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9  剣士

 

 右手に小さいオイルランプを持つ、馬を連れている長身の男性である。


「…子供?」


 若い男性の声だった。


 少年を驚かせたくなかったか、男性は馬と共にゆっくり近づいた。ランプの灯りが男性のシルエットを浮かび上がらせた。黒地に青の刺繍が施されたマントを深く被り、顔がはっきりと見えない。マントが被っていない部分から覗けるのは、同色の黒い革鎧を纏ったすらりとした手足である。腰には長い剣がさしている。格好からすれば剣士だろう。


 旦那様の新しい護衛なのか。それとも、冒険者の人?いずれにせよ、この時間に森に入るのはなぜ?


 少年は、茫然となった。


 あと、こんな立派なお馬、旦那様すら持っていない


 男性の隣に立っている、夜の闇に溶け込むような漆黒の毛を持つその駿馬を、少年はつい見惚れてしまった。筋肉隆々とした胴体の暗い毛並みは光を吸い込み、星明りすらも反射しない深い黒である。


 あまりの美しさに、足が無意識に馬の方へ少し歩きだす。


 もう少しだけ、近くで観たい。きっとダメなんだろうけど、触ってみたいな...


 ――特にその珍しい紺色のたてがみ。


 紺碧なたてがみは夜空に煌めく星々を連想させる。夜風に揺れるたびに、星の光が波打つように輝きを放った。


 ほんのりだが、輝いている。


 旦那様が持っている馬を見たことはあるし、もちろんみんな立派な子だが、光るたてがみを持つ馬は一頭もいなかった。なんていう品種のお馬だろう?


「…こんな時間に森の中で何をしているの?」


 剣士風貌の若い男性は再び口を開いた。


 よく冷えた湧き水を思わせるような透き通った声である。感情の波が読み取れない喋り方だが、不思議に冷たさも感じられなかった。


「あの…栗を…」


 不安がいつの間にか無くなったせいが、少年は森に入った理由を剣士に簡潔に説明した。


「栗を一人で?」


 剣士は少し考え込んだ。


「この森に、それほど栗が落ちているようには見えないのだが。」


「そうですね…でも、頑張って探せば一本ぐらいは。」


「その麻袋がいっぱいになるほどの栗が落ちていると?」


「分かりませんが…頑張ります。」


「もしできなかったら?」


「…罰を、受けるかもしれません。」


「どんな罰を?」


「分かりませんが、それでも受けなければなりません。」


「それはなぜ?」


「…僕がやる、と言ったからです。」


 エドリックのことを言うべきかどうか、少年は判断に迷った。剣士風の男性がここまで質問をしてくるということは、屋敷の事情を知らない外部の人間であることを意味している。


 謎の正義感か何かわからないが、自ら立候補しただけのことだ。沈黙を選んだ。


「そうか。」


 幸いにも、剣士風の男性はそれ以上問い詰めることなく、黙り込んでしばらく何かを考え込んでいるようだった。


「隣の山なら、たくさん栗の木があるのだが」


 剣士風の若い男性は突然言い出した。


 助言(アドバイス)をしてくれているのか。初対面の自分を心配してくれているのか?声の割に、やさしい人なのかもしれない。この人にはありのままのことを話したい。少年はなぜかそう思った。


 話したところで、何も変わらないだろうし


「そうなんですね。でも、僕この森から出られないんです」


 結界のことを説明すると、剣士風貌の男性は心当たりがあるようだ。


「結界?ああ、あの、()()()()()()…壊してもいいんだが、結局子供の足で間に合うのか…」


 壊す?何を?まさか結界のことではないよね?教育を受けてこなかった少年は、結界が壊せるものであるかどうか、もちろん分からない。


 ただ、旦那様が毎年わざわざ高いお金を払って王都から呼んでいるあの偉そうな魔法使いが作った結界を、卵の殻を割るかのようにさらっと「壊してもいい」なんて言おうとしているわけはないよね?


「ご心配ありがとうございます。なんとか一人で頑張りますので。」


 その時、剣士の隣の大きい馬が突然鼻を鳴らして、何かを伝えたそうに小声で鳴き出した。それを剣士は意味が理解できるかのように頷きながら聞いている。


「…できる?」


 馬は返事しているかのように再び鳴いた。


「…この子なら見られてもいい、ということ?」


 馬は首を縦に振って、優しい目で少年の方を見た。


 すごい、まるで人が頷いているみたい…


 聡明そうな馬の動きに、少年は興味津々。


「相変わらず、子供にめっぽう弱いんだね」


 剣士は苦笑いをした。


 それが合図になったかのように、馬は空を見上げて声高くいなないた。



もふもふ要素が増えて大変楽しく書かせてもらいました!


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