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11 帰宅

 黒馬の背中に樹妖(ドライアド)と夜明を乗せ、一行は再び古木の根元に向かって歩き出した。


「そういえば、馬の背中に乗るのは初めてだ…」


 夜明は思わずため息を漏らすが、そばにいるのは言葉の発せない樹妖(ドライアド)だったことを思い出した。しかし、返事が欲しいというよりも、ただ感想が口をついて出ただけなので、夜明はさほど気にしなかった。


 鞍がない裸馬だったが、樹妖(ドライアド)が後ろからしっかりと支えてくれた。グーが気を遣って歩いているのか、揺れはほとんど感じられず、あたたかい馬の背中は快適だった。


 一行の足音以外には、風に揺れる木の葉の音しか聞こえず、樹海は静まり返っていた。昨日、オーヴィと渡った時でさえ、もう少し生き物の気配が感じられたのに。


 ブナイルは先頭で蛇女(シェニュイ)と並んで歩いている。背丈はさほど高くないが、身長以上の威厳と強さを感じる広い背中を、夜明はしばらく眺めていた。


 二人の間には、もう先程のような緊迫感はなく、ただ友人同士が肩を並べて歩いているように見える。


 急に肩の力が抜け、一気に身体がずっしりと重く感じてきた。実際、蛇女(シェニュイ)に連れ去られた時間は案外短かったかもしれないが、様々な感情が交錯して疲れが湧き上がってきた。


 無意識に後ろにいる樹妖(ドライアド)に体重を預けると、「もっと持たれていいよ」と言わんばかりに抱き寄せられた。その温もりに、夜明は安心して身を委ねた。樹妖(ドライアド)の柔らかい身体に沈むと、花と果実を混ぜたような香りに包まれる。身体がしっかりと支えられていて、眠気が自然と誘われる。


 うとうとしながらどれほど進んだだろうか。ついにグーが立ち止まり、誰かが馬の背中から軽々と自分を下ろしてくれた。


「あ…ブナイルさん」


 目を開けると、そこには親のような慈愛の眼差しがあった。もう古木の扉の前に着いているようだ。


「歩けるか」


 首を少しでも横に振ればまた軽々と負んぶしてくれるかもしれない。夜明は少しその様子を想像してみた。


「大丈夫です。少しうとうとしただけです。」


 ブナイルは眉を顰めながら、夜明の顔色を観察する。


「少し肌が冷えてる。鍵の守りがあるとはいえ、樹海の中は案外気温が低いので身体を温めないと風邪を引く。先に入ると良い。」


 ブナイルは鍵を使わず、手をかざすだけで根元の扉を開いた。中から暖かい空気が感じられる。


 樹妖(ドライアド)にしっかり手を握られ、隠れ通路の中に踏み入れた。片耳が少し折れているグーは再び子犬に変身して、先導するように軽やかに走っていく。薄暗い小道に、夜空の星のように小さな光が道しるべとなってくれた。


「夜明!!」


 扉を開いた途端、フリッツをはじめとする少年たちがずっと待っていたかのように夜明を囲んだ。


「大丈夫だったか?君が出てからすぐ、親父とグーが顔色を変えて後を追っていた。何かあったのか。」


 その時、入口の扉からブナイルと蛇女(シェニュイ)が入ってきた。見慣れない姿に、少年たちは少し戸惑ったが、すぐに状況を飲み込んだ様子だ。


「…顔に土ついている。」


 イェルムは心配そうに眉間にしわを寄せて、色白でほっそりした指で夜明の頬についた汚れをとった。


「…ちょっと誤解があっただけだよ。」


 夜明は言葉を選びながら口を開いた。


「怪我もしていなくて、大丈夫だったよ。」


「そうなのか…親父、ごめん!」


「俺も、ごめんなさい」


 フリッツもイェルムも一斉にブナイルに頭を下げた。


「俺たちが夜明に、見送りに行っても大丈夫だって言ったせいで…」


「謝ることはない。私も容認していた事だし、今回のことで君たちの安全をどう守るべきかについて再考するきっかけにもなった。」


 ブナイルは手を2人の肩に置いた。


「頭を上げなさい。そして、夜明を大浴場に連れて行ってくれないか、みんなで湯船に浸かって身体を温めてきて。」


 フリッツとイェルムは顔を見合わせた。


「…親父、それはできないよ。」


「俺、ネリーを呼んでくるよ」


 さすがのブナイルもしばらく黙り込んでいた。


「…なぜ、ネリーを?」


「そりゃ、兄弟とはいえ、女の子と一緒に風呂入れないよ。」


 顔が少し赤くなったフリッツの横で、イェルムは大きくうなずいた。


『…勘違いしてるな、このアホたち』『何を勘違いしたの?』『ううん、この方が面白そうだからもうちょっとだけ放置する。』


 ネリーとの会話を思い出して、夜明は何かを悟った。


「…ああ!あの、僕、男の子だよ」


「え?」


「えええ??」


「うん!こんなに貧弱な身体だから、よく間違われるけど…」


「え?いや、身体じゃなくて…」


「本当かよ…この可愛さで男の子か…」


 フリッツとイェルムはしばらく言葉を失った。


「カルノとカルグも僕が女の子だと?」


 双子は同時に首を横に振った。


「一目でわかった」「可愛いけど違う」


「良かった。」


「…ふふっ、風呂に入っておいで。」


 少年たちの会話に、ブナイルは珍しく微かに笑みを浮かべた。戦士のような風貌を持つ彼には不釣り合いなほど柔らかく、温かいものだった。


更新遅くなり申し訳ございません!

負傷して十日間ほどですが、まだ完治していないけれども、

やっと入力してもそこまで痛くなくなってきた(´;ω;`)



読んでいただきありがとうございます!

のんびりと書いていく予定ですので、

少しでも「続きが気になる」と思っていただければ、

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