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異世界にはもう慣れました サウザンド!  作者: 八七月
第二章 魔人スーツ研究所
21/38

開始したボトゥレア襲撃作戦 

生きるか死ぬか、そんな死地に今まで俺は飛び込んできた。

時には本当に死んでしまって冥界をさまよったり、生きながらにして地獄を味わったりしたが今回受けた辱めはそれに勝るとも劣らない極地であったと言わざる負えない。

胸が苦しい。息は上がっていなかったが、鼓動はうるさいぐらいに個を主張する。

俺は早々に小屋へと戻っていて、広間にある大きな柱に寄り掛かっていた。



「オイオイ、ヤッテシマッタナ。アソコデアノケンハダサナイホウガヨカッタンジャナイカ。」



狂ったように笑いかけて俺をおちょくる影、他の人にはまず認識すらできないその影は俺が2年前に自らの体に封じた『じゃしん』そのものだ。

彼(彼女?一応神を名乗る者として性別は無意味なのだろうが)はこうして俺が精神的に弱って少し封印がほつれた頃合いを見計らって今みたいに表に出てくることがある。

その場合大体が俺を罵り、バカにするために出てくる非常に五月蠅いやつ。

しかしここで俺が反抗的な態度に出るとすぐにすねて戦闘スキルを再び封印されてしまう危険がある。

なので大多数の場合はそこそこに話を合わせることにとどまっているわけだが…ホントめんどくさい野郎だぜ。



「…そうだな。俺は選択を誤ったかもしれんな。」



素直に自らの非を認め、具現化した黒い人型をした何かとしか言いようのない影を見つめた。

その影は口もないくせにケラケラと笑っているように感じさせる。

俺をからかいなれているこの影は、非常に愉快そうで今まで俺の体に留まっていたためかストレスでも解消するかのようだ。

…こいつの行いや存在理由を考えるとそれ当然、自業自得ではある。

むしろこうして実体を持って世界に立てることを感謝して欲しい位だ。

じゃしんには身の丈にあった行動をこれからは是非ともお願いしたいところである。



「『エキュロスカリバーン』ハセイケン『エクスカリバー』トツイヲナスソンザイ。コンナヘンキョウノチデフルウモノデモナイダロウ。」



それもそうだ。

じゃしんの言う通り元々『エキュロスカリバーン』は『エクスカリバー』と主を同じくする泉の妖精から授かりし聖剣。

そのようなもの、確かにこのような辺境の地で振るうものではない。

しかしこれが一番強さの証明となるのは間違いのないことだ。選びに選ばれた強きものしか持つことの許されない剣―――――それが『エキュロスカリバーン』なのだから。

それがどんなおどろおどろしい存在であろうと多くの者には不快でしかなかろうと、強さの誇示にはなろう。

そう考えての『エキュロスカリバーン』だったわけだが、初体験の者にはいささか刺激が強すぎただろうか。

俺は逃げた。あの場から怯えるような目でこちらを見てくる者たちを俺自身が見たくないかのように。

そしておれはこうして誰にも会うことなく、一人うずくまっている。なんてかっこ悪い、無様な姿だよ俺。



「ジブンヲセメテイルノカシュバルツ。ソンナコトイママデナンカイモシテキタコトダロウニ。」



じゃしんは呆れとも哀れともつかないため息を一つつく。

確かに彼の言う通りだった。俺は何度もこうして自分を責めて後悔を募らせて、結局人に頼ることもないままに深い泥沼に足を突っ込む。

人に頼ることは弱さだと思った。人に言われるのは恥だと『めんどくさい事柄』だとそう感じた。

今だってそれは変わらない。今更自分を変えることなどできやしない。

これからもそう生きていくだろうし、過去は変えられないのだろう。それは仕方ない、でもそれよりなにより今はなすべきことが山済みである。

後悔など犬に食わせろ。前を向け、俺。




「…とにかく今はそれどころじゃない。同級生たちを救助するため力を貸してもらうぞじゃしん。」



俺は顔を上げた。そこには先程までの落ち込んでいた俺は存在していなかった。

今ならなんでも出来るような、そんな気さえしてくる。



「オーケーオーケーワカッタヨ。ソッチノイウトオリニシヨウジャナイカ、ワガカリソメノアルジサマ。」



じゃしんはケラケラと笑いながらも満足したのか俺の体にすうと煙のように体内へと戻っていく。

気分は上々、後は向かうだけだ。俺は黒霧の漂う森へと、特殊部隊の面々は研究所攻略へとその足を進めることになるだろう。

失敗は許されない。もし失敗したとしたら多くの人の命が失われることになるだろう。

それだけは阻止しなければならない。絶対に絶対に、だ。



「…それじゃあ行こうか。作戦の舞台へと」



一人朝日を浴びながら再び空地へと向かう今の俺に後ろ向きな考えはない。

空は既に澄み渡っている。暖かな光のともる森の中、作戦は静かに実行されることになるのだ。
















「…こちら槍を持っているのがザラクテン、レイピアを腰に巻いたのがウラクテンだ。私の死人の中で第1位第二位を争う護衛となるが、キューニェは気にせずともいいぞ?存分に暴れるといい。」




モルナは軽いジョギングをする感じで移動を開始した中、そう告げた。

時刻は8時頃か、軽い朝食を済ませた俺らは簡潔に作戦内容を確認したのち移動を開始していた。

部隊の雰囲気も悪くない。むしろこれから行われるだろう血肉を争う戦いをどこか楽しみにしているようで、先程の俺の失態が問われることはなかった。

それならそれでよし、避けられていないのなら支障もないだろう。

彼女らは3人横に並ぶ形で、後方数メートル後からついてくる。なので傍にいるのはモルナと先程紹介されたザラクテンとウラクテンだ。

彼らは約3メートルもの巨体と黒と白の鉄仮面を深々と被り、声を出すことはしない。

だが丁寧に編み込まれた鉄の鎧から覗く腕は、軽く一般男性の胴回り位はあるでだろう。

力が並の生物なら簡単にひねりつぶせるぐらいにはありそうだ。

その佇まいはファンタジーでいうオークやジャイアントのそれだが、纏っている雰囲気は大いなる知性と歴戦の戦士を思わせる。

彼らに任せれば並大抵の困難は軽く乗り越えてゆけるだろう。

実際そうしてきただろうし、こちらとしては頼りがいがあり大助かり、流石今までモルナの護衛を務めていただけはある。



「…キュー二ェ=ドグラーニャ。よろしく。」



少しの躊躇があって俺はモルナが即興で呼んだ偽名を、紹介されたということで儀礼的に口にした。

それに対して異形な二人は少しだけ会釈をするだけにとどめたようだ。

モルナはそれを愉快なことであるかのように微笑んでいる。その姿はどこぞの美術家が描いた絵画のようで、思わず目を凝らしてしまうのだけど微笑んでいる内容が内容なので見惚れてしまったなどと素直に認めることなどできやしない。

…ていうか俺の偽名であるキューニェってなんなんだよ。確かにこの国の英雄として名が知られている世界で『シュバルツ』の名前は色々と不具合もあり不味いかもしれないが、それにしたってもっといい名前があったであろう。

でも既に取り返しはつかない地点まで達してしまっているし撤回など言語道断、あれは嘘でしたと言える雰囲気でもない。

確かに名前など自分の存在を知らしめるだけのパスポートのようなものだ。

名前などなくてもあっても生活が困難になるほどの危機ということではないし、好きに呼ばせてやらなくはないかな。

…ただし、俺の機嫌は悪くなる一方だと思ってくれて構わないがね。




「よし、ここからは『闇門』の外だ。みんな十分警戒の上移動を開始してくれ。」




いつの間にやら目の前には昨日の夕方に見た闇で遮られた異様な空間、『闇門』が広がっている。

全てを飲み込まんと静かにたたずんでいるように見えるそれにモルナは部隊のメンツを指揮し始めた。

部隊の面々の顔を見ると先程までの移動中高ぶっていた気が嘘のように霧散している。目は驚くほど据わっていた。

流石は元王、カリスマ性は未だに健在だということか。羨ましい限りである。




「『我闇を恐れる者。この身は闇に焼き尽くされた、今再び闇よ誘え』」



モルナは一人闇門にそっと手を触れると、呪文を唱えた。

言語としてはあべこべでありファルベ語でもなければ日本語でも勿論ない。

想像するにこの世には存在しないモルナだけの創作言語のようなものだと思う。『言の葉を司る者』としてそれくらいは簡単に理解することが出来たし、また解釈することが出来た。


彼女が呪文を唱えた瞬間、今まであった闇は全て掃除機で吸引されていくようにモルナへと吸い込まれていく。

周りには風が吹き荒れるが、当の本人は素知らぬ顔。まるでいつも行っている作業のようで淡々としていた。

そして数秒の時があいて、昨日嫌と言うほど見つめていた天まで届くのではないかと思われるほど高々と伸びた命の息吹を感じさせない森へと俺らは到達する。

周りにはやはり生き物の気配を感じない。音も風のなびく音のみでその場は支配されていた。

…異常は見られない。いや、何一つ異常に思えないことがそもそもここが異常な地であると証明したようなものだ。

ここでは命の危険は常に隣に存在していることだろう。つくづくこのような作戦に早乙女さんと清詞を連れてこなくて良かったと心から感じさせられた。

二人はまだ知らなくていいのだ、このような命の重さが軽視されるような異様な空間に二人はまだ浸かる時ではない。




「敵は、待ち伏せはおらぬか。…あちらはいやに余裕だな。いっそ気持ち悪いほどに」




モルナの言う通り敵である魔人スーツ研究所の面々の姿はどこにも見当たらないでいた。

闇門の存在を知らないという可能性もあったが、昨日藍丸双子というダミーを使ってここの存在はあちらに筒抜けのはず。

なのに攻め込まないどころか待ち伏せすることもないとは気持ち悪い。どこか腑に落ちない。そんな気分で胸の中はぐるぐると渦を巻いていた。




「…罠の可能性が高いな。モルナ。」


「そうだなキューニェ。ここまで無防備だと以後別行動となる我が部隊のことが心配になってくる。」


「でもそれでもお前の部下だ。信頼していないわけではないだろう?」



俺はモルナに耳打ちして問う、仲間を部下を『人』をちゃんと信頼することが出来たのかと

彼女の前世は悲惨なものだ。まだ少しだけしか聞き出せていなかったが、紫の王をしていた記憶の他に何回かの前世の記憶まで残っているらしかった。

そしてそのすべてで強奪、悲劇が彼女に付きまとっていたらしい。

彼女が完全に心を開ける人などそうはいないのではないだろうか。そう感じてしまうほどに昨晩話をする彼女の表情には笑顔ながらも少しの痛々しさが残ってしまっていた。

そしてその信頼できる一人であるだろうポジションに俺がいることは非常に喜ばしいことなのだろう。

だからこそ俺は問う。信頼できる存在が俺しかいないとしたらそれはすごく悲しいことだから



「…あぁ信頼はしているさ。部下の一人一人を心から信用しているとは言い難いがね。」


「…モルナ。君は。。。」



言葉は出ない。次が出ない。

分かっていたはずだ。彼女をこのような歪んだ存在にしてしまったのは俺の責任でもある。

あの時彼女を救えていたら、こうはならなかったかもしれない。

幸せをかみしめるように消えた死に際のあの時の光景も、今ではすごく懐疑的な眼で見てしまう。

…本当に俺は彼女を幸せにしてやれたのだろうか、と仲間として友人としてちゃんと送り出してやることは出来たのかと。

彼女はずっとこの世に未練を残していた、だからこそこうやって何度も転生したのではないかと、考えはネガティブな方向にどんどんと広がって行ってしまう。

止めよう止めようと思えど止まることは難しい。でも顔には出ていないのだろう、表情筋は未だ沈黙を守ったままだ。

それが今の場面ではいい効果を得られたようで、モルナは気にすることなく信用しきれてはいないという部下に号令をかける。



「…さて、これから本格的な作戦の開始だ。全員生きて帰ってこい!以上。」


「「「「「「「「「「「「「「「我が黒聖警軍特殊部隊、正義を貫き生きて天寿を全うすることをここに誓います。我が軍に栄光あれ!」」」」」」」」」」」」」」」




息の合った掛け声が静かな森に染みわたるようだ。

近くにいた俺は息の合ったそれに少々驚き、目を開く。

そんな俺を知ってか知らずか彼女らは先程までのは行進でただの遊戯であるがごとくその場から走り去る。

瞬きをした瞬間既に彼女らの姿はその場になかった。




「…さて、私たちも行こうか。黒霧の森へ」


「…そ、そうだな。」



彼女はまるでそれが当たり前のようにきりっとした凛々しい表情になり、見るは昨日外側だけ拝見した黒霧の森の方向だ。

俺も彼女らだけを気にしてはいられないと音速に沿った速度を見せるモルナに歩みを合わせる。

このペースで移動したのなら一時とせず、ついてしまうことだろう。

後ろからは数メートル遅れて彼女の従者が追いかけてくる。

彼らにこのスピードはついていけないと見るべきか、もしくはこちらを二人きりにするという配慮なのかもしれない。

どちらにしろ有難い提案だ。この時を有効に使わせてもらおう。




「…作戦にあたるまでのこの最後の時間。一つ言わせてもらってもいいかな。」


「んっ、なんだ。」



モルナは前を向きながらも横をひた走る俺の発言に頷く。

景色は流れに流れて最早しっかりと葉の一枚一枚を見抜くこともままならない。

ひらひらと落ちてくる一枚の緑の葉は残像を残し、風は頬に強く打つ。

見ているのはそんな景色に、一輪の華やかな花のようなモルナだ。

気品を感じさせる佇まいに薄紫の透いた髪が美しい。眉と瞳はやや吊り上っていて人によっては気難しく言動がキツイ性格に見えてしまうことだろう。

薄らと口元はピンク色に光っていて、昨日の出来事を思い出し俺は思わず眉をひそめた。

魔力回収、それによっての戦闘スキルの回収それ以外にあの行為については他意はない。…ないはずだ。多分




「どうした?聞きたいことがあるのではないのか?…んっそれとも私に見惚れでもしたかい。」


「…いやいやそういうわけではないけど昨日の今日で早々平気な振りなどできはしないよ。えー昨日は、、すまなかった。必要だったとはいえあんなことしていまうなんて」




俺は昨日の接吻のことについては素直に謝ることにした。

モルナの魔力をほぼ根こそぎ持って行ったはずなのだ。これはごくごく当たり前な謝罪であると思われる。

しかしモルナはきょとんとして何言ってんだこいつみたいな素っ頓狂な表情を晒した。



「…嫌だった、のか?好きでもない女性にそういった行為をされるのは強引過ぎた?」


「…べっべつに嫌だったとかそういうわけでは、、、」



俺は道端に転がっている怪物しょうがいぶつを蹴散らしながらもモルナの発言に少々挙動不審気味となる。

音速に沿った形で移動したおかげか既に森への境界線に突入しており、ちらほらと探知能力の長けた者どもはこちらに襲いかかってきていた。

しかしそれも俺らにとっては路傍の石と変わりない。

まるで見慣れた街を散歩をするかのような軽い足取りで突き進んでしまう。それには後ろからついてきている二人も呆れ気味のようだった。



「…とっとにかくそれが気になってしまって、な。作戦にも支障が出てはいけないから。」


「…そんなこと気にせずとも良かったのに。相変わらず真面目で心配性だなキューニェは」



クスクス含み笑いをしながらもすぐそこには黒霧が立ち込める異様な空間が立ちはだかる。

肌を刺すような寒気と悪寒、それだけでここには『人』がのこのこと侵入してはいけないところなのだと認識することが出来る。

だがここには彼らの知られたくはない兵器が眠る場所でもある。それを黒聖警軍は見逃すことなどできない。

だからこそ彼女はここに居て、俺は彼女の部隊を信頼してここに立っているのだ。

本格的な争いの衝突はこれから起こる、何人生きるかもわからぬ。

もしかしたら俺も死ぬかもしれないし、同級生は皆死んでしまうのかもしれない。それは誰にも分かるものではないのだ。

運命とは決まったものではなく、もがきあがいて手にするものだと身に染みて俺は理解していた。




「…戦いには重要なことだ。臆病者が最後には勝つよいつもみたいにみっともなくとも、な。」


「ふふっそうだなそうだったな。お主はこれまでをそう生きてきたのだった、これはキューニェに一本とれてしまったかな。」



彼女は前を向いたままだ。

その手にはヴァイオレットの時に愛用していた鎌と同じようなデザインの金色に輝く二つの鎌。

日光も当たりづらい薄暗い森の中、それは道を照らす光の道しるべのようだ。

彼女は気負いなく一歩、また一歩と霧の中に突入する。

俺も彼女の隣へと歩幅を合わせて霧をかき分けるがごとく突き進む。

見る者によって勇者と賢者が共に肩を並べて闊歩するような幻想的な光景に見えてしまうのではないかというほどに、それはあまりにも直視することが出来ない確かな現実であったのだと後に語り継がれることとなる。

次回予告

森の中無双を開始したモルナとキューニェ(偽名)。

だが順調に奥地へと進む一向の目の前に立ちはだかるのはピエロであった。

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