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15 不穏

 鉄鍋いっぱいのスープを旦那様家族一食分用に、もう少し小さめな鍋によそって移す。味付けなど最終的な仕上げは、料理人に任せる。


 それから、口直しとして出される予定の果物の皮を剥き始めた。


 朝まで栗を拾わせた少年を労るように、普段の中庭の仕事より、調理場の仕事はかなり楽だった。美味しそうなものが目の前にあるのに食べちゃいけないという理性との戦いはあるかもしれないが。


 ――今日は執事(あいつ)が夜まで旦那様の所用でいない。


 という情報が入ったので、旦那様の昼食後、ひと段落仕事を終えて使用人の部屋に戻ると、いつもより人が多いと気づいた。


 一番無理難題を押し付けてくる執事がいない日は、疲弊した身体を休める貴重な時間。横になって昼寝をする人がほとんどである。


 ――夕食の支度が始まるまで横になろうかな。


 一角にある、自分に与えられた睡眠の場所に戻った少年は、まだ今日エドリックに会えていないことに気づいた。一度も使用人部屋に戻らず、森から戻るとそのまま調理場に残って仕事を始めたので、エドリックは一人でちゃんと熟睡できたのかな。


 森に行く前に、泣きそうな顔で自分を見送ってくれたのが最後だった。


「新入りのエドリックは今日どこに配属されたか、知っていますか?」


 少年はすぐ隣のベッドで寝っ転がる、旦那様の猟犬の世話を主に担当する青年に訊ねる。


「あー、中庭だったじゃないかな?」


 胸が妙にざわめく。少年は中庭に赴くことにした。


 広々とした中庭には庭師の中年男性だけ見かけた。道具を持って物置小屋に向かおうとしている彼に、声をかけて同じ質問をした。


「あのおチビちゃんか?今日は君の分まで頑張りたいって、朝から気合い入ってたよ。」


 幼い健気な姿を想像すると、胸が締め付けられた。


「部屋に居ないんですが、どこにいるか知っていますか。」


「ああ、さっき旦那様に呼び出されたところだよ。珍しいと思ったよ」


 庭師が言ったように、旦那様はたいてい執事を介して命令を下す。常に薄汚れている使用人達に会いたくもないだろうし。


 今日はイグナシオが来ないはず。そのはずだが…入ったばかりで、礼儀作法も知らない幼い子に、旦那様が直々とは。


 胸騒ぎがどんどん止まらなくなってきた。思わず屋敷へと小走りしだす。


「あ、お疲れ様です!!」


 屋敷の扉を開いた瞬間、聞き覚えのある可愛らしい声が耳に飛び込み、胸に抱えていた不安が一気に解けた。エドリックが顔を輝かせて近寄ってくる。


「エドリック、お前…」


 ――無事なのか。と聞きたいところが、変に怖がらせてしまいそうで堪えた。


「栗のこと、代わってくれてありがとうございます。あの後みんなが教えてくれたのですが、その森に栗の木ほぼないんだって。すごい大変だったでしょう。」


 エドリックは何度も頭を下げる。


「いや、僕のことはいいんだが…お前、旦那様呼ばれたんだって?」


「あ、はい。今会ってきたところです。一瞬だけだけどね」エドリックは年齢の割にハッキリと喋れている「旦那様、すごい背が高くて格好いいな方なんですね。」


 エドリックな無邪気な口調で嬉しそうに説明する。


「そうか。叱られたり怒られたりしなかった?」


「ううん。本物の貴族様と喋って、僕凄く緊張してたんだけど、旦那様は優しかったですよ。」


 ――優しい。


 使用人の待遇を見て見ぬふりにしていた、旦那様が?少年は再び違和感を覚える。しかし、心配かけまいと無理やり穏やかな表情を作ってみた。


「そうなんだ。それはよかった。何か仕事でも任されたのか。」


「はい!僕にまだ会ったことがないので、どんな子なのかを気になって会ってみたいとおっしゃって。あと、明日の夜の晩餐会の給仕をしてほしいと言われました。幼い子供がいると場の雰囲気が和らぐから、とおっしゃいました。」


 貴族様にやさしく声かけてもらったことに、エドリックは興奮収まらず、頬を赤らめていた。


 ――明日の夜。心臓が一瞬、凍りついたように感じた。

 

「魔法使いのお客様まで招いた晩餐会なんですって。とても光栄です。ぼく頑張らなくちゃ…今から侍女長さんに給仕のことを教えてもらいに行きます。」


 ――嫌な予感ほど的中する。というルシアンの声が脳裏をよぎる。


 エドリックは軽やかな足取りで侍女長の個室に向かって消えていく。プライドが高い厳粛な老婦人だが、執事のような嗜虐心はなく、主人のためならエドリックにはきちんと礼儀作法を教えてくれるはず。だが、気になるのはもちろんそこではない。


 胸の奥で鼓動が激しく響き、冷たい汗が額に浮かぶ。ルシアンの言葉を思い浮かぶ。


 ――私が信頼している情報源によると、明日の夜、イグナシオがまた君の雇い主を訪ねてくる。


 嬉しそうに話すエドリック。


 ――魔法使いのお客様まで招いた晩餐会なんですって


 胸の中で渦巻く不安と焦りが一瞬の安寧を奪い去り、冷たい風が吹き抜けるような感覚が背筋を這い上がる。


いよいよ次回更新で第一章を終わらせます!!

タイトル詐欺にもなりそうだが、

早くほのぼのパート書きたい...!!!


ブクマ大変励みになっております。

少しでも「続き読んでみたい」と思っていただければいいねブクマお願いします!

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