第24章(最終章):新たなる使命
2065年12月15日、東京。ダニエル・ハートウェルは見慣れたはずの街並みを茫然と見上げていた。二十年の歳月は、想像以上に世界を変えていた。高層ビルは以前より高く、空には自動運転の飛行車が行き交い、街角のホログラム広告が3Dで浮かび上がっている。
しかし、最も大きな変化は、彼を取り巻く現実だった。
「ダニエル?まさか、本当にダニエルなの?」
自宅の前で彼を迎えたのは、確かに妻のサラだった。しかし、彼女の隣には見知らぬ男性が立っている。そして、その男性の手には二人の小さな子供がいた。
「サラ...」ダニエルが言葉を失った。
「あなた、二十年間も音信不通だったのよ」サラの目には涙と困惑があった。「私たちは、あなたが死んだものだと...」
隣にいた男性が前に出た。「君がダニエル・ハートウェル氏ですね。サラから話は聞いています。私はケン・タナカ。サラの...夫です」
ダニエルの世界が崩れ落ちた。もちろん、二十年という歳月を考えれば当然の結果だった。しかし、頭では理解していても、心がついていかない。
「トムは?」ダニエルが震え声で尋ねた。
「トムは大学を卒業して、今はカナダで働いています」サラが答えた。「家庭も築いて、子供もいます。もう27歳になりました」
ケンが優しく提案した。「とりあえず中に入りませんか?話をしましょう」
リビングルームで、ダニエルは過去二十年間の出来事を聞いた。サラは最初の数年間、ダニエルの帰りを待っていた。しかし、研究所の事故で行方不明になったという公式発表の後、やがて死亡宣告がされた。サラは十年前にケンと再婚し、二人の子供をもうけていた。
「あなたがどこにいたのか聞きたいけれど」サラが言った。「今は混乱していて...」
「理解しています」ダニエルが答えた。「私が突然現れて、混乱させてしまって申し訳ありません」
ケンが誠実に言った。「法的には複雑な問題になりますが、サラと子供たちのことは私が守ります。あなたとサラには過去があるのは理解していますが...」
「大丈夫です」ダニエルが苦笑した。「私には、ここに居場所はないことが分かります」
その夜、ダニエルは近くのホテルに泊まった。一人きりの部屋で、彼は深い孤独感に襲われた。現代に帰ってきたものの、帰る場所はもうない。古代では仲間がいて、使命があった。しかし、ここでは完全に浮いた存在だった。
翌日、ダニエルは息子のトムとビデオ通話をした。
「お父さん...本当にお父さんなの?」画面に映る息子は、立派な大人に成長していた。
「そうだ、トム。大きくなったな」ダニエルが感動した。
「どこにいたの?なぜ連絡してくれなかったの?」トムの声には怒りと悲しみが混じっていた。
「説明するのは難しいんだ。でも、君を愛していることに変わりはない」
しかし、トムの反応は冷たかった。「お父さんがいなくても、僕たちは幸せにやってきました。お母さんもケンさんと幸せです。今さら戻ってきて、何を求めているの?」
通話が終わった後、ダニエルは深い絶望感に包まれた。家族からも受け入れられない。居場所がない。守るべきものもない。
数日間、ダニエルは東京の街を当てもなく歩き回った。変わり果てた街並み、知らない顔ばかりの人々、進歩した技術。すべてが彼にとって異世界だった。
一週間後、ダニエルは国立図書館を訪れた。少しでも心を紛らわすため、そして古代の仲間たちのことを思い出すために、歴史書を読もうと思ったのだ。
古代史のセクションで、彼は興味深い書物を発見した。『中世ヨーロッパの謎めいた技術革新』という題名の研究書だった。
ページをめくっていくと、驚くべき記述があった。
『1487年、フランスの修道院で発見された古文書には、当時としては考えられない高度な技術が記載されている。蒸気機関の設計図、電磁気学の理論、そして時空間に関する数式。これらを考案したとされる人物は「ヴィクトール・クロウ」と記されており...』
ダニエルの心臓が跳ね上がった。ヴィクター・クロウ。間違いない。
さらに読み進めると、もっと驚くべき情報があった。
『同時期の記録には、アルカディア王国という小国に関する記述も残されている。アレイス王とリリア王妃の治世は「愛の黄金時代」と呼ばれ、40年間にわたって平和と繁栄が続いた。特筆すべきは、彼らが所有していたとされる「神の宝石」である。この宝石は現代のAI技術に類似した機能を持っていたという記録が...』
ダニエルの目に涙が浮かんだ。アレイスとリリアは幸せな治世を続けたのだ。そして、ARIAも無事だった。
本を読み続けると、マイケルに関する記述もあった。
『アルカディア王国の繁栄を支えたのは、革新的な農業技術者「マイカエル・レーン」である。彼の技術により、王国の人口は三倍に増加し、飢饉は完全に根絶された。彼の家系は代々王国に仕えていたという記録が残っている』
ダニエルは安堵した。みんな幸せに生きたのだ。
しかし、ヴィクターに関する記述は不穏だった。
『ヴィクトール・クロウは1487年に突然現れ、わずか1年で中世ヨーロッパの技術水準を数世紀分押し上げた。しかし、彼の技術は常に軍事目的に使用され、各地で戦争を引き起こした。1488年、彼は再び忽然と姿を消したが、残された技術文書には「時の流れを支配し、理想の世界を築く」という言葉が残されている』
ダニエルは確信した。ヴィクターは中世ヨーロッパに逃げていたのだ。そして、おそらく次の時代にも現れる。
その時、ダニエルは自分の使命を理解した。家族はもう自分を必要としていない。しかし、古代の仲間たちを、そして世界を守るために、自分にできることがある。
ヴィクターを追跡し、彼の計画を阻止すること。
ダニエルは図書館から出ると、新しい決意を固めていた。孤独感は消えていない。しかし、今度は明確な目標がある。
翌日、ダニエルは古い研究仲間に連絡を取った。幸い、何人かはまだ現役で研究を続けていた。
「ダニエル?まさか、生きていたのか?」古い同僚の高田博士が驚いた。
「長い話になりますが」ダニエルが答えた。「時空間技術の研究を再開したいんです」
「時空間技術?あの事故の後、その分野は封印されたはずだが」
「私には、それを使わなければならない理由があります」
高田博士は少し考えてから言った。「君がどこにいたかは聞かない。しかし、その目の輝きを見ると、重要な使命があることは理解できる」
「ありがとうございます」
「ただし、条件がある。独立した研究所を設立しろ。公的機関ではリスクが大きすぎる」
ダニエルは頷いた。「分かりました」
数ヶ月後、ダニエルは「時空間研究所」という小さな民間研究機関を設立した。表向きは理論物理学の研究所だったが、真の目的は時空間移動技術の開発だった。
研究所の地下室で、ダニエルは一人で作業を続けた。古代で学んだ技術と現代の最新理論を組み合わせ、新しい転送装置の設計を進めていく。
「アレイス、リリア、マイケル、ARIA」ダニエルが呟いた。「君たちが築いた平和を守るため、私は戦い続ける」
壁に飾られた肖像画に目を向けた。古代のアルカディア王国で宮廷画家が描いた絵画。アレイス、リリア、マイケル、そしてダニエル自身が描かれている。ARIAの青い光も、絵の中で美しく表現されていた。
「ヴィクター、君がどの時代に現れようとも、私が止めてみせる」
ダニエルの新しい戦いが始まった。それは孤独な戦いだったが、愛する仲間たちを守るという明確な使命があった。
研究所の窓から見える東京の夜景を眺めながら、ダニエルは心に誓った。
次にヴィクターが現れる時、自分は必ず準備を整えて待っている。そして、今度こそ完全に阻止してみせる。
愛と友情の力を信じて。
深夜の研究所で、ダニエル・ハートウェルの新たな冒険が始まろうとしていた。時空を超えた戦いの第二章が、間もなく幕を開けようとしていた。
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**The Divine Oracle - 完**
*続編「The Divine Oracle 2」に続く*




