3 変化
旦那様の主な収入源は他の貴族たちと同様に、領民から税金を徴収することだ。その領地は昔から農業が盛んで、質の良い果物や野菜で知られており、ずっと昔から豊かな土地であった。
しかし、数年前から領地全体が異常気象に悩まされるようになった。冷夏に暖冬、雨がまったく降らない年もあれば、大雨や嵐に襲われる年もある。自然の不安定さが農作物に大きな影響を与え、領地の豊かさが徐々に失われていった。
領地が荒れ始めると同時に、使用人の扱いにも変化が現れた。普通の扱いが少しずつ減っていき、代わりに冷たい命令が飛び交う日々が増え、屋敷全体が暗い影に覆われていくのを肌で感じていた。
最初は、毎日のように、旦那様は夜になると馬車に乗ってどこかへ出かけるようになった。馬車の御者の話によると、貴族御用の賭博場があって、そこに入り浸っているという。
そして例外なく、大負けして不機嫌になって屋敷へ帰るのだった。
贅沢な生活に慣れている貴族の性分なのか、家族や友人に心配かけたくないか、旦那様は今までの生活水準を維持することに腐心していた。月に数回の大勢の賓客を款待する晩餐会に、奥様とお嬢様の華美な衣装やアクセサリーは従来の通りである。
領民が納める税金の額を上げることなく、そのことがまたしても旦那様へ対する領民の信頼と敬愛をさらに高めたようだった。変わりたくなかった、それだけだったかもしれない。
旦那様は、変わらずいい領主、いい夫、いい父親でいたいだけなのかもしれない。ただ、そのために、使用人にとっていい主人であるかどうかという点には、まったく気を配らなくなった。
屋敷の裏側では、少しずつ変化が訪れていた。最初に変わったのは食事だった。量が少なくなり、回数も三回から二回、最終的には一回のみになった。一度、使用人たちを人間扱いしなくてもいいという線を越えてしまうと、使用人たちは家畜、あるいはそれ以下の存在となっていった。
主人の許しなしに仕事を辞める、という選択肢がない世の中である。
いずれにせよ、使用人の大半は身寄りがない孤児の出身だったため、「出ていく」選択肢が脳内に浮かんでも、それが決意へと変わることはない。屋敷を離れると行く当てもなければ生き延びる術も知らない。
絢爛豪華な館の影で、黙々と働き続けるしかなかった。しかし、ある日から、働くことすら許してくれなくなった。
どれだけ掃いても風が新たな葉を運んでくる。一つの山を作り終えると、すぐに新たな葉がその場所を覆った。さすがに少し疲れた。
ただ、座って休もうとしたら発見された次第、怒鳴られたり蹴れたりするので、少年はそのつもりはさらさらない。
代わりに大きく深呼吸した。草木の爽やかな匂いが心地よく、ほんの一瞬だけ心が解き放たれる気がした。
いい匂い…。
中庭の仕事は激務だが、せめてこの清々しい香りが彼の唯一の癒しだった。
―ギィィィィィィ
屋敷の入り口の重厚な鉄製の大門が開く音が響いた。金属が擦れる不快な音が耳を突き、少年は反射的に門の方を見た。
見覚えのある装飾が施された馬車が入ってくるのを目にした瞬間、心臓が大きく鼓動した。わくわくでも、興奮でもなく、恐怖と不安による鼓動だった。夜空のように真っ黒な馬車に刻まれた独特の紋章、その中に誰がいるのか、この屋敷の使用人なら全員が知っている。
魔法使いのイグナシオという男だ。
旦那様が彼と出会った日から、使用人たちは一人ひとり、なんの説明もなく、その馬車に乗せられて連れ去られる。月に二人が消えることもあれば、三か月に一人のペースの時もあった。
変わらないのは、その人たちは二度と屋敷に戻ることはなかった。
そのことと同時に、旦那様はギャンブルをしなくてもお金に困ることがなくなってきた。そのお金はどこからきたのか。使用人たちはどこに行ったのか。
考えることすら許されない愚問ばかり。少年は息を呑み、落ち葉をかき集める手を止めた。
イグナシオの到来は、いつも悪いことの前触れだった。