4 兄弟
「夜明は?どこから見たい?」
急にフリッツから話を振られて、きょとんとした夜明を助けたのは、嬉しそうなイェルムの声だった。
「おやじ!」
戦士のような風格で食堂の扉をくぐった威厳のある大男に、イェルムは幼い子供のように小走りして抱きついた。それを当然のように受け止めたブナイルは、そのサラサラした髪の毛を撫でながら、子供たちの前へやってくる。
「おはよう、イェルム。おはよう、フリッツ、カルノ、カルグ。」
ブナイルは一人一人の名前を呼びながら、力強く抱きしめた。ブナイルよりも上背がある双子でさえ、彼の屈強な腕に収められるとひと際幼く見える。
「もう紹介は済ませたようだな。」
すぐ隣の席に座っているネリーと夜明を見て、ブナイルはほっとしたように表情を緩めた。そして、何かを考え込んだように少しの間黙り込んだ。
「イェルム、フリッツ、ちょっといいか。」
名前を呼ばれた二人の少年は、ブナイルに耳打ちされ、それを聞くと顔を輝かせながら頷いた。
「了解だ、親父!」「かしこまりました!」
ニヤニヤと楽しそうな表情の二人を見ると、こちらまでほっこりした気持ちになる。
「ということで…」「ふむふむ…それから…」
何か用事でもあるのかな?ブナイルはすぐに食堂を離れた。それから、フリッツとイェルムは二卵性双生児のように同じ表情でコソコソと話し始めた。
「いつもあんな感じよ。」
「いいな、僕も兄弟がいたらそんな感じなのかな。」
微笑ましい光景を夜明が眺めていると、肩をトントンとカルノとカルグが同時に叩いた。
成人男性と並んでも遜色ない体格に、何を考えているのかがあまり分からない切れ長の目。無口な双子はしばらく夜明を見つめていた。
「ど、どうしたの?」
「兄弟だよ。」「俺たちが。」「今日から。」
二人は淡々と交互に話した。
「ああ、そうだよね。ありがとう。」夜明は笑った。「僕、すごく羨ましそうに見ていたかな?気遣ってくれたんだね。」
同時に首を横に振られた。
「気遣いじゃない。」「伝えたいだけ。」「もう、兄弟だよ。」
そう言われても、「新しい兄弟がいっぱいだ」と素直に思えず、夜明はどうしても戸惑ってしまう。七歳までいた孤児院は経営状況が悪く、環境が良いとは言えなかったし、肌や髪の色でいじめられたので、同じ屋根の下にいるだけで家族になれるという発想がなかった。
「…いやか?」「兄弟になるの。」
「ううん!そんなことないよ。こう言ってくれるのも嬉しい…ただ、なんか戸惑ってしまう。出会ったばかりで、僕のこともあまり知らないだろうし、こんな僕でいいのかなって…」
カルノとカルグは互いに目を合わせた。
「たまたま同じ腹からこの世に生まれ落ちたからフリッツとカルグと兄弟になった。」
「フリッツとカルノの兄弟になるのに二人のことを何も知る必要がなかった。」
――家族になるのに何もいらない。とでも伝えたいようで、自分と年齢がそれほど離れていない双子に少しの疑いもないような真摯な目で見られて、夜明は胸の奥にくすぐったさを覚えた。
「…ありがとう。」嬉しくなると、なぜか言葉が出てこなくなる。
はにかんでいる夜明を見ると、カルノとカルグは同時に腕を広げ、自分たちより一回り小柄な少年を抱きしめた。筋肉質で太い腕にぎゅっと抱きしめられながら、夜明は隣でネリーがニヤニヤしているのに気付いた。
「…ネリーも入って!」
「うわー!」
夜明に手を引っ張られ、3人に挟まれたネリーは逃げようとする。
「家族でしょ、ネリーも。」
「そうだけど、この双子の筋肉ゴツゴツで痛いんだよ…」
「ああ!お兄ちゃんを置いて仲良くしてる!」フリッツも飛び込んできた。
「夜明――!!」イェルムは後ろから夜明をぎゅっと抱きしめる。
自身を含めて5人分の体温は少し息苦しくなるほど温かい。夜明は思わず顔を綻ばせた。
その光景を、食堂の中にいる樹妖たちは作業を止めて、幸せなため息をつきながらニコニコと見守っていた。
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