第十一夜 避難(3)
避難した道の駅の駐車場で遊ぶレイ達。
そこへ自衛隊の装甲車が駆け込んできた・・・。
「我々は陸上自衛隊、第25連隊の者である。自分は連隊長の木下曹長である。ID25003568確認されたし。」
⦅ようこそいらっしゃいました。私は、この避難所の支援AIローレンです。貴殿のIDを照会、合致しました。⦆
「こちらの避難所には、どれくらいの避難民が収容されているか。」
⦅食堂に350名、簡易宿泊施設に49名収容しております。⦆
「死亡した者、傷病者はいるか。」
⦅亡くなられた方、傷病者はいらっしゃいません。体調不良の方が4名いらっしゃいますが、疲労によるものと推察いたします。⦆
「責任者か代表者のような方はおられるか?」
⦅避難民の方々に、責任者、及び代表者のような方は決められておりません。⦆
「ふむ。了解した。それでは、聞いてもらいたい情報があるので、幾人か大人の方を、ここまで呼んでいただきたい。放送してもらえないだろうか。」
⦅外へ呼び出すことは、避難民の方に不安感を与える恐れがあるため、建物のエントランスを提案いたします。⦆
「了解した。それでは、私だけ建物に入るとしよう。」
⦅ご理解していただき、ありがとうございます。それでは、館内放送いたしますが、どういった内容なのか概略を教えていただけないでしょうか。⦆
「今後の避難と、公開できる情報についてだ。それ以上の詳細については、集合した方達に伝える。」
⦅承知しました。⦆
ローレンAIが、そう言うと、館内放送が始まった。
⦅避難の方々へお知らせします。只今、陸上自衛隊第25連隊の方々が、到着されました。今後の避難と公開できる情報について、皆さまにお伝えしたいことがあるので、大人の方々の幾人か、エントランスホールに集合して頂きたいとのことです。避難している皆さまへお伝えします。只今・・・⦆
“陸上自衛隊”の人達が他にもいたのだけれど、どの人も、笑っていなかった。僕は、子供心にも、“あまり良くないこと”になっているのだと分かった。
大人の人達の話しだったし、聞いてはいけない感じがして、僕達3人は駐車場のベンチに座って大人しくしておくことにした・・・。
“道の駅”のエントランスホールに、多くの大人達が押しかけていた。皆、先行きの不安と、今の日本の状況が知りたくて詰めかけていた。皆、沈痛な面持ちで立っていた。
木下曹長は、小さな台のような物の上に立っていた。
「私は、陸上自衛隊の木下と言います。ちょっと人数が多いようなので、前の方々はしゃがんでいただけないだろうか。」
木下曹長のそばに集まった大人達は、木下曹長に言われたとおり、後ろに気を使いながら順々に座って行った。
「ご協力ありがとうございます。」
木下曹長は一呼吸ついてから喋り始めた。
「まずは、ご無事でなによりです。こんなことを言うのも不謹慎なのかもしれませんが、ここに来られた方は運が良かったと思います。」
大人達は黙って聞いている。
「私は包み隠さず話しをするほうです。なにより正しい情報が、生き抜くための知恵だと思っていますので。」
木下曹長の前置きに、聞いていた大人達の期待が撫でられるように削られた。
「正直申しまして、状況は芳しくありません。日本が誇っていた陸上自衛隊ですが、正体不明国の敵に苦戦をしています。と、言っても明らかな情報があるわけではありません。」
木下曹長は、一つ一つ言葉を切りながら、集まった人達の顔を見渡しながら丁寧に話しをしていった。
「状況が転向しているのであれば、いろいろな情報が入ってくるはずなのですが、入って来る情報が少なく、また苦戦を強いられている情報ばかりです。特に太平洋沿岸一帯に、敵の小型機動兵器が上陸しており、千葉から鹿児島までのかなりの町が占拠されているようです。」
集まった女の多くは俯き、男達は肩を落とした。
「つくば市はどうなったんだ。」
一人の男が手を上げて質問した。
「限定的な情報なのですが、抵抗していた自衛隊も数日のうちに撤収するようです。被害にあっている各地でネットワーク障害が発生しているため、犠牲者の数は分かっておりません。戦闘は続いているものと思われます。」
質問した男は何も言わず、黙り込んでしまった。
「しかし、敵の機動兵器は大きな破壊力を持っていないので、町への破壊は少ないでしょう。」
木下曹長の慰めに、彼はわずかに首を動かしただけだった。
「それから、これは、良い事と言っていいのかわかりませんが、どうやら侵攻の勢いが収まりつつあるようです。」
ほっとして目を合わせる人達。
「これは小職の推測に過ぎないので、そのつもりで聞き置いておいてください。」
木下曹長は、もう一度集まった人達を見渡して目線を合わせた。
「なかなか掴みどころのない敵の自律型小型機動兵器なのですが、小型といえどもエネルギーの供給源が必要なのです。どうやら小型の内燃機関とバッテリーを動力源にしているのですが、小型であるがゆえに、機体内にエネルギー源を溜めておくことが出来ないので、短い間に補給しなければならないのです。よって、補給源が近くになければ活動を活発に続けられないのです。」
ざわざわとする人達。
「確かに、沿岸部の町は占拠されそうなのですが、それ以上の内陸部に侵攻してくる兆候が見られないのです。」
一斉に、口々に喋り始めた。人は安心すると喋り始めるものなのか。
木下曹長は、人々が喋り終わるのを、にこやかにして待った。
「ありがとうございます。これはあくまで小職の推測の域を出ませんので、今後の情報に注意してください。ただ、先程も申しましたとおり、ネットワークは寸断されていますが、急激な状況の悪化も見られないということだけです。」
人々は少し安堵したようだ。
「とは申しましても、これから状況が反転していく情報もありません。ですので、皆さまには、群馬県にある避難シェルターに随時移動していただきます。内陸部でのネットワークは、充分に有効な状態ですので、ご安心ください。」
人々は、目先の見通しが立ったことで安堵した。
避難シェルターへ行けば、身の危険を感じることも少なくなるだろう。
「避難バスでの送迎は、追ってこちらへ連絡いたします。おそらく数日のうちに送迎が始まります。それまで不自由をお掛けしますが、ご協力願います。」
ざわつく人々の中で、木下曹長は、ピッと軍人らしいお辞儀をした。
日本の太平洋沿岸部に上陸した中国共産党軍。
AI搭載の小型機動兵器は、海上自衛隊の間隙を縫って上陸し、多くの町の人々を追い出し、占拠することに成功した。
しかし、中国本土には、木下曹長が推測していた以上の事態が発生していた。
長らく間を空けてしまってすみません。
名古屋から兵庫に転勤となったので、状況が落ち着くまで随分かかってしまいました。
ぶっちゃけて言うと、テレビもようつべも飽きてしまったので、自分で小説書いてるほうが充実感あるなと気づいた愚か者です。
と、いうことで、めげずに続けます。よろしく。