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5 樹海へ

 


 樹海の中に足を踏み入れた瞬間、空気が一変したことを肌で感じた。神秘的で、自分の持つ語彙では表現しきれない、古の何かが存在するように感じられる。それに対する畏敬の念が、夜明の胸に湧き上がった。


 この樹海は一体いつから存在しているのだろう。


 中の木々の樹齢が数千年に及ぶと言われるこの地は、今では絶滅したとされる種族、エルフが生きていた時代にも存在していたのだろう。文化も姿も記録から消え去った伝説上のエルフたちも、この木々の間を歩いていたのだろうか。


 そう想像を巡らせると、胸元からじわじわと温かさが広がってくるのを感じた。


 光っている。


 首元にかけた白金の鎖を見ると、鍵全体がほんのりと光を放っていた。宝石からではなく、その普通の鉄製の鍵本体から光が溢れ、優しい温かさをもたらしてくれるのだった。


「ジュードさんが言っていた、鍵の導きか…」夜明は無意識に呟き、その情報を整理しようとした。


 一寸先も見えないほどの暗闇の中、オーヴィは何かに導かれているかのように、少しの躊躇もなく前へと進んでいく。その背中の紺色の毛が、星のようにひときわ輝いていた。


「やっぱり、ラピスのたてがみに似ている。すごく綺麗。」


 振り返ると、先ほど入ってきた場所はもう完全に見えなくなっていた。ただ、鍵の光とオーヴィの背中の輝きが、夜明を中心とした真っ暗な世界を照らし出していた。


 真っ暗ではあるが、静寂ではない。


 時折、自分たち以外の何かの足音や物音が遠くから聞こえてくる。巨大な生き物の足音、大きくて重い物が地面を這う音、羽音、聞いたことのない獣の唸り声。


 迷いの樹海に棲む、名も知らない魔物たちの音だった。


 しかし、それらの音は決して夜明を中心とする一定の範囲内に近づこうとはしなかった。


 一度、他の音よりも近づこうとする気配がしたが、オーヴィが瞬時にそれを察知し、大きな声で嘯いた。


 同時に、オーヴィの背中の紺色の部分が強く輝き、波動のようなものが彼を中心に周囲へと拡散した。


「ラピスが鳥を呼んだときに似ている…!!」


 ただ、あの時が【使役】だったとすれば、今のは【威嚇】だろう。


 その直後、しばらくの間、周囲から物音一つ聞こえなくなった。


「ありがとう、オーヴィ。格好良かったよ、心強い!」


 そう褒められたオーヴィの尻尾は大きく揺れ、まるで「これっぽっちのこと」と言わんばかりだった。


 どれぐらい暗闇の中を歩き続けただろうか。鍵の光を見つめるうちに、心が穏やかになっていく。そして進むにつれて、その光が少しずつ強くなっている気がする。


 最初はろうそくのような微かな光だったが、今では松明のように眩しく輝いている。そしていよいよ、オーヴィは立ち止まった。鍵の光が照らし出したのは、周囲の木々よりもひときわ大きく、歳月を経て黒に近い色になった古木だった。


 オーヴィは振り向いて夜明に訴えるような視線を送った。


「そこを見て」と言われているような気がして、夜明はオーヴィの視線を追った。すると、木の根元に一つの穴があることに気づいた。


「え、鍵穴?なんでここに?」


 その鍵穴は、どこの家の扉にもありそうな普通の鍵穴だった。状況が理解できないが、やるべきことは明白だった。取り外してはいけないという教えを守りながら、夜明は少し腰をかがめて鍵を差し込むと、鍵はぴったりとはまった。


 なぜ木の根元に鍵穴があるのかは想像もつかなかったが、ガチャッという音とともに鍵が開いた。


 すると、幹の部分が扉のように形状を変え、内側からゆっくりと開いた。


 扉を少し開けると、オーヴィも通れる広さの入り口が現れた。中は真っ暗で何も見えなかったが、どこからともなく暖かい風が夜明の顔に当たるのを感じた。


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