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12 本心

 

「エリーのことなんですが…二週間前に、彼女はもう…」


「…亡くなったのか」


 ルシアンは、言わせたくないように静かに言葉を遮った。少年は小さく頷いた。


「はい、台所のくず入れから拾ったパンを食べた後、熱が出て、それがずっと下がらなくて…」


「くず入れからパンを拾ったと?」ルシアンは少し驚いたように眉を上げた。


「はい、エリーはお腹が空いていました。僕も同じものを食べていましたが、無事で…」


 ルシアンはため息をつき、肩を落とした。


「使用人とはいえ…噂は本当のようだな。そうか、間に合わなかったか…それで、熱が出た後医者か薬か、何か治療は施されなかったのか。」


 一連の質問に、少年はただ首を横に振るしかできなかった。


「使用人のために、お医者さんを呼ぶことはないです。」


 俯きながら、少年は淡々と答え続けた。


 その言葉を噛み締めるように、ルシアンは再び黙り込んだ。


「…私がもう少し早ければ。君たちのような子供がこんなひどい状況に置かれているなんて…」


 その声に、自責の念が滲んでいた。


「ルシアン…さん」少年は小さな声で呼びかけた。


「どうした?」柔らかい声が返事をした。


「エリーには、探してくれる家族がいたのですね?」


「そうだな。生き別れになった姉が彼女をずっと探していたんだ。冒険者としてではなく、私個人への依頼だが。」


「そうなんですね。お姉さんがいたんだ…」


 少年は、エリーからその話を聞いたことがないことに驚き、胸が痛んだ。家族のことを話すのがあまりにも寂しかったのか、つらかったのか、それとも自分には話したくなかったのか…暗い想像が頭をよぎった。


 少し黙り込んだあと、少年は恐る恐る尋ねた。


「ルシアンさん、一つだけ…お願いをしても…いいですか。」


「内容は?」


 温かいまなざしに救われるように感じていた。


「もし、エリーのお姉さんに会うことができたら…伝言をしてくれませんか」


「何を伝言してほしいんだ?」ルシアンの声は優しく、包み込むようだった。


 肩が震えだし、言葉が喉に詰まる。


 片時も忘れることのない、エリーが亡くなるまでの三日三晩。高熱にもだえ苦しんだ熱い肌。かわいらしい民謡を歌ってくれた口は、ただ寒い寒いと呻いていた。


「ごめんなさい、と…」ようやく言葉を絞り出した。


 目を合わせると、ルシアンはさきよりも暖かさが増した目で少年を見つめていた。胸を締め付けられるような、優しそうな眼差しである。


 それだけで、温かいものが湧き上がって、全身に拡散するのを感じた。


「妹さんを、守れなくてごめんなさいって」


 声は震える。目頭から熱いものがこぼれだす。


 さっきまで言葉が出てこなかったのに、胸の奥に堤防が決壊したような音がして、ごちゃごちゃとした感情があふれ出す。


「僕が代わりに死ねばよかったって…」


 若い剣士は今どんな表情しているのか、視野がぼやけてよく見えない。もっとも、それを確かめる勇気は今の少年にはない。


 なぜこの瞬間に、この言葉が口から出たのか、まったく理解できない。ただ一度も考えたことがないことである。口に出すまで、自分自身すら気づいていなかったものだ。


 ただ、紛れもなく本心であると少年は確信した。



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