東西南北戦争 ホワイト・デッド・リデンプション 赤白黄色黒もある
「手前ぇらのせいで、こっちはオチオチ死んでられねぇんだよ!くたばれヤンキー!」
「黙れ田舎者!負け犬が吠えるんじゃねぇ!ディキシー・ゴーホーム!」
「よそでやれ死人ども!此処は現代社会なんだよ!何時まで十九世紀だと思ってるんだ!」
ここ、ワシントン州ホワイトハウスは、Whiteと言うより、FightHouseと言っていい趣に変わっている。
あの日、大日本帝国に、止めを刺すべく投下された、原子爆弾の一撃は、あの世も門を叩き壊し、中より死者の群れが合衆国中に溢れる事態となっているからだ。
帰ってきた連中の殆どは無害と言っていいのだが、短いながらも苛烈な歴史を歩んできた合衆国である、諦めの悪い連中は幾らもあの世で燻っていた。
その筆頭が只今現在、現代の家主に断りも無く、第二次南北戦争を行っている連中だ。特に酷いのは南軍の奴ら、嫌がるリー将軍をあの世から引きずり出し、勝手に総大将に据えて進軍を続けている連中だ。彼らは際限なくここホワイトハウス周辺も含め、あらゆる所で政府と北軍相手に戦闘を行っている。
彼らの言い分はこう「北部が作った政府のやらかしで、我らは神の御許から叩き出されたのだ!南部はこの事態への責任を北部に求める!奴隷制度が悪なので有れば、天国の門を叩き壊す所業を行った現在の政府は、巨悪と言う他はない!出てこいリンカーン!リベンジの時だ!」
知るかそんなもん!俺たちの責任じゃねぇ!文句を言うなら、安普請した神に言え!そう言いたい合衆国政府ではあるが、帰ってきた者たちが口を揃えて、最後の一撃は原爆のせいだと言うのだ、何百何千万の人々の口を全て塞いで回る訳にもいかず、この事は全合衆国国民の知る事になってしまっていた。
国民も笑って否定などしてくれない、アメリカはキリスト教国なのだ、大統領だって宣誓には聖書に誓う。怒りの民衆は不死身の軍団となり、特に南部は公然と独立を口にするまでになる。
対立は南北だけではない、インディアン連合は、西部中部で、復活した部族の父祖たちと反抗の狼煙を上げ、犯罪者どもは西部劇を再開する、その上黒人どもは権利と独立を求め暴れ出す。
営々と築き上げてきた、合衆国と言う丘の上の家は、燃え上がっている。ニューヨークはモホーク族が証券取引所に乱入しトマホークを振り回し、五大湖周辺ではカヌーに乗ったヒューロン族が工業地帯に火を付けて回り、スー族とアパッチの騎兵部隊は孤立した町に襲い掛かる。
政府もただ無策であった訳ではない、蘇っているのなにも反政府を標榜する者ばかりではないのだ。北軍は再度、南軍を押し戻すべく州軍と共にアンティータムで決戦しているし、第七騎兵連隊は子孫と合同でインディアン居留地の制圧に乗り出している。
それでも、治安維持組織が死力振り絞り、犯罪者の群れを縛り上げて、連行するのにも限界と言う物がある。相手は不死身、全米ライフル協会がどれだけ自衛を歌い上げて、鉛玉をプレゼントしていようが、相手は死なない、こっちも不死身だが破壊の嵐を止めようしても埒が開かない。
反政府組織達が狙っているのは人ではない、彼らが狙うのは建造物。歴史も伝統も知る者か!燃やせ!破壊しろ!ぶっ潰せ!真っ白にして後から作りゃ良いんだ!気に入らん政府事叩き潰せ!
人は死なない、誰一人死なない、レイプ?暴行?気回しの良い事にあの世の連中、同意以外の姦淫はご法度だと縛りを設けてくれているよ。無理にやれば腰の物がポロリと取れる。これ以上馬鹿みたいに増えるなだと!先にやれ先に!今頃道徳を振り回すな!増えよと言ったのはあんたたちだろ!
怒りと鬱憤は全て積み上げて来た文明と歴史に襲い掛っていく。国民は叫ぶ、「何とかしてくれ!」
「で、どうしますか?大統領閣下?ああ、現役の方からどうぞ」
「どうもこうもあるか!私に言うな!こうなったのも、外の馬鹿のせいだ!」
疲れ切った閣僚の声に、ハリー・S・トルーマン大統領はホワイトハウスの外に民衆を説得に行き、東京大空襲の被害者連合に、袋叩きに有っている前任者を批判した。アメリカ人しか居ないと思ってたのかあのバカ!死者は次々にこの世に戻って来てるんだ、どんな所で恨みを持った奴が来てるか分かったものでは無い。死なんからと言って迂闊に外に出る方が悪い!
「収拾なんぞ誰が付けられるんだ!どいつもこいつも、終わった事に血眼になりおってからに!そも誰に譲歩するんだ?交渉相手は誰だ?インディアンの酋長か?西海岸で皇帝だとか祭り挙げられている乞食か?」
叫んでもどうにもならない事は大統領にだってわかっている。だが叫ばずにいられない。危ない!脇をライフル弾が掠めていった!
「ここはホワイトハウスなんだぞ!射撃場じゃないんだ!そんなに戦争ごっこが好きなら他でやれ!好き放題に撃ちこみやがって!」
思わず怒鳴る大統領。怒鳴りたくもなる、死人共は国家への敬意なんか、あの世に置いてきている。
「自治権だな。大幅な自治権の付与しかあるまい。デイヴィスには私が話をつけるよ。先ずは南部の連中を黙らよう。ああ、こんな事になるなら勝たなけりゃ良かったなしかし」
頭から湯気を出しているトルーマン大統領を見やっていた、元大統領、エイブラハム・リンカーンはポツリと漏らした。この席上には蘇った嘗ての合衆国大統領も集結しているのだ。
「それしかないのですかねぇ閣下?トホホ、なんで私はこんな時に大統領なんぞに、、、、ああそうだ、対日戦はどうなった?もうどうでも良いが、一応聞こう。あいつ等も私たちと同じく混乱しとるんだろ?戦争なんぞ止めだ止め、停戦協定の話はどうなっとるんだ?」
「チャイナからは叩きだされているようです。スウェーデンからの話では、歴代のエンペラーが政府を掌握したとか、近く、交渉にはいります」
「良いきみだ。あいつ等だけ一人勝ちだなんて許せんからな、精々嫌味を言ってやれ。どうせコリアからも撤退せずにはいられんのだろう?それで手を打ってやる。しかし、なんの為に戦争しとったんだ私達は?もう思い出せんよ」
やる気のない閣僚の回答に答えたトルーマン大統領は、心底疲れた声で本音を漏らした。席から立ちあがる。窓の外を見れば、裸に剥かれたフランクリン・ルーズベルト元大統領が即席の神輿に括り付けられ、ホワイトハウスの敷地から連れて行かれて行く姿が見える。
「あれな、後で助けに行ってやれ。流石に元大統領があの様では恰好が付かん。ああもう!神の馬鹿やろう!地獄に落ちろ!これから二度と聖書に宣誓なんぞしないぞ!大統領令で決めてやる!」