プロローグ
いきなり異世界モノが書きたくなったので書いてみました
間違えて短編でUPしてしまったので、こちらに投稿しなおしました
「賛成121、反対21。よって貴族院はアルス殿下の王位継承が不当であるとの決議が採択しました」
茶番だった。
貴族院を構成する有力貴族の大多数は、その後行われるであろう実質的な王家解体による甘い汁を吸おうと、年若い王子に群がる獣だ。
獣達は既に獲物の息を止め、その牙を突き立てる同胞と、獲物の分配について全労力を傾けている。
諮問委員会の形をとった査問委員会。いや、その中身たるやもう尋問の体だ。
アルスは屈辱的な決議を告げる議長に殺意ともとれる視線を向ける。
この場で公然と味方になってくれる者はもはや存在しない。
代々王家に仕えたかつての多くの忠臣たちは、その忠義よりも露骨な甘言を優先し続けた父王の愚配により、国境の守護に散った。
溜りに溜まった内憂外憂、父王崩御の後、それを丸ごと請け負い、何とか国としての体裁を保ってこれたのは、贔屓目に見なくてもアルスのおかげだった。
(その仕打ちがこれか……っ!)
アルスでなくとも納得がいくわけがない。時間も労力も魂も、全てを削り捧げた結果がこのザマだ。
もはや目の前の貴族たちの目に、身を粉にして民に尽くした王子に対する敬意などはない。あるのは、極上の餌を前に粘つき淀んだ光だけだった。
今、アルスが軽く笑ったのは、自嘲と諦念のやりどころが見つからなかったからだ。
それでもアルスはまだ耐えられた。自身の政に後悔など無いし、少しの間だけだとしても、結果的に多くの民が笑って過ごすことが出来たのだ。
だから、おとなしくすべてを譲ろう、そう思ったアルスに、絶望の言葉が告げられる。
「皇剣も発動できず、崇高なる王家の血を語った痴れ者を縛り首に!」
言葉にならなかった。
何を言っているんだと思った。
アルスはたまらず周りを見渡す。さすがにそれに同調するような恥知らずはいないと信じて。
しかし
「縛り首で済むわけがなかろう! 下賤の分際で仮にも高貴な我々を謀った大罪人ぞ!」
「断頭台に送ったのち、首は1か月間城門前にさらすべきだ!」
罰だ! 殺せ! 汚せ! 辱めろ!
「ではアルス殿下の処遇について採決を求めます。賛成の方はご起立を」
自称高貴な男たちが口泡を飛ばしながら、口にするのも憚られるような言葉を嬉々として叫ぶ。
アルスは、深い闇に延々と落ちていくような感覚を覚え、目の前が真っ暗になった。
(この国はもう終わりだ)
採決の結果など、確認する必要すらなかった。
殺されるのはいい。何時の世も、王位を奪われるというのはそういうことだ。
だが、この国を建てなおそうと、必死で踏ん張った者の努力も認めず、邪魔だからという本心を隠し正義を振りかざす。己の嗜虐心と権益を満たすためだけのために、その腐った精神をさも正当とばかり語り恥じもしない。
そんな者たちが治める国に未来などあるものか。
間違いない。この国は一握りの特権階級の馬鹿共のせいで、果てなき権力闘争へと突入する。乾く暇ない血で彩られた道を、この国は歩んでいくことになるだろう。
アルスは音が成る程奥歯を噛み締める。
一体それで誰が得をするというのだ。民は疲弊し、隣国は砥いでいた牙をむき出しにするだろう。弱肉強食、群雄割拠のこの時代に、国力を落として招き得る未来を、嬉々として求める連中の救え無さ加減ときたらどうだ。
この国はもう終わりだ。
国土は蹂躙さる。民は運が悪ければ殺され、運が良ければ売られるだろう。
それを回避できない。無辜の民を救え無い。ただそれだけが悔しい。
「では、当該決議を人民院に送ります」
白々しい議長の声も空しいだけだ。
最後の良心として信じていた人民院の議員たちも、今頃貴族に与えられた金貨の風呂に浸かり、頬を歪めていることだろう。
アルスはただ己の無力さに絶望しながら、衛兵に両脇を抱えられた。
始世歴4624年 大絶滅より4604年 6月3日
大陸東部、デステニア王国、民王子アルスの処刑が決議された。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
《……それでは次のニュースです。本日、大東亜連盟政府は、現地時間今月24日13:00時より、盟都バンドンにて連盟研究グループによる次元間相転移実験を実施すると発表しました。これはかねてからミルコ博士により提唱されていた、相次間干渉理論の実証ともなる歴史的検証で――》
「すごいな~」
とりあえず小鳥遊イツキは、バーチャルディスプレイで投影される、ニュースに向かってそう呟いた。
何がすごいの?と聞かれたら、正直よくわからない。
ただ、連盟最高頭脳集団である連盟研究グループが、聞いたところでよくわからん実験をしているということだけで、天才でも何でもない一高校生であるイツキにとっては何となくすごいのだ。
「頭がいい人の考えることは、よーわからんw」
そもそも興味があってそのニュースを見ていたわけではない。
いつも通り母親に、6時45分に叩き起こされ、顔を洗って歯を磨いて、朝ご飯ができるまでリビングでぼーっとしていた。そんなありふれた日常の一コマの延長上に過ぎない。
どちらかというと、雲の上の人たちの小難しい話よりも、ニュースを読み上げる入社3年目の美人女子アナのほうに興味があった。そう考えると年頃の高校生にとって手が届くか否かは関係ないのかもしれない。
「イツキ~ ご飯できたよー」
「ういーっす」
これも何十何百と繰り返されてきた母親とのやりとりだ。
目の前の並ぶ朝食もいつも通り、ご飯、味噌汁、漬物、焼シャケと、日本が連盟の一部となった今でも日本地区住民にとって心落ち着く献立だった。
イツキは成長期の男子高校生らしくご飯を掻っ込み、食事が終わると鞄をつかむ。
「いってきまーす」
「いってらっしゃーい」
2089年10月24日 木枯らし吹く冬の初め
いつもと同じ時間に起き、いつもと同じ時間に家を出て、いつもと同じ通学路を行く少年に
尊い日常の終わりが迫る
読む人いるんかね