺者からは余裕が消え、ただ茫然とすること刹那の刻。

もう一人の仲間である男が登場する。その男の顔には怒りが隠しきれずに浮かんでいた。



「…四十九院つくしいんさん。あなたもか」



緑髪が土煙で少しくすんでいたが間違いなく先程戦っていた男である。

彼はまたしても知り合いを相手取るとして、少しやりにくそうだ。

握る拳も弱弱しく、その身は既に満身創痍か。しかしその眼はしっかりと青い道化師を睨みつけていた。



「おやお知合いですか?それではその顔に免じてこのまま逃げおおせても大丈夫ということで、よろしいですかな?」



「…いいわけないでしょう。赤神さんだけでなく四十九院さんまで!許せない許せないよ」



臨戦態勢に入った緑髪の男、しかし青い道化師はその場から動かず微動だにしない。

ただ腕を組んで偉そうにしている。あちらから仕掛けるつもりはないようだ。

暗殺者と男は目線を合わせて今度こそ確実に捕縛するようにと左右に分かれて走り出し、



「…その作戦ではパープルは止められませんよ?お二人方共」



狂鎧パープルによってその手を阻まれる。

手首をつかまれた二人、振りほどこうにも力が入らず段々と立っていることも億劫になる。

へなへなと座り込むフードを被り正体は分からぬ暗殺者。

緑髪の男は何とか抗おうと膝に手を当てて、食いしばることしかできない。




「…やはり私の目に狂いはなかったみたいです。よい結合ですよパープル、想像以上です。」



男は笑いもう用は無くなったとその場を立ち去ろうとする。

だが緑髪の男はこのままでは終われないと最後の力を振り絞り、疑問を口にした。



「そっその鎧は、一体、何の、力が。。。」


「ふーん気になりますか気になりますか?えぇいいでしょう教えましょう教えて差し上げましょう。もう隠す必要もなくなったのですからッ」



道化師に相応しくおどけた態度でくるくると回りだす男。

彼は語る、この鎧は七狂王鎧セブンスフィアアルミュールを超えんとした魔人スーツの更に上の選ばれし者だけが着れる鎧であると、その鎧は七狂王になぞらえて七つ存在し既に6人の適合者を確認していることを。

ようやく見つけた適合者、そうやすやすと逃がしはしませんよと死んだ目をした女性に腕を回す男。

男曰く念願は叶っただとこれで世界は『アリテルム』様の物になるのだと戯言を津々浦々語り継ぐ。

全ては愚かな世界征服の縮図を妄想する中学生のよう、しかしそれが本気で叶える力を彼らは持っている。

男は立ち上がろうとする。しかし彼の足はいうことを聞かず、立ったと思えばその場に倒れ込む始末。

瞼も下がってきて彼は強制的な眠りにつこうとしていた。

抗えど抗えど瞼は上がることはなく、男の最後に聞こえた声は耳元でささやかれた酷く耳障りな男の声だった。






「…あなたもいずれ分かります。だってあなたも選ばれし狂鎧ブラックの適合者なのだから。」





これにて2章は終わりとなります。


次からは第3章、よろしくお願いします!

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