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1  赤髪のエリー 

 親友。


 その言葉の意味はあまりわからないが、もしいるとしたら、エリーになるだろう。


 ()()()()()()、と少年が彼女に付けたあだ名である。


「きみって本当に無表情!まるでお嬢様が持っている人形さんみたいだね。もっと笑えばいいのに。」


 エリーはよくそう言って、くすくすと笑う。エリーは、お嬢様の遊戯室の掃除を担当しているので、貴族の令嬢のおもちゃを毎日のようにみていたという。


「また怒られちゃった。でも、今日は殴られずに済んだよ」と、自慢げに笑う時もあった。


 エリーはとにかくよく笑う子だった。少年とは年齢が近くて、与えられた食事も同じなので、ガリガリ具合もいい勝負だ。ただ、エリーは背が小さいから当然体力も人よりない。その上、よく物を落としたりして上の者に叱責される。


 屋敷に来た最初の頃、エリーは怒鳴れる度にくりくりとした大きな青い瞳から涙がこぼしていた。しかし、すぐに泣くことも怖がることも無くなってきた。


 使用人部屋の隅で、二人はよく身を寄せ合って眠っていた。身体が同じぐらい小さいので、同じベッドを分け合う仲だ。


 唯一の安息の場として使用人たちに与えられた寝室も、決して快適とは言えない。狭苦しいのはもちろんのこと、誰一人として満足に風呂に入れさせてもらえず、全員が等しく薄汚れて汗臭い。自分も例外ではない。


 しかし、騒音だけ、どうしても慣れることができなかった。いびきの合唱、悪夢にうなされる寝言、昼間に受けた暴力の痛みに呻く声。苛立ちから舌打ちする者もいる。それらが混ざり合い、響き渡る。


 寝る前に、よくエリーとコソコソと話していた。可愛らしい曲調の故郷の民謡も歌ってくれていた。


「ここ、どうしたの?」


「中庭に枝が落ちてるって、蹴り飛ばされた。」


「きみ()執事(あいつ)に蹴られたの?こぶができた仲間だね。うふふ。」


 鈴のような笑い声が聞こえてる気がする。少年は戸惑う


 なぜかというと、エリーはもう笑えないんだ。その民謡の続きや鈴のような笑い声を聞くことも、小さい身体の温かみを感じることができない。


 エリーは死んだのだ。今日の朝に。


 四日前に、空腹のあまりに、二人はこそこそと台所のゴミ箱を漁っていた。育ち盛りの二人は、その日は朝からいろいろな肉体労働をやらされて、いつもより腹が減っていた。


「その色、やばくないか?」


「ちょっとカビ生えてくるぐらい、大丈夫だよ」


 戦利品である、白いカビがぎっしりと生えた黒麦のパンを半分に割って、口の放り込みながらエリーは笑ってそう言った。


「…酸っぱくて臭い」少年は素直に感想を述べた。


「うーん、想像通りの不味さ」エリーは頑張ってパンを飲み込んで、やはりニコニコと笑った。


「今日はついてないね、そういう日もあるね!明日は、侍女長の晩ご飯をちょっとくすねようかな」


 少年を励もうとしたエリーは、その次の日から、燃えるような高熱を出しながら寝込むようになった。


 そのパンが原因だったのか何なのか、原因を追及するすべもなく、エリーはどんどん弱っていった。全く同じものを食べた少年は、腹痛に少し悩んだぐらいだった。


 当然のことながら、旦那様は医者を呼ぶはずもなく、薬を与えることもなかった。一人の使用人が病気になった、死にかけた、死んだ。


 これっぽっちのことは、旦那様の耳にさえ入らないだろう。


「なんか今日、寒くない?」


 おでこを触ると、熱した鍋のような熱さだった。エリーは布団代わりの麻袋にくるまって震えていた。


 その高熱は、三日三晩も続いた。


「エリー、せめて水を…」


 お水を飲ませようとしていても、ほぼ飲み込めずに吐いてしまう。


「食べたくない…」


 スープを口元で少し舐めたエリーは、弱々しく首を振った。徐々に返事するも出来なくなった。


 4日目の朝に少女は冷たくなった。少年は、その息を引き取る瞬間を見守った。


 時折、濡れた布巾で寝汗などを拭き取ったおかげが、それなりに清潔だった。しかし細い手足は青白く、生気を感じさせない。まるで、エリーが話した白磁肌の「お人形さん」のように。


「焼却炉に持っていけ」


 30分前に、執事から少年に下された命令だったが、廃棄物のようにそのまま台車に乗せたくない。


 冷たいが、まだ柔らかさが感じられる小さな身体を、二人がいつも寝ていた布団でできるだけやさしく包んだ。布団なしに今夜はどうやって眠るか、考えもしなかった。


 台車が向かう先は、旦那様の屋敷の奥にあるゴミ焼却場である。


 赤みがかかった柔らかい髪、可愛らしいそばかすの笑顔。すべて、生ゴミや、壊れた革靴、折れた傘と一緒に、週に2度ほど来る魔法使いの火炎魔法の中であっという間に灰となる予定だ。


 涙も出ないし、一緒にも行けなくて、ごめんな。


 焼却場の扉を眺めながら心の中でつぶやく。


 早くて明日。または週明けか。きっとまた新しい子が入るだろう。


「またね、エリー。」


 少女の手のひらのようにやさしい南風は、汗ばむ小麦色の頬を撫でていく。整った幼い顔立ちをよく見ると、痛々しい細かい傷が無数に刻まれている。


 自分の運命の道がまもなく分岐することを、少年はまだ知る由もなかった


先のことはざっくりとしか決めていないが、主人公をめちゃくちゃに甘やかす予定なのでご安心!


ファンタジーものなので、ありがちな設定で遅いかもですが、よければいいねやブクマお願いします!

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