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異世界にはもう慣れました サウザンド!  作者: 八七月
第二章 魔人スーツ研究所
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お背中流します。

お風呂――――それは日本人なら誰でも愛してやまない、というか毎日入らなければならない使命感をかりたてられる魔物のような存在。

露天風呂―――――それは日本人にとっての癒しであり極上の天国。

風呂上がりの一杯――――それは至高であり究極、この一杯のために日々いけていると感じさせる絶対的強者。

…えーつまり俺が何を言いたいかというと、この異世界には日本のようなお風呂があってそれに俺は長々と肩までお湯に浸かってとっても幸せな気分だってことだ。




「…やっぱり風呂はいいな。」



思わず呟く俺の目の前は湯気が周りの景色も見えなくなるほど真っ白に染まり、遠くで鳥の声が聞こえる。

内装は古い日本の旅館でよくみるような檜みたいな木材をふんだんに使われた露天風呂そのもので、ここが異世界であることを忘れてしまいそうな豪華さで贅沢なお風呂である。

何故俺が今こうしてまったり風呂になんか入っているかというと、なんてことはないオレットに入るように進められたからである。

俺が晩餐を終えると同時に早乙女さんは清詞のことが心配だと彼が眠る部屋へと向かい、オレットの従者である『マレイトス』も用事があるのだと急いで広間から出て行ってしまった。

オレットと二人きりになってしまったテーブル、元来口数は少ない俺とオレットの間に会話は滞り、広間には静寂が訪れる。

そしてそのまま数十分の時が過ぎ、俺は立ち上がった。

確か俺にも部屋が割り振られていた筈なので確認も含め部屋に一度行こうかと思ったのだ。

するとオレットは俺が横を通り過ぎるタイミングを見計らって何気なく告げたのだ「お風呂があるから入るといい。明日に備えて疲れをとるべきだぞ?」と

そして俺はオレットに言われたままこうしてお風呂に入っている。

脱衣所の外には『入浴中』の札をかけてラブコメ漫画のように裸を見られるというお約束展開を未然に防ぎ(裸を見られないようにするのはなんだか男女逆のような気もするが…)晴れやかな気持ちで俺はゆったりと湯船につかっていた。

…実にいい仕事をしている。俺がいた1000年前とは比べ物にならない、そう思った。

あの頃はこのような立派なお風呂なんてなくて、専ら体を清めるのは雨水を貯めた瓶を使っていたのだ。

よく風邪をひかなかったなと自分で自分に感心するよ、全く




「…明日は、頑張らなきゃな。救出」




この心地よいお風呂の手前忘れてしまいそうになるのだが、こうしている間にも俺のクラスメートは危機に瀕しているはずだ。

『アポピス』の連中は一般人を殺すような非道な奴らではなくあくまでも国家と相反する市民には善良な団体であると聞かされていたとして、仮にそうなんだとしても彼らが全員無事である保証にはならないじゃないか。

あそこは研究所であるからして彼らを実験台にして、その結果みんなが死んでしまっている未来の可能性が1%でもあるとすれば『アポピス』が一般人に危害を加えないという通説に意味なんて全くない。

それならばと今すぐ助けに向かったとしても、今能力を十分に発揮できない俺とこの人数では心もとないことこの上ないのだ。

…せめて今の脆弱な俺と同等かそれ以上の実力者が一人いれば戦況は大分変わってくるはずなのだが、それは贅沢といえよう。

とても歯痒い思いだが、明日早朝にやってくると言われる特殊部隊を今は待つしか方法がない。

そして今の俺に出来ることと言えばとにか体を休めることだ。もしもの時全力を発揮できるように、ね。




「…んっ誰か入ってきたか?誰だ?」



俺が物思いにふけているとお風呂と脱衣所を仕切る扉がガラリと音を立てて開かれる。

俺はそれが誰だか見極めることはもうもうと辺りに広がる白い湯気の中であるため困難だったが、それが誰であるか近くまできてようやくはっきりと顔がわかった途端俺は思わず後ろに下がる。


ちなみにこのお風呂自体大きい作りではない。

それはここが緊急用の施設だからだろうか、一般家庭のお風呂より幾分か大きい程度なのである。(それでも3人ぐらいは一緒に入れるだろうか。はいろうと思えばだが)

だからだろう一歩二歩下がっただけですぐに壁へと行き着ついてしまう。

逃げ場はたたれた、俺は立ち向かうしか方法はなくなる。

そして無断で入ってきたその人物は口元に薄く微笑を浮かべて堂々と俺の前に立ちふさがった。




「バルツァの背中でも流しに来たのだが、もう湯船の中か。少し残念だな。」


「…なん、で入ってきた?『入浴中』の札が見えなかったか?」




オレットは背中まで伸びた薄紫の髪をたなびかせながらクスリと笑う。

その姿に思わずこいつふざけてやがるッ小突いてやろうか!という考えが一瞬脳裏をよぎるが、現在バスタオルを一枚胸元を隠すように巻いただけの扇情的な姿である彼女に俺はそんな気も失せて、どこに目をやればいいか困り果てる。

考え抜いた結果、結局ずっと地面を覗き込むしか方法がなかった。

そんな俺の様子を彼女は面白がってまた笑い出す。




「フフッ私とお主との間にむしろそのようなこと無粋であろう?…それに『裸の付き合いが大事』だと最初にお風呂に誘ったのは確かバルツァではなかったかな?」


「…昔の話だ。今はまずいだろう?色々と」




俺はなおも地面を覗く。

…そろそろ敷き詰めてある檜の木目がゲシュタルト崩壊を起こして、精神が不安定になってしまう一歩手前。

ここから緊急だ出することも視野に入れて行動すべきだろう。いや今すぐにすべきだ、うん。

俺は心の中で覚悟を決めて立ち上がり、風呂からの脱出を試みることとした。





「…じゃあそういうわけで、俺はもう上がるから。」


「まあまあそういいなさんな。ゆっくりしようではないか。昔の好みであろう?ないがしろにするのは良くないと思うぞ?」




強引に俺の腕を絡め取るオレットに俺は抵抗することもできずに、腕は彼女のFカップはあるだろう豊満な胸元に収まった。

ぷにっと効果音が鳴りそうなほど柔らかい感触に俺は腕を動かすことができない。

多分顔を真っ赤にしているだろう俺を不思議そうな目で見るオレット。




「おや?バルツァはこのようなこと慣れていると思っていたが、存外そうでもないらしいな。とてもうぶな反応だ。」


「…まああまり女性と接する機会がなかったから、な。」




事実10歳のある頃から何故か俺は女性に避けられ気味であり、手をつないだりキスしたりした経験は…数回しかないからな。

ましてやむっ胸を触るなんてしたことないし、完全に童貞でありますしぃ!?

だからこんなことされると心臓バクバクと激しく活動してしまって、鼻血出そうになります。

割と真面目に




「…もったいないな。こんなに綺麗な顔をして立派な筋肉をその体に宿しておるのに経験がないとは実にもったいない限りだな。」


「…それは褒めてるのか?オレット」



そう言って寧ろ嬉しそうに笑うオレットに毒気を抜かれながらも、なおも胸に挟まれたままである腕をなんとか脱出させようとする俺。

だが彼女は頑なに俺の腕を離そうとはしなかった。

…何が彼女をここまで駆り立てているのかは知らないが、そろそろ解放してやってくれませんかねえ?

風呂に上がったばかりなのに変な汗が出てくるよ。




「まあまあ座りたまえ。積もる話もあることだし、その間私が背中流してやるからさ。」


「…それは別に、お風呂でなくても、出来るぞ?」


「だが別にお風呂でやってはいけないわけではあるまい?何心配するな。優しく洗ってやるから。」



たどたどしいながらも何とか言葉を紡ぐ俺を彼女は一蹴し大きな鏡の前に座らされる。

鏡は相当に曇っていて俺の顔は映し出される事はなかったが、きっと映っていたとしたらそれはそれは酷く情けない顔をしていたことだろう。

見ることが出来ない鏡に寧ろ感謝、だな。




「…それじゃあ、頼む。」


「フフッバルツァに任されたからには誠心誠意真心をこめて奉仕するとしよう。」



すでに俺は逃げても無駄だと諦めの極致に達していて、彼女になされるがままになる。

彼女は大人しくなった俺に躊躇なく、泡を吸ったスポンジをあてゴシゴシとこすり始めた。

それがあまりにも体の芯に響き渡るほどの気持ちよさだったので思わず小さく声が漏れてしまう。




「…どうだ?気持ちよかろう。こんなこともあろうかと毎日風呂場で気持ちいい洗い方を練習していたのだ。お主がここまで喜んでくれるとは、練習したかいがあるというものよ。」


「…なんで、そんな、こと、を、練習してんだ、よ。」




なおも続行される彼女の体を洗う行為に快感の波は俺を飲み込まんとしている。

やばい、このままでは…溺れる、自分を、いつも無表情で何にも興味を持っていないような仮面をつけた自分を保てなくなる!?

俺は何とか言葉を介して意識をそちらにそらしこの場を切り抜けるべく、オレットに話しかけた。




「…そっそういえばお前『モルナ隊長』って呼ばれてたけど、どういうことだ?お前は『バイオレット=ジ=トレスティ』、だろ?」


「んっ?あぁそのことか…」



苦し紛れでつぶやいた質問が案外的を得ていたのだろうか。

後ろからバツが悪そうな声がして彼女の動きが止まった。

…それほど重要なことだったのだろう。奇妙な緊張感が二人を包む。

しかしそれもほんの数刻の間だけだった。次いで真剣な声で彼女は告げるのだ。

自分の正体を、真実を、包み隠さず、俺に




「私は正しく『バイオレット=ジ=トレスティ』であった。が今は違う。私はどうやらおとぎ話でよく聞いた『輪廻転生』をしたようだ。姿かたちは似ているが別の体なのだ。一応この時代では『モルナ=リズフィード』とそう呼ばれているぞバルツァ。」


「…てっ転生?そっそんなことが」



俺は激しく動揺した。

いや転生の存在自体知らなかったわけではない。むしろ異世界に行ったら必ずと言っていいほどそのワードは出てくるし、ファンタジー小説でもそれはテンプレートだったりする。

しかしそれがいざ目の前で行われているとなると信じるのはとたんに難しくなってしまう。

確かに姿かたちは前の彼女と変わらぬように見えた、若干髪色が薄くなっているきらいがあったが特に気にならない程度だったのだ。

でも俺が転生を信じられない本当の理由は、彼女が死んだのだという事実を俺は心のどこかで理解したくなかっただけなのかもしれない。

あの時俺の腕の中で死んでいった彼女を、夢や幻にしてしまいたかったのかもしれなかった。

そんなのはとっくの昔に乗り越えられたとそう思っていたけど、どうやら完全には乗り越えられていなかった、ようだ。

そんな弱いままの自分が俺はたまらなく嫌になる。くそっ




「あぁ私もびっくりした。不思議な感覚だったよ死んだはずなのに赤ん坊になって乳を吸う自分にな。…それに私だけが特別なのかほかの前世の記憶まで蘇ってしまって、大変だったな。記憶の整理をするのが」


「………」



俺もこの長い500回を超える異世界転移の旅において最も困難であったことは元の世界に帰ってきた時の記憶の整理だった。

一回の旅で数年、数十年と帰れない時もある異世界転移において元の世界との境界線はとても曖昧になってしまいがちだ。

…いくら異世界に行っている間は年を取らないからといって、同級生の中学生はたまた小学生に話を合わせるためわざと子どもらしい言動を心掛けていたことには本当に苦労したものだ。

でもそれでもすべては実際に自分が体験したことだ。難しいとは言えある程度の踏ん切りは簡単に付けることができた。

(言うならば俺は空気になれば良かった。誰とも交わらず静かに日常を送る…とても人として寂しい思いをしたが、家族がそれを支えてくれたのでことな気を得たのだ。)

しかし比べて彼女はどうだろう?

彼女の話がもし本当だとするならば、行ったことも聞いたこともない場所や人物の記憶が無数に自分を突き刺し、その空いた記憶スペースに侵入して染み込んでくる感覚。

それはとても一人では耐えきり難いことではないだろうか?苦しくて苦しくて、でも誰にも相談することはできない、痛みを分かち合うことはできない。

とても辛い半生であったことは容易に想像がつく。

それでも目の前の彼女は最初に会った時涙を貯めながらも俺に向かって笑ってみせたのだ。

簡単なことではない、彼女が現在正常で居続けられていること自体並大抵の精神力ではなかった。

彼女は強いのだ、とても。人として元仲間として彼女のことを俺は誇りに思う。



「…よく、耐えた。えらい。」


「んっ。バルツァのことばかり考えていたらなんだか勇気をもらってな。だからここまで持ちこたえられた。記憶に押しつぶされないですんだのだ。」


「…そんな俺は、何も、できなかった、のに。」



現実世界での約七年前『オレット』、『バルツァ』とあだ名で呼び合う仲だった二人。

しかし二人の最後の幕切れは呆気ないものだった。

他の狂王と相打ちとなり、血反吐を吐くオレットをただただ抱くしかなかった俺。

彼女は最後に言ったものだ『これまでの人生…悪くなかったぜ。』って

俺は自分を責めた、彼女を何故引き止めることが出来なかったのか、どうしてこうも俺は仲間一人も守れない男なんだって、まるで滝のように打ち付けてくる雨に誓った筈だ。

俺はみんなを守る正義の味方ではなく、手のひらの中に入る掛け替えのない人達を守る為に戦うとな。

それが今はどうだ?赤神さんでさえ守りきれずに敵の手の中で踊らされている。

俺は何も出来ないままでいるじゃないか。

情けない、本当に



「…バルツァは少々一人で抱え込みすぎだ。少しは私に頼れ、絶対反故にすることはないのだから。」



まるでこちらの考えてることなど全て分かるといった態度で言を返すオレットに俺は何もいい返せなかった。

彼女は彼女なりに俺を気遣っていたのかもしれん。

俺の気を紛らわせるためにこうしてお風呂場まで足を運んでくれた、肩の力を抜く為にわざとこんなバスタオル一枚の格好で現れる。

そんな気がしてならなかった。

いやきっとそれが正解なのだそうに間違いない!



「…ありがとうオレット、いやモルナ。お陰で決心がついた。お風呂から上がったらどこか二人きりになれる場所に案内してくれ。」


「…ほうっ。それは楽しみだな!それでは早めにお風呂は上がるとするか、な。」



今までが嘘のように素早く俺の体を洗い終えたモルナは、何故か自分の身体も念入りに洗うとそそくさと風呂場から出て行く。



「それじゃあ!私の準備が整い次第場所はまたマレイトスにでも伝えておこう。ではな!」


「…あっあぁまた、、、」




俺の戸惑い気味の声は彼女の思いっきり脱衣所と風呂を仕切る扉を閉める音に完全に消されてしまう。

いつもの彼女らしくない、慌ただしい行動に内心かなりの疑問を感じたが考えても仕方ないと俺は思考を放棄して、代わりに遥か上空を見つめた。

空には星が幾千も散りばめられ一つ一つが自分はここにいるんだと強く主張するかのように強く瞬いている。

今宵は碧の三日月。まだまだ寝付くには早いと夜空もそう訴えているかのようだった。

部屋に行くところまでかけなかったw次こそは必ず…!?


次回予告

今度こそオレットの部屋へ!


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