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第8話……いざ傭兵団!

 数日後、私が書斎で戦地に向かう準備を進めていると、老男爵が静かに部屋に入ってきた。彼の顔には厳粛な表情が浮かんでいた。


「君が傭兵団に向かうならば、やはりタイタンを持って行くべきだ。この魔動機が君を守り、任務を遂行する力となるだろう」


 ダイモス村はガーランド帝国の東端に位置し、静かな田園風景が広がる小さな村だった。東に隣接するパニキア連邦とは不可侵条約が結ばれており、この平穏な地に戦火が訪れる可能性は限りなく低かった。

 そのため、村は大丈夫だから、魔導兵器を使って頑張ってこいとの好意だったのだ。


「ありがとうございます! ……ですが、村の守り神を持ち出すには及びません」


 私は丁寧にお礼を言い、彼の提案を断った。

 魔動機タイタンはこの村の守り神。いなくなれば、この村の人々は不安に陥ってしまう。そのことを彼に伝え、なんとか納得してもらったのであった。




◇◇◇◇◇


 朝の陽光が優しく庭園を照らし出す中、私は出発の準備を整えていた。蒸気自動車の操縦キーを手に、不安になる心を奮い立たせる。

 その時、静かな足音が背後から聞こえた。振り返ると、お嬢様がそこに立っていた。

 彼女は美しいチャイナドレスを纏い、その表情にはとても心配そうな色が浮かんでいた。


「出発の時刻アルカ?」


 と、彼女は静かに言った。


「はい、お嬢様。これから傭兵として戦地に向かいます」


 と、答えた。すると彼女はゆっくりと歩み寄り、その小さな手を差し出してきた。


「どうか、無事で戻ってくるアルヨ」


 そう言い、彼女は私の手を握った。その温かさにうれしく思い、また寂しさがつのる。


「必ず戻ります、お嬢様。どうかご無事でいてください」


 と、微笑みながらに答えた。彼女は元気を少し取り戻し、


「マサカゲの無事の帰りを待っているアル」


 と静かに俯きながら、恥ずかしそうに私の手に、手作りの小さなお守りを握らせてくれたのだった。



 朝の静寂の中、私は男爵と彼女に別れを告げ、蒸気自動車に乗り込んだ。

 蒸気機関の音が響き渡り、蒸気自動車が動き始める。男爵とお嬢様の姿が遠ざかる中、私は心の中で彼女の言葉を噛みしめながら、傭兵団から指定された任地へと向かったのだった。




◇◇◇◇◇


「すいません。この蒸気自動車も載せたいのですが……」


 私は、村のちかくの貨物用の駅で、蒸気自動車の輸送を中年太りの駅員に頼んだ。

 駅員はこちらを見て、


「……ああ、連絡のあった男爵様のところの人か?」


「そうです。フォークといいます」


 そう名乗ると、駅員は書類を無言で手渡してくれた。その書類には「6号貨車」と書かれている。

 私は6番目の貨車に慎重に蒸気自動車を載せ、それを覆うように大きなシートをかぶせた。それから、蒸気自動車の狭い運転席の中で昼食をとりながら、発車の時刻を待ったのだった。


 ピー!!

 発車の合図の汽笛が鳴る。

 蒸気機関車は私たちを乗せ、ガーランド帝国領の西部目指して走り出したのであった。




◇◇◇◇◇


 日が沈み、あたりが暗くなる頃。私はようやっと赴任地であるヨーゼフ基地へと就いた。

 貴重な蒸気自動車を持ち込んだこともあり、すぐに司令部まで来てほしいとのこと。駐屯地の兵士たちは意外にも親切で、わざわざ司令部まで案内してくれたのだった。


「フォーク予備役准尉、入ります!」


 私は敬礼し、格式ばった挨拶を司令官に行った。司令官は筋骨たくましい髭おやじで、にっこりと笑って迎えてくれた。


「ワシが第二傭兵団の団長兼、ヨーゼフ基地司令官のヘルダーソン退役大尉だ。以後よろしく頼むぞ! 細かいことは、後で作戦参謀のトイフェル中尉に聞いてくれ」


「はっ」


 傭兵であるが一応は軍人。指揮系統を守るために軍の階級を使用している様だった。私は作戦参謀に基地を案内されたあと、周辺の地理を覚えるよう、大きな地図と軍隊手帳を渡されたのであった。




◇◇◇◇◇


 私は新しい赴任先で緊張にて眠れなかった。

 夜の静けさが基地を包む中、私は夜間の散歩に出ていた。月明かりが柔らかく地面を照らし、影が長く伸びていた。

 その時、遠くからかすかな音が聞こえてきた。耳を澄ますと、明らかに何かの存在を感じ取ったのだ。


 ……敵の斥候か!?


 草むらの中、音の方向に慎重に足を進めると、そこにいたのは数匹の野犬の群れだった。

 彼らは興奮して吠え、何かを取り囲んでいるようだった。



 さらに近づくと、彼らの中心には小さな狸が縮こまっているのを見つけた。野犬たちは威嚇するようにその狸を取り囲み、逃げ場を奪っていたのだ。


 私は大きな声で威嚇し、持っていたランプをかざしながら野犬たちを追い払う。人間の姿に驚いた野犬たちは次第に後退し、やがて一斉に散り散りになって逃げていった。


 震える狸が残されたその場に立ち止まり、私は静かに近づいた。


「大丈夫、もう安全だよ」


 と、優しく声をかけながら、その小さな体を抱き上げた。狸の瞳は恐怖でいっぱいで、震えておしっこを漏らしていた。


 その夜、私は救出した狸を基地の部屋まで連れて帰り、暖かい毛布で包んで休ませたのだった。

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