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屑屋と呼ばれた男 planetarian 外伝  作者: オーガスフロンティア
12/12

第十二夜 凍てつく大地

世界戦争が引き起こした異常気象は、地球に寒冷地化を強要した。

そのため、もともと寒冷地であった大地から、多くの避難民が赤道へと移動しつつあった。

それは中央アジアのモンゴルでも同じである。

 モンゴル国、ウルギー県・・・。


 ここは、ロシアとの国境に接した中央アジアの一角である。

 数十年前であれば、遠く、頂上に雪を被せたアルタイ山脈が見えていたのだが、いまは雪嵐がその視界を遮って、遊牧民の末裔であったタルガットの記憶のなかで復元されている。

 厳しくとも穏やかに感じた柔らかな緑の草原は、既に過去の物である。


「父さん、光が見えたよ。」

 彼の息子ナランが、ロシアから続いている街道の先に、カランコロンという鈴の音とともに、近づいてくる乏しい光を見つけた。

 ロシアからの避難民である。

(また来たのか・・・。)

 タルガットは何も答えずに、吹雪が吹き付ける巾着の、ゴオッともザワッとも言えない音を放置したまま、じっと、その揺れている光を見つめていた。

 既に政府機能を失ったロシアは崩壊し、都市部やヨーロッパ近郊では、避難民が流入し紛争や略奪が常態化していたが、中央アジアのモンゴル国境付近では、もともと貧しい地域の人達が暮らしており、食料を奪い合う余力は残されていなかった。

 トナカイを引いた新しい来訪者たちは目の前まで来ると、いったん立ち止まってタルガットの顔を見たが、タルガットが小さく首を振ると、その意味を理解して、また、カランコロンとトナカイの首にぶら下がった鈴を鳴らして静かに進み始めた。

 ウルギー県ではイスラム教を信仰している人達が多く住んでいた。

 タルガットもムスリムである。自身たちの信条から困窮している訪問者たちに食べ物を分け与えたかったが、彼ら自身に、分け与えられる余裕が無かった。

 避難してくるロシア系の人達は、様々であったが、どの避難民も疲れ果てていた。

 タルガットは、彼の妻から避難民たちの行き先を聞かれたことがあったが、返答しようがなかった。

 なぜなら、彼らも、どこへ行けば良いのか分からないのだから・・・。

 ともかく南へ・・・南へ・・・。

 しかし、これはタルガット達も状況は同じだった。

 何年も前に作った干し肉などの食料で食いつないでおり、生き残るためにはここの土地を離れるしかなかない。戦争が始まるまでは、貧しくとも食料を確保できていたが、戦争が始まり寒冷化が進み始めると、家畜である羊を維持できず、ついには、一頭もいなくなった。

 今は、その羊の番をしていた銀色の犬が一匹と、馬二頭だけである。

「ナラン。父さんたちも、暖かい土地を探しに行かなければならない。住み慣れた大地から離れて、生きていける土地に移る時がきた。もう一度太陽の下で暮らせる土地に・・・な。」

「うん、わかったよ、父さん。僕の名前の〝ナラン(太陽)〟がたくさん見られる土地なんだね。」

「ああ、そうさ・・・。そして、また羊を飼って暮らそう。」

「うん!」

「吹雪が落ち着いたらゲルを畳んで出発しよう。お前も手伝うんだぞ。」

「わかってるよ、父さん!僕も少しは手伝えるようになったんだから!」

「そうか、それでこそモンゴルの勇者だ。」

 タルガットは、(強くなるんだぞ。)と、言いかけたが、彼の息子は走って行った。

 彼は息子の成長に期待しながらも、世界の将来に明るい見通しを持てなかった。

 戦争が始まって、世界の国々が崩壊していくニュースが耳に入っていたが、それすらも聞くことができなくなっていたからだった。

(ともかく、ロシアはダメだろう…。ウランバートルもどうなっていることか・・・。今は南に向かうしかないか・・・。)


「あなた。そろそろ中に入ったら。」

 妻のツェツェグがゲルの出入り口から彼を呼んだ。

「あぁ…そうだな。そうしよう。」

 彼は振り向いて放浪者の列を背にし、布の入り口を分け入ってゲルの中に入った。わずかに残った加工薪が、かろうじて室内を温めている。

「ふぅ…。酷い吹雪だな・・・。」

 彼はコートを取ることなく、薪ストーブの前に腰掛け、小さく燃えている火を見つめた。

「明日まで続くそうよ。」

「そうか・・・。」

 まだ気象予報が提供されていることに少し驚いた。いつまで気象情報を聞けることができるのか分からない。

「吹雪がやんだら出発しよう。」

 彼は、弱々しい火に手を当てながら彼女に聞こえるように呟いた。

「うん、ナランにはもう言った?」

「あぁ…、さっき話した。〝わかった!〟ってさ。立派なもんだよ。俺の息子だからな。」

 タルガットは不安な顔を中断して、少し笑ってみせた。

「あら、私の息子なのよ。」

「おお!そうだった、忘れてたよ。」

 吹雪きに堪える一戸のゲルの中で、一対の小さな夫婦は、笑う時間を持つことができた。

「私達も頑張らなくちゃね。」

「そうだな・・・。当然だ。」

「弟たちにも伝えよう。」

「わかったわ。じゃあ、夕食を作るわね。」

 彼女は、会話を終わらせると食料箱から干し肉と小麦を取り出し、食事の準備にかかった。


「星・・・。もう一度、あの星が見える土地に行きたい・・・。」


 タルガットは、亡くなった父と見たあの壮大な夜空を思い出していた。


 いつかまた見ることが出来る日が来るだろうか・・・と、揺らめく炎を見つめながら・・・。


長い間休載してすみませんでした。

生活環境と職場が変わって、まあ、てんやわんやですわ。

あ、そうそう、ガチャガチャで天体望遠鏡を回しました。

少しでもplanetarianの世界を感じるためであります。

神戸市(正確には西宮市ですが。)に引っ越したので、いつか明石天文台へいって、イエナさんを拝みたいと思います。

プラネタリウム100周年だそうで、おめでとうございます。

最近は、デパートの集客方法にアイデアを模索しているそうです。なんだ、それなら、屋上にプラネタリウム作ればいいじゃん。て、思うんだけど、浜松に作ってくれないかなぁ・・・。


2024/3/21追記

モンゴルで大雪が原因で、13人死亡、家畜が480万頭死んだニュースが入ってきました。

偶然ではないような、もしかしたら何か感じるところがあったのか、はたまた・・・

自分は予言者ではありませんが、何かしら、つながることがあるみたいです。

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