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異世界にはもう慣れました サウザンド!  作者: 八七月
第二章 魔人スーツ研究所
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しようと思ってもそれはダメ

「お向かいに上がりましたシュバルツ殿。我が主がお待ちです急いでこられますよう」


「…あぁわかっている。今そちらに向かう。」



俺は用意されていた黒いローブをクローゼットから取り出し羽織る。

クローゼットの中には他にも黒い長袖のシャツやコートが最低3ペアは綺麗に並んで整頓されている。

そしてまるで俺のサイズなど熟知しているかのように体にぴったりとあった服ばかりだ。

少し気味悪く感じてしまったが、着れなかったりぶかぶかすぎて地面を引きずってしまうといったことはないし、何より部屋の中があまりにも肌寒かったので仕方なしに俺は袖を通していた。

俺が今いるのは『マレイトス』に告げられ、割り振られた俺の寝室。

その部屋は元々二人部屋だったらしく、ベッドは二つ用意されて部屋の面積も12畳位はありそうな部屋だった。

家具はクローゼット以外には小さな机がちょこんとあるだけだったが、全て近郊で伐採したであろう木材を使っていて温かみがある。

小学5年生で行った宿泊学習を彷彿とさせたが、何故だか懐かしいという気持ちには至らないでいた。





「お早く」


「…悪い。」



マレイトスが急ぎの声をかけたことで少し慌てるように廊下へと続く扉に手をかけ、扉を開け放つ。

そこには先ほどと全く変わらぬ出で立ちでその場に直立しているマレイトスがいた。

彼は俺が部屋を出てきたことを確認するとゆっくりお辞儀をし、「こちらへ」と言ったっきり言葉を放つことはなく黙々とモルナの元へ歩き続ける。

俺も特に彼とは先程出会ったばかりで会話の糸口もつかめていないことから押し黙り、彼が歩く道をひたすら着いて行った。

そして俺の寝室より幾分か大きく、小粋な装飾の施された扉の前で彼はその足を止めた。




「こちらです。こちらでモルナ様がお待ちしております。…ご武運を。」


「…ご武運?」




マレイトスが何故か晩餐前より口調が他人行儀になっているし最後に言った「ご武運」の意味は何を指す言葉なのか計り知れたが、あまりモルナを待たせるのもなんだと思ったので俺は目の前の扉を躊躇なく開ける。

すると開けた瞬間、部屋の中がピンクのライトで爛々と照らされていることを知る。

どことなく嫌な予感がしたため、一旦扉を締めて気持ちを落ち着かせようとするもマレイトスに無理やり押し込まれ完全に部屋の中へと入ってしまった。

完全にこれは、あれですね、ラブホの、雰囲気ですね。ヤバイです色々ピンチかもしれません俺。




「…きたかバルツァ。待ちかねたぞ?」


「オレッ、モルナ…これは一体なッ!?」




俺は説明を求めてモルナの声がした方へ顔を向けると、そこには裸よりも扇情的な果てしなく薄いピンクのネグリジェを着た美女が存在していた。

美女は薄く微笑んで、こちらを片手で手招きをする。

どうやらそこに突っ立ってないで、こっちにこいとそういうことらしい。

俺は恥ずかしいやらなんやら、緊張した面持ちで大きなベッドへと腰掛けた。

腰掛けるとわかる、さっきまでの寝室にあったベッドとこれは全く別のものだと。

…きっとこれ、ベッド回転なんかしちゃったりなんだったりするんじゃないかな?知らないけど




「…フフッどうした?顔が真っ赤だぞ?何もしとらんのに早くもこの先を想像してしまったかい。」


「…してないしてない。全然してない。」




俺はきっと無表情でそれを言ったのだろうけど、モルナにはバレていることだろう。

この激しい動揺とクラクラと目眩を起こす現象を、きっと彼女は見抜いているだろう。

…ていうかどうしてこんな状況に?ダレカ説明してくださいよー!

全く理解不能だよ?きっとそろそろ俺自身考えることやめちゃうんじゃないかな?そうなる前にお兄ちゃんに教えてくれると嬉しいな!




「決心をしたと聞いたのでな。私も覚悟を決めたところだよ散らせる覚悟をな。」


「…そういう意味で言ったわけではない。それに明日仲間を救助しに行こうというのにどうなんだ?それは」




俺は彼女の方を向かないように喋り、それにニヤニヤと笑いを浮かべてこちらに少しずつ近づいてくるモルナ。

…ヤバイ、こんな至近距離からだと彼女の香水だろうか?薄く匂いを感じ取れる。

しかもそれがやたらこちらを的確に刺激するようないい匂いで、なおさら俺は背筋をピンと真っ直ぐ伸ばす。

すでに無表情の仮面は半壊しており、自分でもどんな顔をしているかはわからない。

こんな時、どんな顔して、座ってればいいものなのか判断に迷うところ。




「…それでは選ばせてやろう。これから楽しい楽しい昔話に花を咲かせてこのまま一緒に寝るか、これから直ぐにお主が今考えているだろうある行為を現実にしてしまうか、どうする?バルツァ」


「…昔話に花を咲かせて各個人に与えられた寝室にて別々に寝たほうがいいと思います。」



とうとう俺の耳元まで来て囁く彼女を何とか振りほどき、さらに数歩距離を開けて答える。

彼女は面白くないといった顔でふくれっ面を晒したが、それがまたとんでもなく可愛くて俺は押し倒してしまいたい衝動を必死に抑えた。

…ヤバイ理性の崩壊まで後3秒前といったところだった。あのまま押し倒されていたらきっと我を忘れて、襲ってしまっていたことだろう。勿論性的な意味で



「…それほど私に性的な魅力がないということかバルツァ?これでもお主のため、必死に女磨きをしてきたというのにまだ足りぬというか!?」


「…じゅっ十分だと思う。十分魅力的だぞモルナ。」


「…では何故散らしてはくれぬ?準備は万全、後は既成事実さえあれば私は、私は、、、」


「…モルナ顔怖い。落ち着け。」



ひどい悪夢にうなされた人のように顔が恐怖で引きつっていたので、俺は彼女の方に手を置いて慰める。

俺にはモルナが何を考えているか、何をしたいのかはさっぱりだったが、とにかく彼女には彼女なりの複雑な事情があるのだろう。

自分から深入りするのはよしたほうがいい。

彼女がそれを語ってくれる時までじっくり待とうじゃないか。




「そう、だな。別にバルツァがこのまま逃げてしまうわけでもないし、少々焦りすぎたかもしれない。…すまないバルツァ。」


「…モルナ?」



彼女は大きく息を吸い込み、そして吐き出す。

そしてこちらを真剣な眼差しで見つめてきて彼女は一言。



「それでは改めまして…ごほんっえー私と避妊具を付けてでもいいから今、この場で即本番をしましょ「待て待て待て待て?全然落ち着いてないぞ?本当に、よく、考えて、ね?」」



俺はすぐにでも下着に手をかけそうなモルナを諌めて、何とか対等に会話ができるまで説得を試みるのだった。



















「…事情はわかった。微力ながら協力しよう。」


「ほっ本当か!?それでは、まず前戯からだったよな!よし」


「おい!誰も今すぐやるとは言ってない!それとこれとは話が別だろう?だから落ち着けって」




俺は何としてでも下世話をやろうとするモルナを押さえつけ、座らせる。

そんな彼女の話によると今回転生した先である『モルナ=リズィフィード』という人物、かなりの貴族らしくしかも第二子女。

長女であるマテリナ=リズィフィードは既に他の貴族に嫁ぎ、子供も何人いるのか分からないぐらい励んだらしい。

それで彼女にも結婚したいという殿方からお声がかかったわけだ。…およそ5年も前に

この国、ファルべ大聖国は一夫多妻制を推奨している。

とりわけ軍事につくことの多い男性のさらに優秀な子孫を残すため、仕方ないとはいえ女性が何人もひとりの男に嫁ぐわけだがその平均結婚年齢は16歳を切る。

それはこの国の医療制度がきちんと整っていないことで平均寿命が短いせいでもあるが、単に十代の時に結婚したほうがより一層元気な赤子ができるとそう信じられているからみたいだ。

だからなのかモルナにも当然婚約者はいる。…いるにはいるが本人曰く「こんなのと結婚するなら死んだほうがマシ」と言わせる程肥えて醜い男なのだそう。

ならばきっぱり断ればいいのだが、なにせ相手はこちらよりも位の高い皇族と並ぶ程の貴族。

無下にはできないということで、今まで婚約は延期、延期とされてきたがとうとう捕まってしまった。

モルナの年齢は20歳、この国では完全に婚期を逃した行き遅れである。

だからこそモルナは自分のことをよく知る俺と結婚することでその男の魔の手から逃れようとしているわけだ。

…って理屈はわかるんだけどね。

モルナ、どんだけそいつのこと嫌いなんだよ。

一応相手方は5年も待ってくれたんだろう?なのにその仕打ちはないわーこっちが同情してしまうレベルだよ。かわいそうに




「いや、申し訳ないとは思っているのだぞ?あちらには、な。私には生前から心に決めていた相手がいただけなのだから。だから私は責任をもってバルツァを幸せに…」


「…なんでそうなる?いや、森の中で叫んでたの聞いてこっちに好意があるってのは分かりきってはいたが」




そうだ、彼女は夕暮れに染まる広葉樹の木々たちの前で高々と愛の言葉を叫んでいた。

とても見れたものじゃなかったけど、きっと後日、本人の黒歴史に深く刻まれることになるだろうけど、その愛を叫んだ相手が俺だってことは容易に想像ができる。

…いや、だとしてもだ。それを逆に開き直ったかのように迫られてもこっちも困ってしまう。

どう扱っていいのやら、軽くあしらってもよいものなのか判断に困ってしまうのだ。

だって初めてだから。こんなに昔の仲間だったとは言え、異性にここまで言われて迫られるのは




「…まあ急すぎるってのも、一生を左右する大きな問題だってことも重々承知の上さ。だからこの作戦が無事終わったら真剣に考えてはくれないか?私と共に生きることを」


「…どうして、何がお前をそこまで駆り立てる?俺とオレットは心の通じ合った戦友だったじゃないか!何故いきなり、結婚なんか」




正直オレットに対して俺はいつも笑顔を絶やさずに、一緒に戦場を駆け抜ける戦友という認識でしかない。

…そりゃあこの世界に来て初めて会った同年代だったし?彼女の城には何度も出入りしたけどさ?時には喧嘩もしたりとか仲違いをしてしまうこともあったけど、最後の最後に心は通じ合えたとも思ってるけどさ。

だからだろうか、彼女を特別異性として認識したことはない。

そんな俺の発言を聞いて彼女が少し悲しそうな表情をするけど、俺にはどうしてやることもできないのだ。




「…やはりその程度の感覚でしかなかったか。私は生前から君に惚れていたわけだが、想いは、届いてなどいなかったようだな。」


「…オレット?」




彼女は遠い目をして天井を見上げている。

…怒っているのだろうか?俺に。

彼女の想いに気付いてやれなかった俺を、そうとは知らずまるで友達のように彼女の新しく改築されたお城でたわいもない雑談に花を咲かせていたことを、心の中でもがき苦しみそれでも笑顔を見せていた生前の彼女はこうして生まれ変わって俺を糾弾しようと。そういうことなのだろうか?

俺は彼女の行動に注意して少しだけ身構えた。彼女の言葉をすべて受け止めてあげるために。

しかし彼女は予想よりもずっと優しい顔で見上げていた顔をこちらに向けた。




「…まあいい。これから、築いていけばよいのだ、私は今『バイオレット=ジ=トレスティ』ではなく『モルナ=リズィフィード』なのだから前世のことを今頃悔やんだところで意味はない。前に、進まなければな。」


「…モルナ、お前。。。」




彼女は本気だ、それは彼女の澄んだ紫色の瞳が全てを物語っている。

ならば俺としても全力でそれに当たらなければならないだろう。

その結果彼女を悲しませることになろうとも、真剣に考え抜いた末の選択に迷いなど存在するはずもない。

だから今は、今だけはこの問題を先回しにさせてもらうとしよう。

より多くの生還者を出すためにも、明日の救助作戦に支障をきたさないためにも




「…わかった。考えてみるよこの作戦が終わったら、な。」


「恩に着る。出来れば良い返事を待っておるぞ?私もあんないやらしい目で見てくる豚と結婚など嫌だからな。」




彼女が満面の笑みで笑うと、部屋中は幸せそうな雰囲気で満たされる。

俺もつられて少しだけ笑ってしまった。

明日は辛い現実を見ることになるだろうと、こんなことをしている場合ではないだろうと、心の中では冷静に決断づけていたのだがそれもいいじゃないか。

あまり緊張しすぎると動きが硬くなってしまい、思うように行動することもできない。

だからこうして、戦いとは関係のないことを約束づけてモチベーションを上げるとしても誰も文句は言わないはずだ。

俺はそう思う。


















「そう言えばお主の言っていた『決心』とは結局なんだったのだ?私はてっきり契りの儀式のことかと思っていたのだが」


「…あっそうだった、な。忘れていた。」



俺たちはその後散々たわいのない昔話をして、(今の生活はどうとか生前行っていた場所はこうなっているだとか主にモルナが言っていたことを俺が相槌を打つ感じだった。)気づいたら夜も遅くふけこみ、そろそろ帰ろうかとしていた時にモルナは思い出したようにそう告げた。

俺としてはこの部屋に入った瞬間に失念していたことだったし、目的を思い出してようやくそれを果たせるというものだ。…気は進まないが、な。

俺は話をしていていつの間にか近くにいたモルナと鼻が触れ合うギリギリの至近距離まで近づく。




「…どっどうした?いきなり、まっまだ心の準備など出来てはいないぞ?」


「…フフッ照れてやんの?さっきまで俺に迫っていたモルナはどこに行ったんですかねえ?」



俺は不敵に笑い、そして彼女の唇にターゲットを絞った。

とても柔らかそうな唇だ。きっと彼女の言っていた『女磨き』のうちの一つなのだろうけど、ここまで綺麗で整われたものはついぞ見たことがない。

俺は高鳴る鼓動を押さえつけて、彼女の肩をがっちりホールドする。

彼女は一瞬驚いたが、すぐに俺のなされるがままになった。

攻める方は得意そうだが、攻められるのには慣れていないらしく瞳には戸惑いの色が見え隠れしている。

彼女は頬を真っ赤に染めて上目遣いでこちらを見てきた。

俺も熱くて熱くて一噌燃えてしまいそうなほどに体は発熱していたが、何とか言葉を紡ぎ出していく。





「…すまんな。今は理由を言えないが、こうするしか方法はないから。」


「…ん?何を言ってッ!?」




俺は彼女の答えを聞くこともなく、無理やり、でも優しく彼女と唇を合わせた。

彼女の方も最初訳がわからず体は強ばっていたが、それも数秒経つと次第に彼女から求めてきて俺の口の中ではさながら争うように舌と舌とが触れ合う。

俗に言うディープキスというやつだが、俺はそれを拒むことなく一緒になって舌を絡め合った。

そして最初唇を合わせてから1分ぐらい経ってようやく俺たちの濃厚なキスの時間は終わりを告げた。




「…前より『魔力』が上がったか?かなりの量だな。これで十分だよお疲れ様。」


「‥‥‥‥‥‥‥。」



話をする元気もないのかぐったりとしたままのモルナを担いで、ピンクの照明がチカチカ目に残ってしまう部屋を出る。

途中従者の一人からモルナの部屋を聞き出し(見ると普通の15歳ぐらいの少女だろうか?頬を赤くして、俺と後ろのモルナを交互に見ていた。…まあこの時の様子を普通の人が見たら見たら完全に事後だと思われるかもしれないが、絶対に手は出していないのでそこだけはあの従者に釈明させてもらいたい。)彼女を部屋のベッドに寝かせて俺は自分の部屋に戻った。

そして一人になってふとさっきのキスの感覚がまだ残っていることに、恥ずかしくなってしまう。




「…はあ。あんまりやりたくなかったんだけどね、あれ。」




俺はため息をつきながら先程まで使うことのできなかった空間を操るスキル『空間操作スペースコントロール』で日本で使っている電化製品を何もない空間から呼び出し、電気を操るスキル『極電ゴクデン』を使ってそれに電気を流し込んで暖を取りながらそう呑気に思ったものだ。


何故久音くんはモルナとキスなんかしたかの説明については次の回で

多分久音くん的には…強引な女の子嫌いじゃないわ!って感じだと思います。




次回予告

スキルが突然使えるようになった久音。果たしてその理由とは!?

事後キスしただけのモルナは賢者モードで何を語る?

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