信じられない話
第二章のスタートです!あと1万PV達成です!これからもよろしくお願いします。
強風に煽られてカサカサと葉と葉が擦れ合う音が今俺たちのいる小屋の中にまで聞こえてくる。
目の前には木で出来た横長で人一人が有に横たわれるだろうテーブル、それを挟んでオレットと彼女の従者だという『マレイトス』が白いソファーに腰掛けていた。
時間にして午後7時位だろうか?闇門からこの森へ入ってきて真っ先に見えた小屋の中に俺たちはいる。
小屋の中は以外と綺麗に整頓されていて、どうも生活感がない部屋が多かったがオレット曰く「緊急時や作戦の時以外には使わない」らしいから使用する回数も少ないのだろう。
その割には埃被っていないようだが、定期的に掃除しているのかもしれない。ご苦労なことだな。
ちなみに俺の隣には緊張や焦りによって貧乏ゆすりをする早乙女さんがいる。
彼女は彼女でこの小屋に着いた時一緒に傷ついた我が幼馴染と共にいたわけだが、治療のため清詞は別の部屋に移動させられていた。
それを不安そうに何度も何度も本当に彼らに任せて大丈夫なのかと俺に聞いてきたが、俺は大丈夫なんだと彼女に言い聞かせて何とか早乙女さんも落ち着いてくれたようだ。
彼女は今にも清詞の元へと飛んで行きそうなのを何とか押し殺して、この話し合いに参加してくれている。
この話し合いの意味を彼女自身理解しているのだろう。何も分からないことは不安で仕方ないものな。
せめてこの話し合いで敵味方さえ分かればいいのだけど…
「…というわけです。お分かりいただけたでしょうか?」
長い長い説明がようやく終わり綺麗に話をしめくくったあとに待つ長い沈黙、その間に説明をしてくれた『マレイトス』は無表情で歪な赤い仮面の彼はこちら二人に正面から向き合った。
説明の間彼がこちらに仮面を向けるたびに隣で「ひぃ!」と小さな悲鳴が聞こえていたが、俺は無言で彼の説明を続けさせていたのだ。
そのお陰でスムーズに彼の説明は耳をながれていったが、内容についてはこちらの予想を遥かに超えたものだった。
黒聖警軍、話に出てきたファルべ大聖国、七人の狂王…それらは正しく俺が10歳の頃転移させられた世界を如実に表している。
勿論名前が同じってだけのただの偶然である可能性もあるが、実際に目の前にはオレット――――以前の七人の狂王にして『紫鬼の虐殺姫』と呼ばれたバイオレット=ジ=トレスティが確かに存在しているのだ。
信じるよりほかに選択肢はない。いやっでもそんなことってあり得るのか?
今まで同じ世界に二度転移されたことは一度もなかった。
だから俺は内心戸惑いを隠すことが出来ない。はたから見れば変わらぬ無表情かも知れないが、確かに俺の心は今乱されていた。
「しっ信じられないですよ!ファルべ大聖国?黒聖警軍?『アポピス』?そっそんなのあるわけない、ないじゃないですか!!」
早乙女さんが俺の戸惑いを代弁するかのように怒号を上げる。
だがそれも無理もないことだ。いきなり沖縄の海岸線からやってきた草原、そこは異世界で今俺たちは非常に危ない場所にいるだなんて一回聞いただけですんなりと理解、行動できるほど人は適応力に優れてはいない。
(…まあ俺みたいに日頃からそういう事態に慣れている者は別だが)
彼女の反応はごく一般的であるといえよう。
しかしそんな彼女に顔色一つ変えることなく(いや、彼は仮面であるからして『顔色』を変えることなどそもそもできないのだが)赤い歪な仮面と黒いフードを纏った彼は淡々と言葉を切り返す。
「でもあるんですよ。常識ですよ?こんなことも知らないでよくこれまで生きてこれたと言いたいくらいです。…本当にこんな人達味方にする必要あるんですか?モルナ様?」
彼のそんな無神経な言葉に腹が立ったのか彼女はその場に立ち上がり、彼を糾弾する。
「はあ!?あなた初対面の人に失礼すぎるよ⁉私そんなの今まで聞いたことなくても十分生きてこれたもの。あなたにそんなこと言われる筋合いはない筈です!」
「…早乙女さん、落ち着いて?どうせ今の彼にこちらの言葉は通じないよ?」
「ぐっ!?」
彼女は怒りのやり場をなくし大人しく座ってくれるまで数十秒かかったが、何とか無事にさっきまで座っていたソファーに帰還し、目の前に置かれた小さなカップ(中にはレモンティーが注がれていて、今なお湯気をあげていた。)を持ち上げぐいっと一気に飲み干す。
彼らの言語は勿論俺たちに親しみがある日本語なんかではない。『ファルべ語』と呼ばれるこの大陸で公用語として用いられる言語だ。(どうやらそれは千年前から少しも変わっていないようだ。それに何だかホッとしている自分がいる。)
ならば何故こちらに彼の言葉が通じたのかと言えば、それは俺の能力の一つ『言の葉を司る者』が上手く働いたお陰だろう。
この能力はどんなに無理難題な一般には理解しがたい、聞いたこともない言語であろうと言葉の意味が瞬時に理解出来たり一度も話したことがないのにその言語を話せたりできる便利な能力だ。
しかもこれは体に触れている相手限定だが、他人にも共用でき持ち主と同じように初めて聞く言葉であっても理解することができる。
だから急にその場に立ってしまった早乙女さんにはその効果が切れて、言葉が途端に通じなくなってしまうのだ。
…体に触れていなくても言葉を理解することができる『言語翻訳機』があればよかったのだろうけど、この場にはない。
オレットに聞いた話ではここにはないが自宅には確かそれらしいものがあったそうなので、クラスメートを救出したら彼女の自宅にお邪魔させてもらうことになるかもしれない。
「…少しは落ち着かれましたか?あなた、淑女ともあろう者がそんな声を荒げてみっともないったらありゃしませんよ?」
「………。」
「…そこまでにしとけ『マレイトス』。彼女は立派な私の客人なのだぞ?これ以上の無礼は私が許さん。」
「おーと、これはこれは失礼をしました。以後気をつけます。」
「うむ。」
まだ俺に触れてすらいない彼女に彼は話しかけたが通じるはずもなく、不機嫌そうな顔を続ける早乙女さんにオレット自らが彼をたしなめた。
彼はそれに素直に従い、場に静寂が訪れる。
「…それで?俺たちはどうすればいいんだ?」
俺は静寂に耐えかねてこれからのことについて聞いてみることにした。
気になっていたことだ、さっきから現在の状況を説明するばかりで具体的な俺の配置については何も言われていなかったからな。
不安にもなろうものだ。
「…そうですね。見たところあなたはかなり腕が立つ模様、少々信頼性には欠けますがモルナ様の護衛を任せたいと思います。」
「…了解。」
ちなみに今回の作戦はまずオレットの部下である特殊部隊の隊員約15名(今はいないが明日の早朝にはここに着く予定となっている。)が相沢くん達の報告にあった建物の侵入し制圧した後に研究所にいる俺らのクラスメートを含めた捕虜約100名を保護、一方でオレットが数人の従者を連れて黒霧の森の奥地にあるとされる最重要秘密兵器を破壊するという手はずだ。
シンプルだがこれが一番確実な作戦らしい。
俺としては研究所を潰す方に回して欲しかったが、それは敵研究所の内容が一般人に触れさせることをよしとしない黒聖警軍の基本方針によって断られた。
仕方ない、ここは彼らの世界であり彼らの事情で奴らとは敵対しているのだ。
所詮部外者である俺たちが関わっていいものではない。彼らに俺らのクラスメートは任せる、その方が都合がいいんだよな?『マレイトス』さん?
「おい、彼の仲間は今も研究所に囚われているのだぞ?彼はそちらの方に組み入れたほうがいいんじゃないか?」
「…そういうわけにも行きませんよモルナ様。あそこには幾多の罠や強敵が待ち構えていることでしょう。情報も一般には秘匿されるべきものがたくさんあるはずです。うかつに部外者を入れるわけにはいかないんですよ。」
「しかし…」
オレットは押し黙りじっとしばらく考え込むと俺の方に顔を向けた。
その顔にはありありと悲壮感が漂っている。
「…すまない、お主の仲間に危機が迫っているというのに現場に行かせることができないようだ。本当にすまない。」
「…別に謝ることじゃない。悪いのは『アポピス』って奴らなんだろう?」
「そう、だな。お主の言うとおりだ。」
オレットはぎこちないながらも笑って、ソファーに深く座りなおす。
そんな彼女の様子を見て、『マレイトス』は不思議そうに首をかしげる。
「…どーも彼についてモルナ様は下手に出ていますよね?いつもは高圧的な態度なのにどうしたんですか?」
「…それほど大切な知人だということだマレイトス。少しは黙っておれ」
「ぎぃい!!!」
オレットが指を軽く鳴らすと今まで軽口をたたいていたマレイトスの頭は急に何らかの力で締め付けられていく。
それは数十秒の間だけのごく短い時間のことだったが、彼の悲鳴は思わず目を背けてしまいたくなるほど悲痛な叫びとなって耳に残る。
解放されたあとの彼は息を荒げ、仮面のせいで表情は見えなかったがきっと仮面の下には殺意に満ち満ちた表情が隠されていることだろう。
早乙女さんもあまりの出来事に思わず俺の手を握って、精神の安定に努めているようだ。
「…やはり他人に厳しいな。そこまでする必要があるのか?」
「何彼らは元々生きた人ではない。遠慮をする必要もないさ。」
「…変わってないな。やっぱり「人」は嫌いか?」
「…嫌い、かもかもしれないな。今だに人って奴は」
オレットは俺に聞こえるぐらいの小さな声で呟きながら笑って誤魔化し、ソファーから立ち上がる。
確か彼女は王であった両親を「人」に殺され、あまつさえ国を一時的ではあるが奪われた。
彼女の両親を殺した「人」はさらに支配した『紫ノ国』に住まう多くの住民達を虐殺し、その数は10万人にも及んだと聞く。
その後転移してきた当時10歳の俺と共に『紫ノ国』を奪還し、その玉座についた彼女が「人」を酷く憎むようになったのは当然といえば当然のことかもしれない。
でもここは彼女の『紫ノ国』が既にない1000年後の世界だというじゃないか。
過去のことは水に流して新たな世界を満喫してもらいたいものだ。彼女のためにも、ね。
「さて少々話が長引いてしまったが、そろそろ晩餐にでもしようか。明日の為に精気を養う必要もあるからな。」
彼女は俺ら二人を見渡した。
特に俺にも早乙女さんにも反論はなく異世界に来て初めての食事をする手筈となったのだった。
◇
「すまんな。このようなものしか用意できなくて」
目の前には水で戻したパンとある程度保存の効く食材をごちゃまぜに煮込んだスープ、それに水分を飛ばしてカラカラに干された肉切れが銀色の皿に盛りつけられていた。
とても豪華な食事であるとは言えなかったが、ここはあまり使われない場所であり人の行き来が少ない為に食材は専らこういった長期間保存できるものに限られてしまうのだ。
贅沢はいっていられない、食べ物があっただけでも感謝しなくてはならない。
俺は少し気を落としているオレットの目を見る。
すると今まで気づかなかったが、彼女の瞳はとても綺麗な紫色をしていた。宝石のようにキラキラと輝いていてじっと見つめていると吸い込まれてしまいそうな錯覚を覚える。
さらに彼女が着ている男を誘惑するような際どい服、豊満なある部位にも目がいってしまう。
しかしずっと彼女を見つめている訳にもいかないので、俺は雑念を払って簡潔にオレットの言葉をやんわりと否定することにした。
「…ただで食べられるだけありがたい。」
「うっうん。食べ物があるだけ良かったよ!ありがとうモルナさん!」
早乙女さんは俺の肩に手を置いてお礼を言う。
…じゃないとオレットには通じないからだ。ホントに難儀な能力やで?この『言の葉を司る者』っちゅう能力は
別に触れずとも他人に使えるようになればもっと使い勝手がいいんだけどそう易々と能力が進化するわけではないし、多少の不便さについては我慢するしかないんだよね。
「…どういたしまして。では食べるとするか」
少し機嫌が治ってくれたのか彼女は小さく笑みを浮かべ、それから食べる前の号令をかける。
勿論現代日本のようにここで手を合わせて『いただきます』と言いつつも食べ始めるわけではない。
異世界では色々な食べる前の儀式があるのだ。(まあ現代でも国によって食べる前の儀式が違うわけだが)
果たしてこの世界ではどんな儀式が待ち構えているのか。
1000年前に確かにこの世界にいたはずの俺は頭を抱えて何とか思い出そうと思考を深めるが、何一つ思い出すことができないでいた。
見つかりそうで見つからず、何かのピースくらいはつかめたかと思ってもすぐにそれは手を離れてどこか遠くの記憶の彼方へ行ってしまう。
俺は少しだけ焦った。焦ったがどうすることもできずに現実世界の俺は微動だに動かない。
そしてついにモルナの口から衝撃の言葉が発せ、られる。
「これは生きていく為には仕方ないことだ…許せ。命に永遠あれ。」
「………。」
…えーと?オレットさん?もしかしてそれ真似しないといけない感じですか?
俺と早乙女さんは瞬時に向き合い、互いにどちらが先に言うか言葉ではなく態度で牽制し合う。
誰だって人前でそんな小っ恥ずかしい台詞なんて吐きたくない。
おっ俺は嫌だぞ⁉過去に中二病全開の台詞を吐いて見事に爆死したからな!年季ってもんが違うのだ。
失敗だけは数えきれぬ程やってきたからな、俺は。
「…二人で何してるんですかねえ?モルナ様」
「ほっときなさい。あれがきっと二人のスキンシップなんでしょう。無粋な真似はすべきじゃありません。」
「そっそういうものですか…」
オレットとマレイトスのそんな勘違いも甚だしい会話が聞こえたが、俺と早乙女さんは闘争をやめようとはしなかった。
こうなったら最早意地である。
絶対に相手より先に言ってたまるものですか!
「…まあ程々にしときたまえよ。スープが冷めてしまうからな。」
そんなオレットのやんわりとした注意も虚しく俺らが食べ物にありつけたのはそこから数十分も過ぎた頃で、その時にはすでにスープはかなり冷えていて俺らはスープを温め直すという無駄な労力を使ってしまったが食事自体は満足のいくものでそこそこ美味しかった。
もっと食材、あるいは調味料さえあれば俺が上手く調理してやるのに…と何も置かれていないまっさらな台所を見て思ったのだ。
マレイトスは口軽くて信頼感なさそう…
おしゃべりだから説明するのは何となくうまそうですが
次回予告
突如やってくるお風呂とオレットのネグリジェ
果たして久音くんの理性は耐えることができるのか!?w




