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04 召喚の日 ②

やっと書けた

そしてやっと次話で召喚

長かった・・・

 2089年10月24日  10:30AM



 2時限目終了を告げるチャイムが鳴り、それを待っていましたとばかりに喧騒が広がる。


 2時限目は古文、現代社会のさらに現代をひた走る10代少年少女の中で、先人たちの軌跡である過去の文明に思いを馳せる者は多くない。


 彼らが目を輝かせるのは、いつだって流行の音楽やドラマといった「今」のものだ。


 授業で溜まった鬱憤を晴らすかのような生徒たちの様子に、教壇の先生が苦笑しつつも何も言わないのは、かつての自分と若い彼らを重ねているからだ。


 どこまでいっても「ありふれた日常」がそこにあった。



「おい、イツキ! 抜け出すぞ! 屋上の給水塔の裏だ。穴場なんだぜ!」



 ガハハという豪快な笑い声と共にかけられた言葉。座ったまま声の主を見上げると満面の笑みの山田太郎。

 イツキが苦笑しながら立ち上がる。「継続は力」を信条に普段は授業をサボったりしない真面目なイツキだが、世紀の日に目を輝かせる親友を前にしてもなお頑なに信条を通すほど真面目でもない。


 時計を見ると10時32分、実験まであと28分。


 

「わかったよ、行くよ」

「そう来なくっちゃ、親友!」



 教室を出てゆく身長175cmも無い細目の少年、その肩に手を回し、胸をバシバシ叩きながら横を歩く筋骨隆々の巨漢。

 知らない人が見たら、今からトイレに連れ込まれカツアゲされるのではないかと眉根を寄せるその光景も、実際はアンバランスな二人の友情の表現であることを皆知っている。


 ちょうど教室を出るところだった先生も二人の背中を見ながら、懐かしそうに眼を細める。

そんな日常、何にも替えること叶わない日常がそこにはあった。



 興奮しその口を閉じることなくしゃべり続ける太郎に適当に相槌を打ちつつ屋上に出ると抜けるように広がる青い空。

 やってきた寒波に負けじと降り注ぐ日差しのおかげで思ったよりは暖かい。


 足早に給水塔の裏へとまわり、ひんやりとしたコンクリートの床に腰を下ろす。横を見ると太郎はもう携帯ディスプレイの電源を入れていた。


 世界を覆い尽くすネットが地上波の番組を駆逐して久しい。今やコンテンツ配信の主流はネットであり、今見ようとしている番組もネット配信世界最大手オンリー・スカイのサイエンスチャンネルだ。


 高精度同時多重翻訳ボトムを通して届けられる司会者の声には、横で目をキラめかせる太郎に負けないくらい興奮が滲んでおり、立体ホログラムで見るその顔も紅潮していた。


 各デバイスに付属しているマイクが視聴者の声を拾い、スタジオの歓声として反響する。配信元の裏方ではその調整や意見拾い上げで戦場になっているはずだった。



『みなさま、世紀の実験まであと15分となりました!この感動を皆様と分かち合えることを誇りに思います』



 抑えきれない期待を含んだセリフに、イツキが違和感を感じる



「あのさ、あくまで《実験》なのに、なんでみんなこんなに期待してるのさ? まず超機密が配信されること自体おかしいし、そもそも失敗することだって十分あるでしょ?」



そんなイツキの問いかけに、太郎が不敵に左頬を釣り上げた。



「これはな、《実験》という名のお披露目なんだよ。理論の実証には何度も成功していて、目に見える規模で行うのが今回の《実験》なんだ。成功はトップも断言済だ。それに配信されるのは発生した《現象》だけだからその技術はわからない。撮影してるのも研究所のスタッフなんだぜ?」

「ああ、予算狙い……かぁ」

「そんな夢の無い事言うんじゃねえ!」



 半ギレ状態でイツキの胸倉をつかむ太郎。傍から見たらカツアゲの現場そのままだ。



「だって、財政縮小傾向にある連邦政府予算獲得のための世論作りじゃーん」

「おい、それ以上言うといくらお前でも許さんぞ、これは夢だ! ロマンなんだ!」



 奇跡的にこちらの声が拾われたのか、空気を読んだのか、興奮冷めやらぬ司会者が告げる。



『これは世俗的な話ではありません。彼らは見せてくれるのです! 夢を! ロマンを!』


 イツキは親友渾身のドヤ顔に苦笑しながら空を見上げた。




■  ■  ■  ■  ■






「ブリッツさん」



 ロイズからの叱責と呼ぶにはヒステリックに過ぎる罵倒が終わり、廊下を歩くブリッツの後ろから声がかかる。


 振り向かなくてもわかる。ブリッツは足を止めずに答えた。

 


「なんだギルバート」



 ギルバート・ロン・ヴィッセル。年若くして宮廷魔術師団に招聘されたのに、奢らず、変わらず、この国のため鍛練し技術を研鑽し続ける若き獅子だ。


 その直向な姿勢と愚直な若さに羨むことはあっても、憎むことなどない。ブリッツは彼を認め、将来の部隊の中心人物として育てるべく、日頃から気にかけていた。


 だから最近の彼の言動も知っていたし、何を言わんと声をかけてきたかもブリッツにはわかっていた。



「本当にこのままで良いとお考えか」



 言いたいことはよくわかる。

 だからこそあえてブリッツはその立場と職責に従った答えを口にしなければならなかった。

 


「なんのことだ?」



 若獅子が一瞬目を剥き激高した。



「なんのことだ……だと……? わかっているでしょう!! このままだとこの国は死ごぅぃっ――」



 ブリッツが無言で右拳を振り抜き、脳を揺さぶられたギルバートがたまらず膝をつく。そして何をされたか一瞬理解できず呆然とブリッツを見上げた。


 立場、身分、理屈、全てがブリッツの行動を肯定するはずだ。しかし彼はこれ以上ないくらい苦しげな顔で歯を食いしばりながら呻く。



「ギルバート、貴様は上官に対する口のきき方がなっていないようだな」



 ギルバートは、何を言っているのかわからないといった表情だ。

 

 だがそれもしょうがないのかも知れなかった。ブリッツは何度もギルバートと訓練で技術を交え、酒場で杯を交わし、共に戦場を歩いた。

 それは既に単なる上官、部下の関係を超え、男同士が正しくぶつかる戦友と言い得る関係なのだ。


 公の場にそれを持ち込むほど無能な二人ではない。だが周りに人がいない時まで外面を取り繕うほど二人の信頼関係は浅くない。


 そして今は周りに誰もいないのだ。それが意味することを一瞬で理解した時、ギルバートの顔に朱が差し始める、その双眸には怒りの炎が灯り始めていた。



「それが……あなたの答えか……っ!」



「ギルバート、我々は何だ? 我々は武官なのだ。あくまで我々愛すべき祖国の剣なのだ。剣が主の意思を無視するなどあってはならい」

「今はその「主」が問題でしょう! 幼い殿下を手中に収めるガストラ家、建前上それを王権の簒奪だと反旗を翻すペルーナ家、どちらも屍肉を漁る薄汚い獣だ! こんな時まで我々は黙ってていいんですか!?」



 確かに現状はギルバートの言う通りだった。


 第二王子を巡る出口の見えない争い。そもそもガストラに王軍である宮廷魔術師団に命令する権限など無い。だが、王不在の中、暫定措置として第一継承者がその権限を持つことは法にも謳われていることで、形式的だとしてもその第一継承者がサインをした書面がある以上、それは正式な王命と解釈される。


 従って第二王子を操るガストラが実質的な王権執行者で、対するペルーナは名分上、反乱を起こした逆賊だ。ブリッツ達宮廷魔術師団はその権原の正当性に疑問をもちつつも、命令を受けた以上は反乱を鎮圧せねばならない。


 実際は貴族同士の醜い権力争いによる内紛だというのに、その一方の尖兵として片棒を担がなくてはならない。それが王家を守り祖国を守り民を守る使命を持つ誇り高き彼らにとってどれだけ屈辱的なことか。

内紛により停滞する経済、疲弊する民、北方の大国ゴルドランカは水面下で両軍を支援し更なるデステニアの弱体化を狙い、西のニルベルクは緩衝地帯に軍を集め始めている。だが肥え太った豚共はそれらを気にしようともしないで権力だけを追い求める愚か者ども。


 ギルバートだけがそんな鬱屈した想いを抱えてるわけではないのだ。


 だがそれでもブリッツの答えは変わらなかった。



「こんな時だからだ。こんな時だからこそ、せめて我々は一振りの剣でなくてはならない」

「だからそんなことを言ってる場合では――」

「ならば何とする? 剣が剣であることを忘れた先に何か答えがあるというのか? この状態から武力を持つ新たな勢力が生まれることで、三つ巴の泥沼の戦いになるだけだ。我々が殿下の背後に座ったとしてもまたそれを良しとしない勢力が現れ戦になるだろう。そうしてこの国は滅ぶ。たとえ結果的にだとしても、大義は皇剣を手にした者だけが口に出来るのだ」

「そ、それは……っ」



 ギルバートとて馬鹿ではない。そんなことは百も承知で、手だてが無い事も頭ではわかっている。

 王の血を証明する皇剣も、ましてや証明対象たる王権継承者すら手元にいない。そんな状態で、護剣が己の主にその身を向けてどの口で大義を語れるというのか。

 だがギルバートには認められない。彼の背骨を貫く芯が、理解はしても納得することを拒否するのだ。

 ブリッツはそんな目の前の男を眩しそうに見つめた。

 

 以前より現役を退いていたものの、こんな時に『鬼才』ブラームス元師団長がいればもう少し何かが変わっていたかもしれない。しかし彼は大深度地下牢獄に投獄され生きているかも定かではないし、今この荒れ地にいない人間を頼って解決することなど何もない。


 ブラームスの代わりに師団長の座に座ったのは予てより貴族との繋がりが太く、上に媚びることしか能のない『遠吠え』ロイズだった。団内の不満も爆発寸前だ



「我々は我々のやるべきことをやるしかない。史実を鑑みてももうこれしかない。召喚対象のリミットを外すよう命を受けた。すぐに取り掛かるぞ」





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