夏祭りなんか嫌いなんだよ
「あー…今日はお祭りだったわ。」
いつもは薄暗いくせに出店が並び、やたら明るい帰宅道。
腐った気持ちで裏通りに逸れる。
いつもの神社へのお参りも止す。
夏祭りなんか誰が行くか。
疎遠になった中学の友達の顔が浮かぶ。仕事で疲労困憊な所にお祭りで酔っ払いな元友達に絡まれる、なんて想像だけでも怖気が走る。
って考える私は性格が悪い。
だらりと疲労も露わに踵で歩く。
その時。
突然、ガシャーン!と大きな音が響いた。
ねぇ、あなたも自転車のおじさんが横を抜いた直後に転べば、疲れてても咄嗟に助けるでしょ?考えるより先に身体が動くというもの。
それです。そばに居合わせた青年もきっと同じ理由。
おじさんの無事を確認し、二人で散乱した荷物をバタバタと拾う。
本人は自転車を起こし、私達の心配をよそにそこで定食屋をやっているからお礼に食べて行け、としきりに誘う。
「お店の宣伝もさせて欲しいんだよ〜!」
ってもしや確信犯か?笑顔だし。
それでも断る理由もない私達は、気付けば初対面にも関わらず同じテーブルで鯖の味噌煮定食を頬張っていた。
てらてらと輝る味噌煮の、しっとりなのにふわふわした食感。こっくりした甘さと脂、後味に生姜の爽やかな辛味。ネギと油揚げのお味噌汁がまた香り良く、二人とも最初の
「うまっ!」
の一言を交わしただけで一気にお盆の上を平らげた。
お茶で一息つき余韻に浸る。
なんというか…
「親切をしようと思った訳じゃないのに、こんな果報があっていいのだろうか。」
その言葉は私の声ではなかった。
向かいの青年をガバっと見つめ勢い、
「同意します!」
身を乗り出す私。
噴き出す青年。
後に振り返ればこれが私達の始まりだった。
「実は僕ね、ちょっと荒んでたんだ。
何で僕ばっか忙しいんだ!って、のんびりしてる床屋のおじいさんにまで嫉妬してさ。夏祭りも忘れてたし。
だけどこの定食の美味さが本当に沁みたよ。さっき思わず笑ったのも久しぶりだった。ありがとう。」
全同意。私も荒んでた。
しかし素直にお礼を言えるこんな人を卑屈にさせた程の忙しさとは。
それからの会話は時間を忘れた。
一方おじさんは、何でもお見通しと言わんばかりの顔で満足気に頷く。
楽しく青年と別れ足取りも軽い帰り道、ハッと名前を聞いていない事に気付く。
一瞬足が止まる。が、また歩き出す。
確信めくのが不思議だが、また逢える気がする。
今度逢えたら、その時は真っ先に名前を聞こう。
ね?
___そうだね。
ちゃんとした食べ物を食べる。とても大事。それが美味であれば尚良し。そしておじさんの正体とは。
良ければ他のなろラジ大賞4への応募作品にもお立ち寄り下さい。本文のタイトル上部『なろうラジオ大賞4の投稿シリーズ』をタップして頂けるとリンクがあり、それぞれ短編ですがどこかに繋がりがあります。おじさんの正体はそこで判明します。