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釣瓶落とし

23歳独身男性の職探しです。


「だからさ、こう・・・俺のイケイケパワーを全開に押し出せる職場が良いんだよね。ほら、俺ってオーラが人とは違うっていうかさー光輝く?みたいな?俺みたいな奴、放っといてちゃ駄目でしょ、みたいな?」


「はぁ・・・そうですねぇ・・・」


はじめまして、僕の名前は瀬戸悠一です。瀬戸とお呼びください。そんな僕は絶賛クレーム処理、ではなく立派なお仕事中です。

仕事内容は、妖怪の職場探しのお手伝い、相談窓口です。


いえいえ別に頭は沸いていませんよ。ただ色々あって気が付いたらあの世で妖怪専門のハローワークの職員になっていただけです。ハローワークというのも名ばかりで、相談窓口で職場を提供して気にいればそのまま手続きという杜撰なものですが。ちなみに気に入られなければひたすら管を巻かれます。


まぁつまり、現在管を巻かれているわけですね。


「おい、兄ちゃん。あんたちゃんと俺の話聞いてる?あんたが要望を聞かせろって言うから話してやってんだからさーその態度何なの?」


お前の態度が何なの。

いえ、失言でしたね。こんなのはもう慣れっこです。


「申し訳ありません。ですが、しっかりとお話は伺わせて頂きました。えぇと、要するに釣瓶落としさんは自分がもっと輝ける場所に就職したいと、そういうことですね?」


僕がそう言うと、カウンター越しの釣瓶落としさんはドヤ顔で首を縦に振りました。これがウザいのなんの。

この釣瓶落としさん(23)はとても熱心な人らしい。いや妖怪ですけども。

釣瓶落としという妖怪はいわゆるビックリ系の妖怪だったはずです。木の上からおっさんの生首が下りて来て、下を通っていた人間を驚かせ、時には食い殺してしまう妖怪ですね。これがおっさんの首ではなくただの火の玉だったり、名前が釣瓶おろしだか釣瓶火だか色々あるのが面倒ですが、だいたいそんな感じでしょう。

証拠に、目の前の彼は見事におっさんフェイスで生首です。ふよふよ浮いてますよ。顔面のサイズは赤子一人分といったところでしょうか。しかしまだ23歳だというのにこのおっさんフェイス、将来が心配になりますね。


彼の将来については置いておいて。僕は数十分前に彼に田舎の林の中、それも人のほとんど通らない場所、という職場を提供させて頂きました。今は平成の世ですから、人食いの妖怪がひょいひょい現れるのは大事件になります。別に人を食べなきゃ死ぬということはないのですが。


しかしこの釣瓶落としさん(個人名は鶴部)はこの職場に文句があるらしい。「俺の有り余るポテンシャルを生かしきれない!」と。何様か。

時折通る人間を驚かせるだけの簡単なお仕事だというのに。


「では、何か具体的にここがいい、などはありますか?」


「やっぱあれっしょ、神社とかさ、俺のオーラを受け止めて、増幅する?って感じの」


すげぇムカつく。

神社・・・ですか。あそこはすごい人気なんですけど。神社には異界の空気が流れていますから、妖怪変化その他諸々の人気スポットなんですよねぇ。まぁ神社の主と上手く付き合わなくてはいけないので、難しい職場でもあるのですが。というかこの若造にはまず無理です。出直して来いよ。


「えーと、それは少し難しいですねー。その、もう少し社会勉強をしてから・・・といいますか」

「あぁ?俺には出来ねぇってのかよ?」

その通りですぅー。

「それにですね、神社にはおとろしさんが勤めていらっしゃるので・・・」


おとろしさん。妖怪おとろしのことですね。この妖怪もビックリ系で、普段は神社の鳥居の上に鎮座しているのです。そしてその下を通った人間を上から落ちてきてぺちゃんこにする・・・とかしないとか。見た目的には釣瓶落としさんを毛むくじゃらにした感じ。もろかぶりなんですよ。

しかも、おとろしさんは基本的に神社にしか配属されない決まりがあるので、釣瓶落としさんの出る幕はないのです。知り合いのおとろしさんは鳥居の上からイケメンをハンターしてましたけど。イケメン相手にしか下りる気がしないんだとか。ちゃんと仕事しろよ。


「あー、あの毛玉には会いたくねぇな。死ぬほどムカつく」

釣瓶落としって総じて禿げてますものね。男の嫉妬は醜いですよ。


「とにかくだっ!もっと人が多くて俺の力を見せつけられる職場がいーんだよっ!」


わがままですねぇ。仕方ありません。そんなに人間の多い場所がいいなら、とっておきをおご紹介しましょう。

「オーケーです。では・・・都心なら文句はありませんね」

「あぁそれでいい!なんだ案外話がわかるじゃん」

「いえいえ、それほどでも。では今すぐ手続きを始めて構いませんね?」

「おう!よろしく頼むぜ~」



釣瓶落としさんは無事に就職しました。テレビ塔に。

要するに高いところならいいかなと思って。しっかり頂上に陣取れ、と念を押しておいたので今頃地上に人が居るのかどうか見えなくて嬉し泣きをしていることでしょう。

散々ごねてくれた礼だ。ありがたく受け取って欲しい。


さて、邪魔者も片付きましたし、お昼休憩に入りますかね。



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