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異世界にはもう慣れました サウザンド!  作者: 八七月
第二章 魔人スーツ研究所
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喧騒、ただ喧騒

黒い黒い何かが私の前に立ちふさがった。

それはまるで私の良く知る全身を黒で覆った彼のようで、でも全く違うのだということは肌をちりちりと焼くこの感覚で分かる。


「モルナ様、大丈夫ですか?顔色が優れないように思えるのですが」


一人の3mを超す巨体を私に合わせて屈めている従者は私を気遣ってそう発言した。

いつもは何の言葉も発することがないウラクテンだ。そんな奴に心配されるほど私の顔は青くなっているということだろう。…情けない。

このようなことがないようにと、いつも毅然として凛とした私であろうと努力してきたつもりだが無理だったわけだ。

私は怖い、闇が暗闇が怖い。何も見えなくなって一人であると再度自覚してしまうし何より、光の中の彼を見失うことが最も恐るべきことである。

…これは私ではなく、前世の私が体験してトラウマとなった心の傷。

乗り越えようとも容易に乗り越えることなどできはしない。

だからこそのスキルだともいえた、私のスキルは心の傷を具現化するというある意味苦しみの吐露。

究極的に恐怖を感じたからこそ、あれほどの『闇門』を発生させたと言っても過言ではない。



「…それでも彼がいないだけでこれでは、先が思いやられるな。」



私はこの黒い霧の立ち込める中、何とか自分を奮い立たせていた。

先程までなんとはなしに頼りにして隣にいた彼はいない。

恐怖で足が震え動かなくなってしまうのを彼がいるということで何とか私は普段通りを装うことが出来ただけだった。

彼は気づいてしまっただろうか?私がこれほどまでに脆く弱弱しい存在と。



「本当に大丈夫なんですか?モルナ様。少し休憩されますか?」


「いや、心配には及ぶまい。この時も皆自らの戦いに出ておる。私だけ立ち止まるわけにはいかんだろう?」



一般の『人間』より幾分か大きい巨体を小さくして私に休憩を申し出るものだから、私は毅然とした態度で彼の前に立つ。

彼には弱さを見せられない、彼の主としてせめて痩せ我慢でも地面にしっかりと足をつける。

だが地面の感覚はなく雲に足をつけているかのような浮遊感、目線も定まらない。

あちらの闇もこちらに迫りくるように濛々と滾っているかのようだ。肌を通り抜け、こちらを支配せんと恐怖で脳に焼き付ける。

だが私は前を向いた。それは私自身の意地でもあるし、何より愛しい彼への約束を守るため私は先に行かねばらないだろう。



「…よし、行くぞ。兵器を破壊して無事脱出する。それだけを考えてお前たちも動け、いいな?」


「「モルナ様の仰せのままに」」



二人は敬礼の仕草をした後、一足早く暗く雄々しい闇の中へと入る。

私も一呼吸おくと、その後を追う。薄暗い霧が張る森の中、一層黒いそれは侵入者をなんら拒むことなく受け入れる。

そして妙な感覚のままに落ちる、落ちる落ちる。

瞳は開けているのかそれとも閉じているのか区別もつかず、一寸先はどろりとこちらに吸い付く泥。

鬱陶しく感じながらも目指すは今回の目的である兵器、少しづつ手を伸ばしていってようやく掴んだものは果たして何か。

目的のものか、はたまた先に行ったはずの二人の従者であろうか、分からない。

でもわかるはずのないものというは、この私も同じだ。

何の因果か今まで経験した前世とやらを私は多く記憶している。

最も残っているのはこの世界の私であるバイオレットとしての記憶だが、他の記憶も多くそして濃く受け継いでしまっていた。

それを他人に理解しろと言っても無理な所業であるかもしれぬ。なんだか分からないもどかしさ。

…だが彼は受け入れた、私の話を信じてくれた。ならば私も進まないといけぬであろう。

まだ見ぬ道へ二人で向かおうゆっくりと、ようやく私はここから動き出すことが出来たのだから。














「…なかなか、手強い。」


「そうでしょうそうでしょう!何せ私の傑作ですからねぇ急ごしらえではあります、が」



俺は肉の塊としか言いようのない物体を右に受け流し、思わず自ら苦戦を認めてしまう。

目の前には先程から立つ様々な動物を飲み込まんとした人型の肉塊。

唸り声をあげて恨みつらみを募らせる。周囲には肉塊が放つ腐敗臭、思わず顔をそむけてしまうほどの悪臭で鼻が曲がりそうだった。

俺は易々と攻撃することも出来ずに防戦一方。偽物野郎はそれがおかしいのか甲高い笑いは続く。




「攻撃できませんかぁ?先程の威勢はどうしました、私を躍らせて見せるのでしょう?」


「…流石の外道、あいつを模倣しているだけのことはある。」


「くくっお褒めに預かり光栄です。」



肉片は空中に飛散し、しかし数秒後にはまた元の人型へと戻っていく。

自らの体を武器とした投げの一手は、それ森を蹂躙とし接触した面は黒く腐敗する。

音を立てて蝕みついには倒木と化す。…まあなんと林業に役立つ武器なのだろうと他人事ながら感心してしまう。



「…これが恨みの力というやつか。反吐が出る。」


「そんなに褒められても何も出ませんよ?…いや、あなたのお仲間であった欠片はあげられそうですかねぇ?」



偽物は笑う、記憶の中の彼がしてきたように狂ったように笑う。

今いるのは偽物と人質とされた目白木くんと森脇くん、それと目の前の人型をしたピンク色の肉塊。

どくんどくんと真ん中にとってつけたような核で心臓のようなものの鼓動がこちらまで聞こえてくるが、俺はそれを悔しげに見つめるだけだ。

この肉塊は―――――俺たちのクラスメートが混じった紛い物。

所々に浮かび上がる服の切れ端、髪の色はどれも俺が既視感を覚えるものばかりで、、、目を背けてしまうのも無理らしからぬことだろう。

あれは現代日本で一緒に勉学を共にした仲間、クラスメートの死体がはたまた多くの人間が集合してできたものだ。

そんな肉塊から拙い日本語で微かに聞こえるは「たすけて」「しにたくない」の言葉のみ。最早このままこのままあいつを殺してしまった方が楽になるのではないかと考えてしまうほどである。

…そんなことは俺の性分上、出来たためしはないが




「ほらほら、そんなに悠長に構えていても私の可愛い実験動物ちゃんに食われてしまうだけですよ?さあもっと醜く抗うがいい!黒髪の少年さん?」


「…どう、すればいいんだ。」



肉塊から飛び散る欠片を避けながら俺は考える、この仲間を助け出す方法を、俺は未だに思考する。

何か、何かあるはずなのだ。彼らを救いだすとっておきの裏ワザって奴が、どこかに転がっているはずだ。

探せ探せ探せ探せ。。。



「いい、いいですよ。あなたみたいな特別な力を持っている者を私の持ちし最高の力で倒す。…なんて心の踊る光景でしょうか。思わず体を動かしたい気分ですよ。」



機嫌が最高潮に達したピエロは道化師らしくおどけてみせた。

…彼は直接こちらに攻撃することはせずに、本能のままに動く肉塊を相手にぶつけてきている。

ならば彼が指令を出してしているということだろうか。彼を倒せばクラスメートは少しでも救われるだろうか。

俺は跳躍する、肉の壁を越えて偽物に肉薄する。

彼は驚いた表情一つせずに俺に一つ手を叩く。そして彼は唱えた。失われたはずのあの言葉を。



「『七人はそして集い、盃を手に取り笑う、笑う、結託する。…神託ゴッドフェルエザンド』」



そして世界は眩いひかりで覆われた。思考は奪われ視力も同様、強烈な光が網膜を焼き切ってしまったかのように白以外には何も見えない。

まっさらな世界、一歩も動くこと敵わず俺は止まる。

時間の止まった空間は、ともすれば10分も1時間も経過したかもしれない。

しかしいずれにせよ徐々に開ける外の世界、そこから見えたものそれは…俺にとって見たくない現実そのものであった。
















森の中にポツンと建つ灰色の半球体型建物。

そこにゾロゾロと音も立てずに近づくは女ばかりで構成された15名の少女たち。

彼女たちは息をひそめてまるで軍隊のそれと見間違うほどに研ぎ澄まされている。

十秒とたたぬうちに彼女たちは建物内に侵入。暗号化されていた扉をいともたやすく解除する。

そして地下へと続く通路を発見し、警戒レベルはより一層高めながら突入。

たちまち辺りは視覚阻害効果のあるガスが放たれる。

聞こえるのは自らのガスマスクから聞こえる呼吸音、辺りは混乱する人の雑踏すら聞こえずに妙な静けさが漂っていた。



「…オールクリア。これより作戦を実行する。」



彼女たちの隊長だろうか、一人の栗毛の少女が指示を出すと素直に他の14名の少女たちは散り散りとなる。

ここの施設全貌についてはある程度調べがついていた。

どこにどんな部屋があるか、隊員の一人一人がしっかりと頭に叩き込んできていることだろう。

迷うことなく彼女たちは人質の囚われた牢へと直行する。

途中幾つかの罠が存在していたが、この程度の罠は彼女たちは全て解除するまでもなく強行突破出来た。



「…人質16名を救出。他の生存者の姿は見えません。」


「馬鹿な、少なすぎる。最低50名はいたはず、どこかに隠し牢でもあるのか?」



そして30分が経過して彼女たちは再び集合するとそこにいたのは、人質だったであろう16名の男女。

皆目が虚ろで服はボロボロ、体罰の後だろうか痛々しくも赤黒い痕が残ってしまっている。

だがこれではあまりにも少なすぎた。事前調査を行っていた隊員の報告によると少なくとも50を数える人々がここにいるはずなのだ。

それを半数も越えぬとは些か情報に不具合がったとみるべきか…いや、どこかに幽閉されているかもしれなかった。

彼女たちは再度研究所内を隈なく探せど、人の姿は一つとして見当たらぬ。

あるのは先程まで研究をしていただろう跡と、乱雑にちりばめられた資料の数々。

ここで誰かが戦闘をしていたのはまず間違いないだろう。

しかし誰が、何の目的で、こんな…



「…んっあれは、なん、だ。」



栗毛の少女は考え事をしていたせいか気づくのが遅れてしまったが、他の者はピタリとその足を止め異様な緊張感プレッシャーを放つ『人間』から目が離せないでいた。

前方には白銀に輝く甲冑を身に纏った彼女たちと同じくらいの少女の姿。

その手には同じく白銀に輝いた等身の半分程度の剣。ギラリと擬音の聞こえてきそうなほどよく研がれた一級品。

一見して高潔な雰囲気を思わせる装備であったが、彼女の放つ緊張感プレッシャーはこちらを敵としたものである。

彼女たちの息を止めてしまうほどに重々しく、また一切の行動を許しはしないだろう雰囲気。

思わず栗毛の少女はつばを飲み込む。

彼女はここにいる15名の少女のいわば頂点であり、一番の強者であるが、そうであるがゆえに目の前の白銀の甲冑には勝てぬことが理解できてしまう。

全員でかかって勝てるかどうかという相手に、ましてやこちらには無抵抗な16名の一般人を抱えている。

負け戦になることは明白だが、また逃げることもたやすくないだろう。

じりじりと後退する彼女に対し、白銀の彼女もじりじりと迫ってくる。

終わることもない緊迫した場面、それは一人の男の登場によっていともたやすくも崩壊した。




「あーびっくりした!俺、本気で死んだかと思ったわー…何してくれるの赤神さん?」



男はあらぬ方向から白銀の甲冑を着こんだものに対し頭突きを食らわせて、その威力は鎧の重さに関係なく遥か後方へと飛ばされる。

研究所内は非常に硬い『オルグナイト鉱石』で精製されていたがそれを破壊するほどの威力で、砂埃が通路に舞った。

茶色に浸食する景色に男は飄々と降り立つ。

まるで散歩にでも来たかのように気楽な立ち姿の男に少女は問いかける。



「あっあなたは一体!?」


「…ん?そういうあんたたちはアイツの言っていた黒聖警軍特殊部隊の輩ですかい?おおーこれはこれは初めまして。」



こんな状況であるというのに艶やかな緑髪をした男には何の緊張感もないらしく、彼女に手を差し伸べた。

栗毛の少女はそれを躊躇して、男にもう一度尋ねた。



「…あなたはこんなところでいったいなにを?それに私たちのことを知っているようですが。。。」


「わーつれない。つれないねー握手ぐらいしてくれもええやないですかい。…こほんっええー俺はある人物からこの施設の破壊を頼まれたもので名を」



彼は告げた。その名前を、新たな物語の一ページを刻むがごとくとても印象的に、ただ堂々と。



「ヨウ=マツデラと申します。以後お見知り置きをー」



彼は屈託のない笑顔で彼女に微笑みかけた。

後に彼は世界を塗り替える『勇者』となるわけだがこの時誰も、本人でさえ考えもしないことであった。

ちょいとばかし登場人物多くないですかねぇ。。。でもこのヨウ君についてはあまり本編では語りません。いずれどこかで書くかもしれませんが、、、



次回予告

見つけた糸口は果たして運命のいたずらか、それとも…

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