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最近、幼馴染がそっけないんだが

作者: Kei10


 俺くん:高校二年生。

脚フェチ、本人は色々とバレてないと思っている。

国語の成績だけめっちゃ良い、他は赤点ギリギリ。

幼馴染ちゃんを愛している。


 幼馴染ちゃん:高校二年生。

社交的で明るい性格、友達が性別問わず多い。

料理と格ゲーが得意。

なんだかんだいつも俺くんと一緒にいる。


※作品の都合上いくつかの記号を使用しております、ご容赦くださいませ。

 

 

 ◇◇◇

 


 修羅場。

 皆はこれまでの人生で経験したことがあるだろうか。

 この世にはそれはもう数多くの修羅場が存在する。


 奥さんにいかがわしいお店の名刺を発見された時。

 満員電車の中で物凄く便意を催した時。

 イタズラな風で校長先生のズラがズレた時。


 人は時として、己の力ではどうやっても抗うことのできない状況に陥ってしまうことがある。


「そ、そういえばこの前部屋で読んでた漫画……ついこの間最新刊出たらしいぜ」

「……」

「せっかくだし、このまま買いに行って家来るか?」

「……いいんじゃない?」

「お、おう……じゃあそうするか」

「……」

「……」

 

 そんな時貴方はどうするだろうか?


 なんとかして打開策を見出そうとするだろうか?

 事態が自ずと良くなることを神に祈るだろうか?

 もういっそ完全に諦めて無敵になるだろうか?


 これも人によってそれぞれだろう。

 

「……せや! 部屋でダラダラするにはポテチとコーラが欠かせないよな!!」

「……」

「ついでにコンビニも寄っていい?」

「好きにすれば?」

「あ、はい……」

「……」

「……」


 おっと、つい話が長くなってしまった。

 あまりの空気の重さに現実逃避が加速の限りを尽くしてしまった、アク○ル・ワールドしてしまった。

 ごめんなんでもない、なんとなく語感が良かっただけ。


 俺は都内でそこそこの偏差値を誇る高校に通う平凡な男子高校生だ。

 ただ一つ、人と違う点があるとすれば俺自身の話ではないが、それは隣の彼女の存在だろう。


「な、なあ、もしかして体調悪かったりする?」

「別に?」

「そ、そっか……ちょーっと、怒ってたりする?」

「別に?」

「ふええ」


 同い年で、家が近所で、幼稚園から高校まで同じところに通っていて、顔が良くて性格も明るくて料理がマジで上手い、この頃ラノベでしか見かけないような可愛い幼馴染がいるという点だ。


 ……。

 え、どこが性格の明るい可愛い幼馴染だって?

 いや待ってくれ違うんよ、数日前まではホントにそうだったんよ。

 もうここ最近ずっっっとこうなのよこの子。


 自分で言うのもなんだが、この歳になるまでそれなりに仲良くやってきた仲だ。

 互いの家を行き来しては晩飯作ってもらったり、俺の部屋で各々寛いだり、ゲームで熱くなってマジで喧嘩しそうになったり……。


 側から見たら「これもう付き合ってるだろ」とか「ラノベ乙」とか思われてもおかしくない関係を今まで築いてきたんだよ。


『私、これからなにを言われても唐揚げにマヨネーズつけるのやめないからね?』

『いいぞやったれ』

『ホントにやるよ? 私はやると決めたらやる女だ』

『はよやれって』

『やるんだな!? 今! ここで!!』

『だあああうるせえええ!! はよつけろや!!』

『止めろや!! 私がブクブク太ったらどう責任取れるってんだ!!』


 数日前まではこのテンションで会話してたんよ。


 ええ、なに、なにこれどういうこと?

 なにが恐ろしいって学校ではいつも通りなのに俺と二人きりになると途端にこうなるのよね。

 

 なんかしたかな……? ってずっと考えてるんだけど本当になにも分からん。

 しかもさっき言ってたように、別に俺に対してなにか怒ってるわけではないらしいんだよね。


 いやそんなことあるか?

 この雰囲気でそんなことある?

 絶対なんかやらかしたでしょ俺。

 これでなんもしてないは無理があるでしょ俺。


「ねえ」

「ひゃい!!」


 飛びもいた。

 数日ぶりに声をかけられて恐れ飛びもいた。


 ビクビクしながら顔色を伺うと彼女はその端正な顔を少しだけしかめて、なにやら口をモゴモゴとさせていた。


「その、さ……」


 かれこれ十年以上の付き合いになるがあまり見たことのない表情だった。


 これまで言いたいことははっきりと相手に伝えられる関係だったというか、というよりも、彼女は基本的にそういうモヤモヤを抱えっぱなしでは我慢出来ない性格だ。


 そんな彼女が何をここまで思い悩んでいるのか。

 そしてこの表情、なにか言いたげなその様子。

 

 原因は間違いなく俺に関するなにかであることだけは、流石の俺にも理解することが出来た。


「すまん」

「……え?」


 立ち止まり、彼女に向かって頭を下げる。

 突然の行動に、彼女は困惑したような声を漏らした。


「俺はバカだから、お前がここ数日なにを考えているのか……いや、どこでお前を怒らせてしまったのか、考えても分からなかった」

「え、いや、ちょ」

「多分知らないうちに、傷つけてしまってたのかもしれない」

「……」

「だけど俺は、お前と数日まともに話せないだけで想像以上に寂しかったし、苦しかった」

「……ん? うん? んんん??」

「何も分かってない状態で謝るとか誠意の欠片もないけど、俺がなにかしてしまってたのなら本当にすまなかった」

「……」


 何も分かっていない分、気持ちを込めて言葉を続けた。

 流石にこれでどうにかなるとは思わないが、それはまた色々と考えるとしよう。


 こんなことで昔からずっと一緒にいる幼馴染との、好きな女の子との縁が切れてしまうなんて絶対に嫌だからな。


 そう、なにを隠そう俺はコイツに惚れている。

 めちゃくちゃに初恋で、物凄く惚れ込んでいる。

 こんなところで終わらせたくないんだ。



 ◇◇◇



 さかのぼること数年前、小学五年生の時。

 初めて手料理を振る舞ってもらった時のことだ。

 

『うーまーいーぞーっっ!!』

『ほんとー? へへっ、良かったぁ』

『マジで美味しい、料理作れたんな』

『そりゃ相当練習したよ……しょっぱすぎとか大丈夫だった?』

『いや全然、バッチリだった』


『ちなみに、なんで料理練習しようと思ったん?』

『だって……アンタが言ったんでしょ?』

『???』


『女子の手料理は男のロマンだーっ! って……』

『ほら私も一応、女子っちゃ女子だし……?』

 


 ◇◇◇

 


 いやこんなん惚れるでしょ。

 なあ? 惚れてまうやろ。

 無理だよねこんなの、これ以降腐れ縁でありながら世界一可愛い女子にしか見えなくなっちゃったよね。

 無理無理、こんなん無理だもん絶対、はあ好き。


 これまで下心を悟られて嫌われないように頑張ってきたけど、こんな状態になれば惨めに焦ったりするくらいには、俺はこの幼馴染に惚れていた。


 だから、どれだけ時間がかかっても良い。

 せめてまた以前のような普通の関係に戻れれば……あれ?


「……」

「……あの、どした?」

「……」

「おーい、生きてるか? え? ホンマにどしたん??」

 

 目を見開いたままこちらを見つめる彼女。

 時折瞬きする以外はぴくりとも動かないのでつい普通に声をかけてみたり、それでもダメそうなので寸止めでジャブを放ったりしてみるが全く反応してくれない。


「ふっ、せいっ、ここで黄金の右ストレートォ!!」

「……」

「……」


 え、時間止まってる?

 九割が嘘で出来ているって噂のジャンル系アダ○ト物始始まってる??

 マジかよ、俺初めてはお互いに初々しい感じが……。


 閑話休題。


「はあああぁぁぁ……」

「ひええっ!?」


 突然凍結解除されて深いため息と共に復活した。

 それと同時に右手で頭を抱えて、もうこの上なく憐れんだ目でこちらを見つめてくる。


「アンタがどうしようもないってのは昔から分かってたけど、今よーく再確認した」

「はい……」

「だから、アンタにはなにも教えないことにした」

「ええっ!?」


「自分で考えろ、この大バカ男」


 そう言って早歩きで進んで行ってしまった。

 久々にちゃんと喋ってもらえたのは喜ばしいが……え、なにこれ? 逆にどういう状況??

 

 なにも教えない、ってことはやっぱり俺がなにかしたってことだったんだろうが、ええマジでなにこれ。


「……早く行くよ」

「あ、はい! すいません!!」

「コンビニでの買い出し、今日だけは流石にアンタの奢りだから」


 えええ、嘘でしょ?

 ちくしょう、俺がなにをしたってんだ。

 誰か助けてくれ。

 


 ◇◇◇



 私には幼馴染の男の子がいる。

 なにをするにもいつも一緒で、色々な想い出を二人で作り上げてきた相手だ。


 だけど聞いてほしい。

 これがもう本当にどうしようもない男なのだ。

 喧嘩する時は口悪いし、平然と女殴るし、エロい目で見てくるし。


 本当に、全く、もう本当にどうしようもない。


 だけど……いつもは優しいし? 殴るとは言っても本気で痛くされたことないし? 視線もまあ別にイヤではないし?


 良いところもある相手なのだ。

 差し引きギリギリプラスには収まってるかな。

 

 そんな腐れ縁のこの男に対して……私は今、とてつもなく悩まされている。


『ねえ、なんとなくネット見てたら今履いてるこれ……男の子が喜ぶやつらしいけどどう思う?』

『男が好きな短パン…ッ!! 脚ィ…!! ありがとうございます!!』

『うわ目線えっぐ、どっかいけ!!』


 口を開けば普段はこんな感じの男が、まさか私のいないところであんなことを口走ってるとは思ってもみなかった。


 聞いてほしい、この男のどうしようもなさを。




 ◇◇◇




 数日前のこと。

 私は放課後にちょっとした用事を先生から頼まれていて、あの男には「すぐ戻る、教室で待機だ」と言い聞かせて別の場所で作業をしていた。


 それを終えて教室まで戻ろうとすると、彼は仲の良い男子の一人と雑談しながら待ってくれていたようで、外まで話し声が聴こえてきた。


「お前さー、どうして昨日の告白断っちゃったの?」


(……えっ??)


 どうやら少しデリケートな話題らしく、思わず身を隠しながら教室の中の様子を伺ってしまう。


 中にいるのは彼と、彼の友人の二人のみ。

 そして今の問いを投げかけたのは"友人のほう"だ。


 つまるところ……え、あの男が告白された?

 え、あの、時折チラチラと私の胸や脚をえっっろい目で見てくるあの男が?


 ほおおお……穏やかじゃないわね。

 

「……なんで知ってるん? 俺、誰にも言ってないけどな」

「噂なんてどこからでもすぐ広まるもんだよ、それでなんでなん? 結構可愛い子だったじゃん」

「いやまあ、全然喋ったことなかったし、それに……」

「既に嫁がいるからって話か?」


 よ、よよよ、嫁!?

 そんな、嘘でしょ、いつの間に既婚者だったの。

 大体一緒にいる私の知らない内に……あ。


 もしかして私のことか。


「アイツはそういうんじゃないよ、幼馴染だって」

「そういうんじゃないなら、可愛い女子と付き合えるチャンスをわざわざ手放すこともないんじゃね?」

「それでも全然知らん相手とはうーん……まあ」


「アイツが原因っちゃ、原因なのか?」


(ええ……??)


 なんか私のいないところで謎の原因に仕立てられてるんだけど。

 全然分からん、分からんけどなんかムカつくな。

 今すぐ乗り込んでって文句言ったろうかな。


「ほう、というと?」

「だって、アイツも普通にクソ可愛いじゃん」


(ん? ……ん??)


 可愛い? KAWAII? 誰が??

 落ち着け、文脈から捉えて、私のことか。 

 ……私のことか!!


「まあ、学年でもトップクラスなのは間違いないだろね」

「それにめちゃくちゃ気の良いやつだぜ、なんだかんだ一緒にいてくれるし、落ち着くし……正直、俺にとってアイツ以上に安心出来る相手ってのがもう想像つかないんだよね」


(うわもう、すっごい褒められてるじゃん)


 どうしよう、顔が熱い。

 普段聞くことのない、幼馴染の本音の部分の話。

 そこでもうなんていうか、そんな褒めることあるの? ってくらいめちゃくちゃ嬉しいこと言われてた。


 普段お互い騒がしかったり、ケンカもしょっちゅうしてるのに、そんな風に思ってくれたんだ。


「料理も上手いらしいね、お前の嫁さん」

「そう!! この前作ってくれた唐揚げがまた美味しくてさー……」


 ダメだ、もう無理。

 中でまだ「やっぱレモンよりもマヨネーズだよなー」とか言ってるけどこれ以上は無理。


 フラフラしながら教室の前から遠ざかり、個人チャットに「もう少し時間かかりそうだから先に帰ってよし」と送ってあてもなく歩き出した。


 容姿を褒められてることももちろんまあ、悪い気はしないけど……それ以上に私の人間性や、頑張って身に付けた料理を手放しに褒めてくれていたことが正直、嬉しくて堪らなかった。


 ああもう、これは不覚だ。

 普段からささやかにアピールしていって、少しずつそういう方向にも意識してもらえたらなって思ってたけど……完全にしてやられた。


 少し時間を置かないとまずい。

 全く、本当に油断ならない男だ。


「ん?」


 適当に歩いてると私宛てに通知が届いた。

 送り主はあの男。


『全然待ってるから一緒にかえろーぜ』


(………っ♡)


 本当に、どうしようもない男だ。



 ◇◇◇



 それから数日後。

 なにやらアワアワしてると思ったら急に謝ってきて、そしてまた心臓に悪い言葉を投げかけられて私は再度色々と無理になっている。

 

 冷たい態度取ってるのは私なのに?

 私との関係が大事だから、あそこまで真剣に?


 はあ……♡

 おっと。


「漫画、買いに行くんでしょ?」

「あ、ああ……なあやっぱ俺なにかやらかしてるよな?」

「別に」


 いや、本当に申し訳ないと思ってる。

 本来謝るべきは急に冷たい態度を取っている私のほう、そんなことは当然理解している。


 だけど無理なものは無理。

 今普通に接してしまうとどこかでボロが出そう。

 それだけは思春期の乙女的にどうにか回避したい。


「ねえ」

「な、なんでしょう」

「奢り、やっぱりなしでいいよ」

「えっ」


 こんな男、精々悩み倒せばいいんだ。

 私がもう少し素直になれるまでは。





俺「寂しかった」

幼「……ん?(♡)」


友「これで夫婦じゃないは無理でしょ」


 ◇◇◇


 お読みいただきありがとうございました!

 いいですよね、幼馴染。

 お互いのことなんでも知っているようで、実は知らない側面がたくさんあったりする関係性。

 こういうすれ違い?系のお話が大好きです。


 「男子が好きな短パン」はそのまま検索かけたら多分それっぽいのが出てきます。

 はい、SH◯INです。

 これめっちゃ良くないですか?

 こういうの不用意に履いてくれる幼馴染が欲しい人生だった……我ながら気持ち悪いのでここらへんにしておきます。


 書いておきながら「2人ともポンコツすぎか?」なんて思ったりしてしまった作者ではございますが、まあこいつら、側から見たら完全にバカ夫婦なので多分大丈夫でしょう。


 最後に、もしよろしければ評価や感想などいただけると非常に嬉しいです。

 感想以外にも「セイ癖丸出しで草」「わかるぞ短パン」みたいなコメントも大歓迎です。

 唐揚げにはレモン党の方はお手柔らかにお願いいたします。


 それでは、またどこかでお会いしましょう!

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― 新着の感想 ―
[一言] もっと性癖をさらけだせよ! なんだか解りあえそーだよ、うん
[気になる点] 甘いかなぁ? 幼馴染が素直になるまでの間(期限は不明)、主人公はわけが分からず苦しみ続けるのに……。
[良い点] 良い…!すごく良い…!!幼馴染物はこう言うのでいいんだよこう言うので…!!特に男の子が素直だったのがとても良かったです。こんなん言われたらきゅん…♡だろうが…! [一言] セイ癖丸出しで草…
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