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異世界にはもう慣れました サウザンド!  作者: 八七月
第二章 魔人スーツ研究所
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副隊長とはなにか

私はミズィージ=クトレシア、黒聖警軍第二支部特殊部隊所属の最近副隊長に昇格したばかりである新米隊員です。

特徴としては栗毛のぼさっとした髪とむっ胸はちょっとだけ大きい、そんな地味な私です。

今回私たちはある重大な作戦を決行することになりました。

それが『ボトゥレア襲撃作戦』。黒聖警軍であっても特殊部隊の者でしか任務に就くことも出来ない危険なお仕事なのです。




我々黒聖警軍には大きく分けて3つの部隊で編成されています。

まずは防犯警護部隊、人々の安全を守り治安向上治安維持に努める割と武闘派の部隊。

次に信教部隊、正しい教えを説き世を変えるため町の整備を担当する部隊。

そして我らが特殊部隊は、諜報を主とし場合によっては武力にて敵を殲滅する完全なる武闘派集団。

この3つがバランスよく保つことによって人々の安心を守っているわけです。

ですから今回のような何が起こるかもわからない状況下において、他の部隊から増援を呼ぶことも出来ずに私たちは15人という少ない人数ながらこうして目的の場所へと気配を殺して移動しているのです。



時刻は既に昼を超えたあたりでしょうか?

木々の間から僅かに真っ赤な太陽が見え隠れしています。

動物たちの鳴き声も微かにですが聞こえてきて、私は少しだけ気を落ち着かせることが出来ました。



「…あまり気を抜いてはだめよ?ミズィー副隊長サマ?まだまだ道のりは長いのですから」



おっとりとした声音でそう語りかけてくるのは私の2年先輩であるブラドレー=クラシュマン。

新しく副隊長として任命されてからも、変わらず接してくる少々私が苦手としている先輩である。

そんな彼女はその細すぎやしないかといつも思う中指で私の額をつつく。



「気など、抜いてやしませんよ。これは大事な任務、そんなこと私でもよくわかっているつもりです。」



私はその鬱陶しい指を払いのけて目的地である小屋を探すべく、辺りを見渡すも建物の影一つとして見つけられない。

…どうやらまだまだ目的地には到底達することはないようだ。

先に先陣をきった二人の特攻隊による予定では明日の早朝にはつくはずだという報告を受けている。

それまでこの頻繁にちょっかいを出してくる先輩と関わらなければならないとは、少しだけ億劫な気分です。

そんな私の不機嫌が伝わったのかいないのか、先輩はさらに嫌がらせするかのように話を始めた。



「ならよし。…それにしても、モルナ様も大変ねぇ~最後の最後でこんな作戦を指揮せねばならないなんて。」


「仕方ありませんよ。この作戦はモルナ様いなくして成功する可能性などありえませんから。上が散々ごねたのはある意味必然だと言えます。」


「いやいや~例えそうであってもモルナ様が可愛そうだよ。折角の寿退社なのでしょう?なのに生きて帰れるかもわからない作戦に身を投じようなんて、戦闘狂じゃないんだから。採算が合わないってやつよ。」


「…まあそれもそうですけどね。」



私は軽く相槌を打って、話を聞き流す。

先輩はそれからもモルナ様に限ることなく様々な恋愛についての話を永遠と続けた。

私はよく人の色恋沙汰でここまで話が続くものだと、終始呆れ返っていたがそんなことはお構いなしに先輩は一切止まることもなく話は続く続く続く。

そして数時間後ようやく全体の休憩するべきだということで、私は皆を止めてランチタイムに入る。

先輩はその時を待っていましたとばかりに他の後輩の元へと立ち去って行く。

まるでハイエナのごとし、いつもながら無駄な体力を使う人だな。



(そうか、モルナ様。この作戦が終わったら黒聖警軍辞めちゃうんだよなぁ…)



私は日が落ちてきて赤く染まっている森を見つめて、おもむろにため息をつく。

モルナ様―――――本名モルナ=リズフィードは私たちの直属の上司であり、憧れの存在であった。

彼女が通る道に敵はなし、金色の大鎌にて一瞬のうちに相手を屠る様は誠に圧巻だ。

また彼女は『スキル』と呼ばれる常人が到達しえない才能の高みを操り、絶対防御の障壁『闇門』を作り出すことに成功した数少ない人物の一人である。

他にも彼女が成し遂げた偉業は数知れず、その麗人にも勝るとも劣らない美貌にてたちまち黒聖警軍内外から絶大なる支持を受けることになった。

しかしながら彼女はそのような評価など露にも気にしておらず、涼しげな顔で目の前にいる私達ではなくどこか遠くの方を見つめていることが多かった。

でも此度、昔から婚約をと迫られた小汚い豚貴族―――――もといマルケス=トマータ様に嫁ぐ形で退職することとなり、隊の士気は著しく低下することに。

彼女もどこか寂しげに、しかも諦めの入ったため息をついてこの作戦に挑んでいた。



(…モルナ様には確か『探し人』がいたはず。モルナ様は見つけることが出来たのかな。)



私はいつの日かモルナさまが言っていた『探し人』について思いをはせる。

モルナ様はこう私達に告げていた

『私は彼に会うために生きてきた。彼に会うために己を鍛えた。彼に会うために私はここにいるのだ。…だからみんなにもそんなかけがえのない存在を糧にこれからの任務に励んでほしい。』

これは特殊部隊に入ってまだ間もないころに集会の場で言っていた一幕だ。

モルナ様ほどの使い手が恋い焦がれるその相手に一目お会いしたかったが、今回の作戦を機にそれもできなくなるだろう。

モルナ様は諦めたのだろうか。『探し人』を、自らの恋心を、私には気高きあの人のことは完全には理解できないのかもしれない。



(…誰しもがハッピーエンドになるわけじゃない。そんなことわかっていたんだけどな。)



青い月が見え隠れし始めて、森には暗い影が忍び寄る。

まるでそれは私の心に出来たもやもやとしたもどかしい思いのように、中々晴れることはしないのだった。






















「紹介しよう。彼は―――――キューニェ=ドグラーニャ。わっ私の…婚約者だ!」



少し頬を赤くして叫ぶ彼女を私はこれまで見たことがなかった。

いつも飄々と周りを見下すように見渡していたクールな彼女しか見たことがない私、いや私以下特殊部隊の面々に動揺が走る。

ざわざわと周りが騒ぎだす中、私は婚約者だという隣の人物を観察した。

先程まで白く奇妙な仮面を被っていた彼は、モルナ様に匹敵あるいははるかに凌駕する美しさをその身に宿している。

まるでここの遥か異国に存在していると言われる「刀」のような人物だ。

その眼光は私を見透かしているかのように鋭く、心なしか私は彼に恐怖を感じていた。

明らかに人間を超えた何かがそこには立っていて、存在している。そんなこと、絶対にあってはならないはずなのに



「…モルナ。お前の部下が困っている。冗談はその辺にしておけ。」



彼の暗い低音ボイスがひどくざわついたこの場に響く。

彼は表情一つ変えずに、モルナ様の戦闘服である『バニテーラ・コスティカル』をちょいと引っ張る。

モルナ様は一瞬驚いたような表情をしたけれど、すぐにこちらへと向きなおした。



「…つれないやつだ。私はお前をいただくと言ったはずだろう?この発言も、いずれ本当にしてやろう、ただそれだけではないか。」


「…いただく発言を俺は一切聞いていない。それはお前の思い違いだ。」


「ふふっ細かいことはいいのだよ。大事なのは今、であろう?過去を振り返るべき今この時ではないはずだぞ。」


「…まあ、それはそうだが。」



二人が何やらひそひそと話をしている。

その声は最前列にいる私にも聞き取れないが、そんなに悪い雰囲気ではないことは確かだ。

二人が婚約者だというのは、先程彼は否定したがあながちウソではないのかもしれない。

…ならば私は彼を試さねばならぬだろう。副隊長として本当にモルナ隊長に相応しいのか否かを

私は未だにざわつく隊員を一睨みすることで黙らせる。

私の耳に小さく悲鳴が聞こえてくるものの、そのようなこと私の知ったことではないので無視して一歩その身を前に出した。



「私は此度副隊長をやらせてもらっています。ミズィージ=クトレシアと申します。以後お見知りおきを」


「…紹介に合ったキュー二ェ=ドグラーニャだ。こちらこそよろしく。」



彼は私が一歩前に出たことでわたしの前へと歩み寄り、片手を差し出す。

私も友好の証としてその手をとる。

すると分かる。彼がとんでもない力を秘めていることを、私では絶対敵わないことを



「…ミズィー副隊長。そういうことだ。私はこの作戦中は彼の下で任務遂行に挑もうと思う。いいな?」



それはモルナ様の有無も言わせぬ命令口調であり、しかし私はそれに逆らうことなどできはしない。

彼がいるのならモルナ様は大丈夫だろう。

目の前の彼はちっとも威圧感を感じさせないが、触れればわかるこれは最初から勝つことを宿命付られた絶対的強者。

…これはモルナ様が惚れるのも分かるというものだ。

逆にモルナ様でなければ、彼の隣は誰にも似合うことはないだろう。

そんなとても不思議な感覚が二人の間には流れているのであった。



「…わかりました。少々協力者について不安があったのですが彼なら大丈夫そうです。後は私たちにお任せください。」



私は了承し、モルナ様もどこか満足げだ。

特殊部隊の面々はそれにどこか不満げな声を上げたが、彼女らは知らないからそのようなことが言えるのだ。

彼を怒らせてはならない。彼は何をしでかすやら分かったものではない。

そんな危険性を幾ばくかはらんでいるのだ。だからみんな私の言うことに従って…



「ふふっ皆不満そうであるな。キュー二ェよ!…ここいらで一つ一芸でも見せてもらえないか?」


「…何故おれが?」



悪戯っ子のように微笑むモルナ様と不愉快そうな面を下げるキューニェ。

…まずい。何か分からないがこれはまずい。

本能的に悟った私は彼らから早々に距離を取り始める。



「まあそういうな。報酬は弾むぞ?…それとも何か?自らの肉欲を私にぶつ「あぁああ、分かりました。分かりました。…やるよ。」」



私が十分に距離を取ったと同時に彼はモルナ様に深い溜息をつきつつ、何もない空間からおもむろに一振りの剣を取り出した。

…いや、それは剣なのかも怪しい普通の剣とは大きく違った趣を見せている。

彼の剣と思わしき物体はクロをその刃に纏っていて、正確な刀身は分からずじまい。

しかもその黒い何かはけして聖なるものではなく、どこか禍々しい背筋がゾッとするかのような悪寒を感じさせるものであった。

彼はこれを一体どうするのだろうか、思わず私は好奇心により前屈みになってしまう。



「…唸れ『エキュロスカリバーン』」



一度彼が剣の真名を告げるとその場には人の断末魔のような悲鳴が鳴り響き、前屈みになっていた私は思わず耳をふさいだ。

他の特殊部隊の面々も同様に、耳をふさいである者はその場に座り込んでしまった。

…いくら戦闘慣れした私たちとて、それは容易に耐えられるものではない。

世界の負そのものを一気にこの身に受けたも同然であり、けして安易に近付けるシロモノではない。

この場で平然としているのは刀を持った彼を除けばモルナ様だけだ。

モルナ様だけは、彼の姿から目を離すことはなかった。



「…ほう。次元を切り裂き人から負を吸い取る魔剣であるか。これまた奇怪なものを持っていらっしゃる。」



モルナ様は軽く肩を透かして、彼に近付き剣を収めるよう直接伝えると彼は素直に剣を何もない空間に押し戻していく。

悲鳴が鳴りやみ、安堵の呼吸からか特殊部隊の面々も恐怖で口がひくついているのが分かった。

音がなくなり、風の音が聞こえてきた空地に彼は静かに一言添えた。



「…みんな後はよろしく。」



一言そういうと彼はその場から一瞬で消えさった。

モルナ様はなにがそんなにおかしいのか笑いをこらえている。

その場には異様な雰囲気が流れていた。上を見上げれば先程までが嘘のような晴天の空。

他のみんなも見ているだろう朝の健やかな森の匂いを感じながら、しばし私たちは上の空で上空のはるか先あるはずだろう故郷を思い返していた。

出発まではいけなかった・・・

次こそは必ず出発するから!ゴメンネー


次回予告

次こそ行く黒霧の森。

そこでモルナと主人公を待つものとは

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