表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/44

11 謝罪

 

 先程の部屋に樹妖(ドライアド)に連れ戻された夜明は、膝を抱えて座り込んだ。


 ――うぬぼれるな。


 ネリーに言われた言葉を、脳内に何十回と繰り返される。自分とは無縁のように思えるほどの言葉を、エリーにどことなく似ているネリーに怒鳴られると、まるでエリーに拒絶されたような感覚に陥ってしまった。


 ネリーは「なぜ守れなかった」と問い詰めたい訳ではなく、自分が発した言葉自体に怒りを覚えたようだ。


 ネリーに謝りたい。でも、怒らせた原因があまり理解できないまま謝ってもいいものか。いくら考えても答えがでず、突き飛ばされたときの衝撃だけいつまでも鮮明に残る。


 考え込むと、樹妖(ドライアド)に後ろから包み込むように抱きしめられた。


 花、薬草、森、果実…あらゆる植物の匂いが混じり合ったような香りがふわっと広がる。まるで花畑に包まれたような心地良さに、夜明はしばらく身を委ねることにした。


 エリーと一緒に過ごした数ヶ月間。


 怒らせたことは1度もなかった。生きるのに必死で、お互いにとって数少ない味方なので、日々の苦しみを慰め合おうと寄り添っていた


 何かで喧嘩をしたりする程の余裕も力も、2人になかった。夜明は、友達への謝り方も、仲直りの仕方も分からない。


 会ったばかりのネリーは、 仲直りするほどの関係性もそもそもないだろうし。それでも…


「嫌な気分にさせて、ごめんなさい」


 もっと怒らせることになるかもしれないが、もしまたネリーに会えたら、それを伝いたい。


 言葉が発せないが、樹妖(ドライアド)の無言の抱擁が夜明の心を落ち着かせてくれた。


 どれほど時間が経ったのであろう。扉を叩いて、ブナイルは入ってきた。そして、部屋に入ったなり、夜明に頭を下げた。


「すまない」


「え?」夜明は愕然とした。ブナイルに謝ることはあっても、謝られるようなことは起こっていない気がする。


「僕の方が、謝らないといけないと思うんです」


 ブナイルは静かに首を横に振った。


「私のせいだ。」


 困惑する夜明に、ブナイルは口を開いた。


「ルシアンの手紙にエリーのことが書かれていた。真夜中で、どうやってあの子に伝えるべきか、私も悩んだ末に、今朝伝えることにしたが…部屋に行ったら、ネリーはいなかった。私が彼女を探しに行った間に、君と先に会ってしまったようだ。彼女の部屋の窓からオーヴィがいる庭が見えるので、それで会いに行って私とすれ違ったと思う。彼女をこれ以上悲しませないために、説明するつもりだったが…」


「ううん、僕が余計なことを言ったのが悪かったんです」


「夜明…君は何一つ謝ることはない。」ブナイルが真っ直ぐ夜明を見ていた。「私のせいでネリーにも君にも、辛い思いをさせてしまった。」


「ブナイルさん…」


「…ネリーから、君に謝りたいって」


「え、僕に?」


 夜明はさらに混乱した。


「なぜ…僕から謝らなければいけなかったのに…」


「二人とも謝ることはない。ただ、ネリーは君を突き飛ばしたから、そのことだけでもきちんと解決した方がいい。君が嫌じゃなければ、彼女に会いに行ってくれるか?」


「はい、もちろん…」


 いまいち起こったことを全て理解しきれない夜明の隣の椅子に、ブナイルは腰をかけた。


「ネリー…気が強いので誤解されやすいんだが、素直でいい子だ。気が強くなければ生きていられないような環境に置かれていたので、本当は心優しい子だ。」ブナイルは微かに眉を寄せ、視線を落とした。「…優しい子なので、君が悪くないってことはちゃんと分かっている。ただ、唯一の家族である妹にもう二度と会えない、その事が辛くて…」


 ブナイルはふと視線を上げ、遠くを見つめるように言葉を続けた。


「ネリーが来たのは半年ほど前だった。少しずつ心を開いてくれて、ここの生活にも慣れてきている。子供たちには全員一人部屋があるんだが、ネリーが初めて私にお願いしたのは『二人部屋にしてほしい』ということだった。いつかここでエリーと一緒に暮らしたいと待ち望んでいた。二人部屋にしてもらって、エリーのベッドをずっと用意して待っていたんだ。ルシアンが来た時、有名な冒険者であることを知って、必死にルシアンに『妹を探して欲しい』とお願いしていたんだ。」


「ルシアンさん…ちゃんと見つけてくれたんですが…半月だけ早ければ…」


「あの子、ルシアンも自分のことをひどく責めていたようだ。それで、エリーは君にとって大事な友人だったとも教えてくれた。」


「はい…だから、僕は謝りたかったんです…」


 ブナイル再び首を横に振った。


「謝らなくていい。ただ、謝りたい気持ちがあれば、どうか彼女に会いに行って、話を聞いて欲しい。そうすると、君はネリーのために、謝罪ではなく何ができるか、きっとわかるはず」


「ネリーのためにできること…」言葉を繰り返しても、何も思い浮かばなかった。ただ、行ってそれが分かるのであれば。


「会いに行きます。僕に会ってくれるのは、嬉しいです」


「ああ。不安もあるだろうが、どうかその一歩を踏み出してみてほしい。ネリーの部屋まで、彼女が案内してくれる」


 樹妖(ドライアド)が大きく頷く。顔周りの大きい1輪の白い花は、朝露をまとったようにキラキラと輝く。


次回で第二章終わります!

もっと平和でたくさんのもふもふ書けるように鋭意下書きなう...

第二章のもふもふ要素は、オーヴィしかなかった... (; ・`д・´)…ゴクリ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ