01 運命の日
なんかちょっとだけど読んでもらえたので嬉しいです。
そして書いていたら、まだ異世界に飛ばなかった・・・orz
どうしよう
2089年10月24日 7:26AM
「あー、もう冬が近いのかなあ……」
イツキが通う高校は、家から徒歩30分だ。
家からも近く、そこそこのレベルで、地元の中学校からも毎年多数の生徒が進学する。将来がまだ定まっていないイツキが進路に選ぶのは極々当然の流れだった。
そして今も将来何をやりたいかは決まっていない。何となく大学に行き、何となく就職するんだろうな、という、漠然とした未来像だけが目の前にチラつく。
高校2年という、子供であるだけではいられない世代に成長したイツキにとって、その不明確な将来像が焦燥感となって、時折イツキを悩ませる。
将来の目標を明確に定めている友達を思い浮かべつつ、特定の何かに特別の興味も才能も無い自分に、根拠のない後ろめたさを最近感じている。
ニュースの後、6時台後半を締めくくったお天気お姉さんが、木枯らしが吹くと言っていた。
昨日までは暖かかったのに、今日突然下がった気温につられてか、イツキはそんなことを考えて嘆息する。
「はぁ~……」
周りを見ると、知っている顔がチラホラ見える。中にはクラスメイトもいた。
学校に制服なるものが無くなって数十年。皆思い思いの格好で学校へと向かっている。最近、イツキの街にも整備され始めた歩行者用移動ボードに乗れば3分の1の時間で学校に行くことが出来るが、今日はほとんど利用する人を見かけない。自分も利用しようとは思わない。
いきなりやってきた寒波。
今日は寒いという理由で、押入れの奥で寝ている冬服を、朝の短い時間で引っ張り出す余裕のある者などあまりいない。厚着していくのは恥ずかしかったり、億劫だったり、かといってTシャツ1枚で出る勇気もない。
そんな中途半端な格好をした大多数の生徒が、木枯らしの中、時速20kmの移動ボードを利用しないのは当然のことなのだ。
そんな中、一人学校に向かっていると、後ろから声をかけられた。
「ういーっす! なんだイツキ、辛気臭ぇ顔してんな!」
がっはっはっ と笑いながらイツキの肩をバシバシ叩く大男は山田太郎、同じ中学からの進学組だ。そして既に将来の目標を決めた、羨むべき親友だったりする。
「やー、僕は将来どうなりたいんだろうって思ってさー……」
「なんだ、いつもの悩みかよ! んなもんそのうち見つかんよ!」
豪快に笑い、豪快に食べ、豪快に泣く、ともすればガサツとも言い得るこの親友は、実は「概念量子力学」を学び、時間軸転移パラドックスを解き明かすことが夢という頭脳派だ。当人が言うには、通説たる多元世界観では説明がつかず、上位次元の事象調整・介入によって説明するべきだとかなんとか。
大真面目な顔でそんな夢を語られた時は悔しさもあって「棍棒を持って動物を追い掛け回す方が似合ってるよw」と言ってやった。その日山田はバットを持ってイツキを追い掛け回した。
「しかし、イツキよぉ、今朝のニュース見たか!?」
「見た見た! 相変わらず可愛いよね! やっぱり2086年入社組はレベルが高――」
「ノリ突っ込みして欲しかったらもっと上手に振れ」
「だよねー……」
おそらく、連盟研究グループの相次間干渉理論の実証の事を言っているのだろう。
この実験をすると連盟が発表したのは半年くらい前。
その時、山田は見たこともないくらい興奮してワケのわからない専門用語と共にその概要について熱く語ってきたので「日本語でおk?」と言ってやったら、やはりバットを持って追いかけ回された。
相次間干渉理論
故ミルコ博士が提唱したびっくり理論だ。
生前、ミルコ博士がこの理論を発表した時、研究者たちは鼻で嗤った。パッと見、科学とオカルトをごっちゃにしたトンデモ理論だったからだ。
そのトンデモ理論の内容を山田の言を借りると、概念的同一位相・同一位置座標上には、多元的に世界が存在し、それぞれの世界にそれぞれの物理法則が存在しており、自分たちの世界も数多ある世界の一つである。ということらしい。
そして、それら世界は位置的に同一であるものの、概念的次元において交わることなく、通常は影響しあうことはない。
だが、概念的次元においてこれを同期することにより、異なる世界間で干渉することが出来る。
これらが相次間干渉理論の大まかな内容だ。
ただ、この理論は、世界の多元性を肯定しつつも、同一世界の多元的分岐(同一世界において、世界が分岐し、同一時間軸上に同一世界がいくつも存在すること)を肯定するものではなく、山田の夢であるタイムパラドックスの通説の根拠にはなりえないとのこと。
ともかく
元々、証明する手立てもなく、「概念」という、抽象的な要素でもって、何ともファンタジーな世界観を披露しただけで、特に有用性も見いだせない。そんな意味もわからない理論を大真面目に語った当のミルコ博士は、どうしようもないキチガイという烙印を押され、表舞台から姿を消した。相次間干渉理論も当たり前のように消えた。
ではなぜ今になって、そんなトンデモ理論の実証が、連盟最高頭脳集団をして「歴史的実験」とまで言わしめるのか
「ミルコ粒子……か……」
「おうよ! 俺は絶対それをこの目で見てやる!」
世間から受けた仕打ちに絶望したミルコ博士が、残りの人生の全てをかけた実験により手に入れた物証。
その内容は連盟の機密事項として、公開されていない。
ただ、「この世界の物理法則では説明が出来ない粒子であった」と連盟政府が公式に発表したことは確かだ。
そして、この粒子を如何にして手に入れたか、それも公表されていない。いや、「だれも知らない」が正確だ。
なぜなら、ミルコ博士は物証を提出し、方法を語る前にこの世を去ってしまったからだ。
連盟はすぐさま調査団を結成し、ミルコ博士の自宅・ラボ・別荘・実家・愛人宅、全ての場所をチリ一つ逃さぬ勢いで調査したが、決定的な情報を得ることはできなかった。
それはおそらく、自身を嘲笑った世間に対する彼の復讐だったのだろう。
怨念とも言い得る執念で得た物証の入手方法は、歪んだ笑みを浮かべて眠った博士と共に土に還った。
「ミルコ博士が無くなってから二十数年。やっとだ! やっと真実がわかるかもしねえんだ!」
隣を歩く山田は興奮し過ぎて顔が真っ赤だ。
真実見る前に頭の血管切れるんじゃないか。あまり心配していないが心配だ。
「日本時間で言えば今日の11時くらいだよね?」
「そうだ! 携帯ディスプレイ持ってきた! 俺は抜け出すぞ! 絶対にだ! 授業なんてやってられっか! 一緒に抜け出すぞ!」
イツキはそんな親友を横目に苦笑する。
それほど夢中になれることを見つけた彼に対する大きな憧憬と、少しの嫉妬を抱えて。
ええと、次はアルス視点です