役立たないスキル『風船作成』だと思っていた僕は姉様の武器になりました。〜姉様、超怖いんだけど…〜
「マルク・アルスフィールド様、あなたのスキルは『風船作成』です。このスキルはいつでもどこででも風船を作ることが出来るスキル。そして風船の破壊や消失も可能で大きさや色等も組み合わせ自由みたいです。」
そう上級神官から10歳のスキル鑑定で言われ、最初は伯爵家の貴族としてもっと家の役に立つスキルが欲しかった…と落ち込んでしまった。
ただ3つ上のマリサ姉様から「貴方は次男で家督は継げないのだから商人を目指してみてはどうかしら?商人ならそのスキルを利用して風船を売ることだって出来るでしょう?」と唆されて風船を極める事となる。
僕は両親や6つ歳の離れた家督の勉強に忙しい兄様より普段から色々教えてくれる姉様懐いていたし、姉様のアドバイスには忠実に従っていたんだ。
そう、アドバイスに誠心誠意応えていった結果…僕は姉様の武器になった。
「流石、私の弟ね。次はあのウルフのお腹を膨らませて割ってみて。大丈夫よ!こっちに来ないようにするし、飛び散る肉塊だって私の結界スキルで守ってあげるわ。」
「ね…姉様、まだやるんですか?」
「まだやるわよ?訓練はすればするほど精度が上がるのよ!ほら、ウルフがこちらに気付いたわよ!」
「姉様の声が大きいからですよ…」
「良いから早くしなさい!」
「はいはい。」
姉様はサルザン学園が休みの度に領地へ戻って来て僕を連れ回し、結界スキルで守ってあげるから領地の魔物を倒せと言ってくる。
領地に戻ってくる度にイライラしてる姉様がずっと不思議だったんだけど今年サルザン学園に入学してすぐ理由が判明した。
マリサ姉様の婚約者、ラック・リートス伯爵令息の浮気である。
浮気相手の令嬢はアイナ・サマル男爵令嬢。
騎士団長の息子で姉様の婚約者であるラック・リートス伯爵令息以外にも複数の令息がお手付きらしい。
その中には第二王子や公爵令息、一部の先生もいるわ…と証拠資料付きで姉様から教えられれば休みの日は領地でストレス発散したくもなるよなぁ…と自主的に魔物退治に付き合うようになった。
…が既に僕らの足元には結界によって少し離れた場所とはいえゴブリンやウルフだったはずの肉塊が彼方此方に散らばり血溜まりが出来ている。
正直ストレス発散にされる魔物達が可哀想になるくらい見るも無惨な姿だ。
『風船作成』
パンッとギリギリまで膨らませた風船を勢い良く割るかの如く、ウルフのお腹がギリギリと膨らみ弾け飛ぶ。
そしてベチャッ…と僕らを覆う結界に血と肉の一部が付着した。
…10歳の頃の風船作成練習に戻りたい。
そう思えてしまう程、最近の風船作成の使用方法が血生臭かった。
・10歳→風船の大きさや色を変えたりする風船作成練習。
・11歳→風船の形を変え、花や生き物に見立てた風船作成練習。
・12歳→空飛ぶ風船や水風船作成練習。
・13歳→水風船の中身を毒薬や回復薬にしたり、魔物の体内に風船を作り出し割るor風船作成で魔物を空中に浮かせて高い位置で風船を割って落とすor鼓膜を風船みたいに膨らまして割るetc…といった攻撃系の風船作成。
一応領地内だけに限定して僕は姉様の武器になってるけど学園内のイライラ具合を見ているとちょっと怪しいんだ。
「姉様、そろそろ学園に戻る準備をしないと間に合わないのではないですか?」
「そうね、学園でマルクのスキルを使って欲しい相手のお願いあるし…一旦家に帰りましょうか!」
「はい!…ってえ!?もしかして魔物じゃなくて人にですか…?」
「割らなくていいの。膨らませて暫くして風船を消滅してもらえば。隠蔽結界もあるしここで話してもいいわね。ほら、この資料を見て。」
姉様は普段から物理結界と姉様が許可した生き物以外には視界に入らなくなる、聴こえなくなる隠蔽結界を好んで使っていて今もその結界の中。
なので僕は周りを気にせず資料をバサッと広げて読む。
姉様は気まぐれに魔物に姿を見せる以外は必要最低限だけ姿を見せ、それ以外はほぼ隠蔽物理結界の中。
情報収集はお手の物だし、確定情報と調査中と分けて書いてあるから見やすい。
その確定情報だけ読んで思った事は姉様の浮気相手の節操の無さ。
学園内の男爵家以上で結婚しておらず、金銭的問題が無いと分かっている新入生以外の男性は一通り声を掛けていて釣れた爵位毎に手を出すレベルも違う…と。
ラック・リートス伯爵令息は頬に接吻まで、クアッド・カルデア侯爵令息はお部屋に招かれて口に接吻された後…と日付け入りで赤裸々に書かれてあるそれらに顔が青くなる。
「…この方、派閥関係無くお手付きなんですか…?」
「そうなの。第二王子と特に仲良いみたいだけど、今若干サルザン王国と関係が微妙な隣国から留学中の第四王子の護衛騎士とか第二王子を敵対している第一王子派閥であるアーノック公爵の令息にまで手を出してるのよ。その割にあの令嬢、自慢したいのか口が軽いみたいで…笑」
「うわぁ……」
追加で渡された書類には先程赤裸々に色事が載っていた令息達のスキルがズラッと書いてあって僕は眉を顰める。
スキルとはその人の強みだけど弱点になることもあるから貴族であれば秘匿にするもの。
本来、スキル開示は犯罪を起こさない限り未成年なら10歳の頃にスキル鑑定をする上級神官、家族、学園長(学園内の安全の為)のみで成人済みなら先程のメンバー+所属する職場(護衛騎士なら仕える当主、冒険者ならパーティーリーダー等)といった最低限にしておく事が暗黙の了解なのである。
それなのに令嬢に現を抜かす男性陣ばかりでほんわかしている兄様が学園卒業した後で良かった…と心から思ったよ。
「…つまりこの尻軽アイナ・サマル男爵令嬢にスキルを?」
「そういう事。既に複数の男性と体関係がある彼女のお腹が膨らんでいたら…実はまだ交わった事の無い第二王子や私の婚約者はどう思うかしら?」
「令嬢に怒るでしょうね。」
「じゃあ令嬢が『あの〇〇令息に無理やり…!』とか演技したら…?」
「うわぁ〜…とばっかり食らった令息可哀想…」
「じゃあもし私の婚約者があの男爵令嬢と交わった後にお腹が膨らみ始めたらどうなると思う?」
「ラック・リートス伯爵令息が姉様に婚約破棄を突きつける…とか?」
「そうね。あり得る話よ。妊娠を口実に『マリサ!俺は真実の愛に目覚めたんだ!愛するアイナとアイナとの愛の結晶の為に婚約は破棄にしてくれ!!』といった感じかしら。」
「うわぁ…想像したく無いけど想像つく…」
「私、嫌なのよねぇ…不貞の正当化って。だからマルクの風船作成のスキルと私の隠蔽結界で彼女のお腹を膨らませて、彼女の取り巻きを崩すの。それと同時に調べた色事についてを含めた書類を王家の影や学園長、関係者の家庭にお知らせすると彼女についた令息達は行き場を失うんじゃ無いかしら。」
既に両親と兄様にはその話は済んでいて僕を巻き込んで実行するだけらしい。
…僕の姉様、用意周到すぎない?
「じゃ、話も済んだし学園に戻ってあの令嬢にスキルを掛けましょ!あ、マルクが彼女の子宮を風船みたいに膨らませたら私がスキル隠蔽に特化した、スキル隠蔽結界掛けるからお腹の膨らみが風船作成スキルだってバレないわ!安心して頂戴!」
るんるん機嫌良さげな姉様に出来ません!!なんて僕は言えないし、浮気する姉様の婚約者も唆した令嬢も落ちる所まで落ちて仕舞えばいいんだ。
だからね、僕は令嬢のお腹をじわじわと膨らますよ!!
だって今チャチャってやっておかないとお腹の子宮の中にスキルであれやこれや詰め込めない?って姉様なら言ってきそうだからね…
やだからね!第二王子が寝る時に抱いて寝ているクマのぬいぐるみを男爵令嬢のお腹に入れるなんて…!
「…それ、ありね。」
「………え?」
「マルク、貴方全部声に出して言っていたわ。」
「………え?」
「まあラック・リートス伯爵令息とアイナ・サマル男爵令嬢の今後の動き次第ね。大丈夫よ、バレないわ。」
にっこり笑う姉様はとても楽しげで僕はこれ以上余計な事を言わないように口を閉じて足早に学園に帰る準備をする事にした。
普段大人しい人とか女性を怒らせると怖いって言うけど僕からしたら姉様がやっぱり1番怖いなって思うよ。
え?その後どうなったかって?
姉様のスキル隠蔽結界と僕の風船作成で卒業間近の時期に妊娠中だと分かるようスキル調整していたお腹が大きくなった為、案の定アイナ・サマル男爵令嬢が妊娠中だと周りが勘違い。
相手は誰だ!と言い寄った第二王子達に彼女は被害者ヅラして喚き散らし、慌てた令息達が彼女を慰め、周りの令嬢達はドン引き。
そのタイミングで空高くまで浮かしておいた隠蔽結界を掛けた書類付き風船を消滅、アイナ男爵令嬢とその取り巻き(第二王子達)のスキル付きプロフィールや赤裸々に書かれた色事エピソードの書類が学園内にばら撒かれた。
あとはこのばら撒かれた資料の一つにリートス伯爵家があったとアルスフィールド伯爵家一同でリートス伯爵家に訪れて婚約解消と慰謝料請求を伝えれば良い。
既に王家や公爵家含むアイナ・サマル男爵令嬢と関わりのある家に資料一式送っているのだから言い逃れは出来ないし、言い逃れしようものなら追加で調べ上げて送り付けると姉様が意気込んでいたよ。
まあ粘っていた貴族は追加資料1回目で言い逃れを辞めたらしいけど。
このことがきっかけで学園に在学していた多数の貴族達が婚約破棄または婚約解消することとなり、一部の男爵令嬢と関わりが浅かった令息を除きほとんどの令息は廃嫡。
第二王子は王位を剥奪、第一王子が王太子となった。
アイナ・サマル男爵令嬢は令息達を惑わす言葉を紡ぐ舌を切られて男爵家から追い出され修道院に入ったらしい。
ただ数ヶ月後あの令嬢が奴隷市場に売られてたよーと姉様から聞いたのでその後にも色々あったのかもしれない。
ちなみに姉様はサルザン学園を卒業後、婚約なんて懲り懲りだわ!なんて事をぶつくさ言って領地の魔物討伐の為、冒険者になった。
そして姉様に一目惚れしたギルドマスターから猛アプローチをされているらしい。
まあ僕が学園休みで領地に戻って来る度に愚痴を聞くからギルドマスターの婚期はまだまだ遠そうだけど。
僕は商人になる為に学園で勉強をしながらスキル磨きをしているよ。
商売用風船スキルも自衛としてのスキルもね。
まあ姉様には色んな意味で一生勝てそうに無いけども。
「マルクー!ジャイアントブラックボアが複数見つかったみたいだから手伝って!!」
「はーい!今行く!!」
僕は姉様に逆らうな!を教訓に今日もスキルの精度を上げる為、声のする方へ走って行く。
ご覧頂きありがとうございます。
百均のハロウィンコーナーの風船を見ていて何となく浮かんだ『風船作成』で話を書いてみましたがいかがだったでしょうか。
楽しんで読んで頂けたら嬉しいです。
〇一応補足
・スキル鑑定
10歳になるとスキルを鑑定スキルを持つ神官に鑑定してもらう。
※この時、鑑定・浄化・治癒といったスキルを持つ子が見つかると神官の方から声が掛かる。
スキルは上位貴族でも持っていないこともあるし、スキルを持っていても日々使わないと精度は落ちる。
役に立つかは使い方次第。
・サルザン学園
13歳から16歳までの子が通う学校。
攻撃系スキルを持つ子には学園長からスキル制限のブレスレットを渡されるが本来攻撃スキルでは無いマルク(風船作成)とマリサ(結界スキル)は見逃された。
ちなみにマリサは結界と結界で壁を作り、結界の距離を縮めて潰すといった攻撃手段があるが今回は出番が無かった。
・マリサとマルクの家族
家族仲は悪く無いけど領地の仕事と魔物討伐で忙しい。
父は『剛力スキル』、母はスキル無しだが強い。
マリサとマルクの兄、マーズはほんわかおっとりな性格でスキルは『書類作成』。
物理攻撃は出来ないけど誰が書いたか分からなくさせたり、マーズが作成した書類には嘘が書けないように出来る。
マリサの書類はマーズ作。




