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02 はじまりの時

見てくださってありがとうございます。

初お気に入りもいただきました!

感想いただけると嬉しいです。

ギャグパートはもう少し先です


異世界召喚ものなのに、未だ主人公が異世界に行っていない件について


感想をお願いしますとか言っておきながら制限かけていたことに気づき愕然としています。

――――運命の日より1年と4か月前



始世歴4624年  6月10日




「……殿下! 逃げましょう!」


「じい……、ブラームズ、私はもういいのだ。」





 アルスは外を見ながら軽く微笑む。なんら含むところ無い純粋な笑みだ。

 それは心から諦めた者にしか浮かべることの出来ない表情だった。

 それを見たブラームスが激昂し口を開きかけるも、悔しそうに噤む。

 


 デステニア王城南西部幽閉塔

 


 今まで、公的な立場として国政に参画してきたという建前もあって、処刑が決まった今でも投獄されることは免れた。ベッドも机も書物もある。この部屋を動き回るのも自由だ。

 しかしだから何だというのだ。国賊の烙印を押され自由を奪われ、近い将来命を奪われることには変わりない。

 権威や建前を何よりも尊ぶ貴族たちの都合により与えられた、多少広い鳥籠でしかない。二度と届かぬ空を眺めることを許可されたに過ぎないのだ。

 

 

 部屋の入り口には、屈強な兵士が槍を掲げて微動だにしない。廊下側も同様だ。塔内部各所にも少なくない兵が配置されているはずだった

 彼らは、アルスを守るための兵士ではない。貴族側から送られてきた兵士であり、アルスが何か行動を起こした時に捕え、場合によっては殺すために配置された看守だ。

 


 逃げられるはずなど無い。

 幼いころから帝王学の一環として、剣技や体術を嗜んできたものの、多数の本職の者を相手に勝てる自信など一かけらもない。そもそも武器すら奪われている状態でどうしろというのか。

 ブラームズが「逃亡」を口にした時も、それが明確な翻意の表明であるにも関わらず、何の反応も示さなかった。

 たかだか16歳のガキとジジイに何が出来る、彼らはそう思ったのだろうし、現実としてそうなのだ。


 

 ブラームスが何か言いかけてその口を閉じたのも、その現実に歯噛みし何も言えなくなったからだ。

 


「ねえ、ブラ……いいえ、じいや、聞いてくれるか? 私はじいやが好きだ。生まれた時から私を可愛がってくれた。感謝している」

「殿下聞いてください!私は――」


「だからそれ以上自分の立場を悪くするようなことを言わないでくれ……私を悲しませないでくれ」

「~~っ!」



 死ぬからにはせめて一人で死にたい。

 実現不可能な希望に自分勝手な感情ですがった先に、何を手にすることが出来るのか、きっとそれは大事な人たちの不幸だ。守りたい人たちの絶望だ。

 手にするにはあまりにも重く、口にするには軽すぎる。自分には決して耐えられないだろう。

 大事な人を傷つけなければ手に入らないのならば、自分がその痛みを背負おう


 ゆえに心優しきアルスは諦めることを選択する。

 死への恐怖や生への渇望はもうどこかに捨てた。

 夢や希望もきっと忘れられたはずだ。自分はもう大丈夫なはずだ。何も問題ないなずだ。



 だから……




「じいや……、そんな顔しないで……っ!」




 生まれてからずっと可愛がってくれたブラームス宰相。

 自分の秘密を知る四人のうちの一人だ。

 


 その忙しい職務に関わらず

 壺を割って泣いた時、一緒に謝ってくれた。

 おねしょをして泣いた時、メイド長と共に証拠隠滅してくれた。

 寝る時間、暗がりが怖いと泣き叫んだ時、寝るまで絵本を読んでくれた。



 ブラームスの誕生日に料理を作ってあげようと、厨房に忍び込み、怪我をした時、必死に治癒魔法をかけてくれた彼の顔を、忘れない。

 その後、危ないことをした自分に激怒した顔も

 理由を聞き優しく抱きしめてくれたことも

 料理とは言い難い黒焦げになった物体を美味しいと食べてくれたことも

 


 絶対に忘れない


 


 大好きだった。

 いつもニコニコ笑っていた。彼をずっと見てきたし、彼はずっと自分を見守ってくれていた。

 絶対に失いたくない、絶対に守りたい人だった

 



 そのじいやが

 見たこともない形相で、ボロ雑巾のように顔を歪め



 泣いていた。

 


 アルスを睨むよう限界まで開き、血走った目からは、堰を切ったように涙があふれ、噛み締め過ぎた歯からギチギチと音が聞こえてくる。

 涙を必死で堪えているのはわかる。だがその試みは完全に失敗していた。

 


 「じいや……」



 アルスは声をかけるも、何を言うべきか、その力無き声の着地点を見いだせず、次の言葉が出てこない。

 ブラームスが震える唇の隙間から、今まで聞いたこともない低くくぐもった声を絞り出した。

 


 「……殿下、私は――」

 「やめて!」



 たまらず遮った。その先を言わせてはならないと直感的に思ったからだ。

 その先を言うなと、全力で睨みつけた。

 だが彼は止まらない。



 

 「殿下が果てる時、わたしもお供いたします!」

 



 認めるわけにはいかなかった。何があっても絶対に認めるわけにはいかなかった。

 


 「ブラームスっ!!」

 「かまうものか! 衛兵が聞いていいようが、どこぞの馬鹿が盗み聞きしていようが構うものかっ! 絶対に助けますぞ殿下! この命尽きようとも、絶対に助けて見せますぞっ!」

 「~っ!!」

 


 涙が噴き出した。

 

 諦めたと思っていた感情が、捨てたと思っていた希望が、奔流となって体を駆け巡る。

 みっともなく生に縋りたい気持ち、なさけなく喚き散らしたい死への恐怖、こんな状況に追い込んだ連中に対する怨嗟、全てがごちゃ混ぜになった激情が涙となり止めどもなく頬を伝う。

 体面も尊厳も、取り繕うものなど何一つ残ってはいなかった。

 気づけば叫んでいたのだ。



 「死にたくない…… 死にたくないよ! 誰か助けてっ!」

 

 

 力無く崩れ落ち、幼子のように泣きじゃくる自分を、ブラームスは優しく抱きしめて叫んだ。


 「執行の日まであと7日、待っていて下され殿下、必ずやお迎えに上がります!」




 明確な反逆の意思、そしてその意思表明。

 怒声でなされた宣言は一線を踏み越えた。少なくとも衛兵はそう思ったはずだ。

 しかし、有形力の行使に至らない限り、未だ国の重鎮であるブラームスをどうにかする権限は高々一衛兵には無い。

 部屋を出ようとするブラームスの前に立ちはだかり剣呑な空気をまき散らす衛兵。

 ブラームスが一括する。



 「どけいっ! 小童がっ!」



 気圧された衛兵がしぶしぶといった風に道を譲り軽く舌打ちをする


 今日ここでなされた会話は、一言一句漏らさず上に報告されるだろう。

 とんでもない数の監視がブラームスのまわりに張り付くことになる。

 その中で何ができるのか

 出来るわけがない、そんなに現実は甘くない。いくらブラームスが宮廷魔術師団団長も兼ねる実力者だと言っても、まんま国を相手に勝てるわけがないのだ。



 だがアルスは信じる

 今日この日、この時この瞬間交わされた言葉を

 

 

 「覚悟を……決めよう……」








 誰にも聞こえないうちに風に消えた呟き

 この決意が

 後に「第2次始祖戦役」として語られる激動の時代の引き金になることを

 


 この時は未だ誰も知らない。



 

おや、アルスの言葉使いが・・・

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