結末
フィリアと婚約してから1年。
俺達は婚約者として節度ある関係を保ちながらも仲睦まじく過ごしてきた。この節度ある関係というのが俺にとっては地獄だったがからくも走り切った自分を自分で褒めてあげたい!
そして待ちに待った今日!
俺はフィリアとの婚約を正式に国王に承認してもらうため王宮へきていた。
漸くフィリアが15歳になり国王に正式に婚約を承認してもらえば婚約者を領地へ連れて行くことが可能になるのだ。花嫁は夫の領地で領主夫人としての教育を施されその後結婚する。普通は20歳の成人前後に婚約し結婚するのがセオリーだが生憎俺はそんなに待ってはいられないし法的にも問題ないからいいのである。
無事に国王に謁見を済ませて承認の許可をもらい退出する。
脳内では高らかに万歳三唱をしていたが穏やかな笑みを浮かべてリアを見ると彼女はホッとしたように微笑みコテンッと頭を俺の肩に預けてきた。
くっ! 可愛い。俺はこの3年リアの何気ない動作や仕草に何度悶え死させられそうになったことか! 好きな子の前では健全な青年男子の忍耐力はマイナスに振りきれているということに気づいてほしい。
婚約が正式に承認されたのだからどこか人気のない場所へ連れ込んで今まで我慢してきたアレコレを際限なくやりたい!
手を繋ぐのも慣れた。
腕を組むのも慣れた。
髪に触るのも指を絡めるのも抱きしめるのも慣れた。
でもまだまだなんだ‼︎ 絡みつくようなキスがしたい! それ以上もしたい! リアの匂いを嗅ぎ捲った上で身体中舐めまわして吸い尽くして俺のものだという証を付けたい。俺だけしか見えないようにしてデッロデロに甘やかしたい!
いや、まだダメだ。邪魔な従者もいるし何よりここは王宮イコール他人の家だ。王宮を他人の家といっていいか不明だがいつ邪魔が入るかわからん。それにまだ婚約段階だ。落ち着け、俺!
ともかく承認さえされればこんな他人の家に長居は無用とばかりにリアの手をとり王宮の回廊をいつもより早足で進む。とはいってもリアの歩調を崩すような速度では歩かない。
用事も済んだことだし今日はこのままリアと一緒にいようと決めて隣を歩くリアをそっと盗み見る。
今日のリアも可愛い。この日のために俺が贈ったドレスは漆黒だが光の加減で銀色に見える生地を使用していてリアの白銀の髪に良く似合っている。幾重にも重なったドレスのドレープとシースルーの首元が華奢な彼女の身体を少し大人っぽく見せていて袖口と手袋の間から覗く白磁の肌は艶めかしい。
まるで美の結晶のように美しく愛しい自分の婚約者。
だが狭量な俺は回廊で擦れ違う貴族や侍従達がリアに見惚れているのが気に入らない。
こんな可愛いリアを本当は誰にも見せたくない。
俺が独占欲に苛まれながらも表面上は微笑を浮かべてフィリアをエスコートして歩いているとふと繋がれた手の温度が手袋越しでも下がったように感じた。
どうしたのかとフィリアを確認すると彼女は青い顔をして前方の人影を凝視している。
「「フィリア‼︎」」
こちらに気づいた人影が発した重なる声にフィリアの肩がビクンと震えた。
俺は突然現れた2人の男から守るようにリアを後ろへ下がらせる。
齢の頃はフィリアと同じ位。1人は青髪、青目のいかつい筋肉マッチョでもう1人は赤髪、赤目の神経質そうな痩せ型の男でどちらも顔の造形だけなら麗しい部類に入る男達だった。
彼らはフィリアの前に立つ俺には構わずにはしゃいだように大声で話しだす。
「久しぶりだな! 俺に会えなくて寂しかっただろう⁉︎」
「会いたかった! やっと会えた。君が王宮へ来ると噂で聞いて慌ててやってきたんだ」
「相変わらず貧相な身体だな! ちゃんと食事を摂っているのか? そんな身体では男も寄ってこないだろう! だが大丈夫だ。俺が結婚してやるからな! 式の日取りはどうする?」
「何言ってんだよ⁉︎ フィリアは僕と結婚するの! お前なんかお呼びじゃないね」
「ふざけんな! 俺はフィリアの下着も見たことある仲なんだぞ!」
「あんなの無理やりスカートを捲って見ただけじゃないか! 僕も見たし!」
「俺としては下着が白色だったのが納得いかないんだよな? 俺と結婚したいなら青だろ? だからフィリアはダメなんだよ」
「バカを言うなよ! フィリアは赤色が似合うんだ。青なんて地味な色、全然ダメだね」
「お前こそバカを言うな。フィリアは俺のことが好きなんだよ。もやし男はすっこんでな!」
「はっ! フィリアが好きなのは僕だから! 脳筋はさっさと退場しなよ」
王宮の回廊で始まった2人の男のマシンガントークに俺は唖然としフィリアは悲痛に叫ぶ。
「もういい加減にして‼︎ もうやめて‼︎」
いつも温和な雰囲気のフィリアにしては珍しく苛立っているようだった。だが俺は驚きつつも違うことで頭が一杯だ。
リアのスカートを捲った? 下着を覗いた?
俺の顔から血の気が一気に失せていく。
殺そう。殺していいはずだ。殺さなければならない。大体こんな回廊で女性の下着の色を暴露するなど万死に値する。それがリアのなのだから即ミンチでいいだろう。
俺は腰に手を伸ばしたが生憎ここは王宮のため帯剣していなかったことを思い出し舌打ちした。そんな俺に気づかず男2人は高らかに宣言する。
「「さぁ! フィリア! 俺と(僕と)結婚しよう!」」
「ふざけないで‼︎」
金切り声を上げたフィリアに男達がキョトンとする。先に口を開いたのは赤い髪の男だった。
「ふざけてないよ? フィリアは僕と結婚するんだ。小さい頃、僕のコレクションを箱いっぱいにプレゼントしたの覚えているだろ? カブトムシとセミの幼虫、可愛かったよね。フィリアに喜んでほしくてたくさん集めたんだ」
「いいや俺だ! フィリア、俺がお前の髪を引っ張ったりスカートを捲ったり追い掛け回したりしたのは愛情表現だって解ってるもんな? お前が逃げ回っていたのは俺の気を引きたかっただけだろ」
そう言って青い髪の男がニヤつく顔でフィリアを見る。
ああコイツら痛い奴だ……。
何だよ、箱いっぱいの幼虫って。生物学者でもあるまいし、そんなもん俺でも気色悪いわ。ちなみにリアはその手の虫が大嫌いだ。それにどこの世界に嫌なことをして追いかけまわす男を好きになる女がいる?
フィリアは思い出したくないとばかりに頭を強く振った。
「いつもそうやって私を虐めて! もういや‼︎」
「嫌だなフィリア、虐めていたのはランスロッドだけだよ」
「嘘よ! リュナンなんてうちの池の鯉に毒をあげたじゃない!」
「それはフィリアが鯉にばかりかまって僕の話を聞かないからじゃないか!」
「何時間も昆虫の話なんて聞きたくないわ! 鯉たちに解毒剤を飲ませるの大変だったのよ!」
「結局、死ななかったんだからいいだろ!」
「そういう問題じゃないわ!」
俺より黒い奴いた……。
というかリアの言っていた意地悪な男の子っていうのはこいつらだったのか……。
確か青い髪の方は東のイースト公爵家の嫡男ランスロッドで赤い髪の方は南のサウス公爵家の嫡男リュナンだったな。興味がなかったためざくっとしか読んでいない貴族名鑑の記憶を呼び起こす。
そういえばこの2人の親は仮面夫婦で夫人とその子達は領地ではなく王都のタウンハウスで暮らしているというのは有名な話だ。フィリアも母親の病気のせいでタウンハウスで育てられていた時期があったようだからその時にでも出会ったのだろう。
俺が知らない幼い頃のリア。
その記憶が他の男にあるのが許せなくて微笑を湛えたままつい普段は出さない冷たい声が出る。
「私の婚約者に気安く話しかけないでもらえるかな?」
「「は⁉︎」」
見事にハモった2人が俺の元へ詰め寄る。
「ロリコンジジィが適当なことを言うな!」
「そうだ! 貴様は確かノース家の嫡男ヒュヒャ……くっ舌噛んだ!」
「フィリアは俺ものだ。俺のブルーサンがそう告げている。早くフィリアにぶち込んで蹂躙した……グハッ!」
言葉に詰まったランスロッドを見るとリュナンが奴に吹き矢を放っていた。リュナン、いくら殺傷能力が低いからって王宮に吹き矢はダメだろう……。
ランスロッドも……こいつ思っていることを直球で言い過ぎだ。見た目を裏切らない脳筋ぶりだな。
そもそも情報が古い。確かに俺はここ3年は王都にいたが公爵位を継いでいるしお前らの家に挨拶にも行っただろうが。しかもリアと仮とはいえ婚約したのはもう1年も前の話だ。バカなのか? バカなんだな。こんなのが嫡男で東と南の公爵家の未来は大丈夫なのか?
「ランスロッドは下品だね! フィリアの初めては僕のレッドサンで……うっ‼︎」
呆れる俺を他所にランスロッドに2発目の吹き矢をお見舞いしようと叫んだリュナンが頬を抑えて蹲る。
吹き矢が放たれる前にランスロッドの拳がリュナンの頬にクリーンヒットしていた。
俺は引き攣った微笑を浮かべながら冷えた瞳で2人のやり取りを眺めていた。胸がむかついて仕方がない。
何がブルーサンだ。何がレッドサンだ。
東のイースト公爵家の貴色は青、南のサウス公爵家の貴色は赤。
公爵家の色に例えたんだろうがセンスが悪すぎだ。って3年前にも聞いた気がする! 俺の父親も同じか⁉︎ こいつらと同類か⁉︎
こめかみを押さえようとした俺の手に何かが触れる。冷たいその感触に隣を見るとリアが静かに涙を零していた。
「もう……やだ……」
俺の手に落ちてきたのは輝く瞳から零れたリアの涙だった。
……リアが泣いている⁉︎
一瞬で俺の周りの空気が黒くなるのを感じた従者が青い顔でこちらを見たがもう俺は自分を止められなかった。
許さん!!!!!
俺はかろうじて貼り付けていた微笑を消すとまだキャンキャンと吠えあう2人に近寄りランスロッドの腹を蹴り上げ返す足でリュナンの体を壁際まで吹っ飛ばした。
驚いた2人の従者と王宮の衛兵達が慌てて駆け寄ろうとするのを睨んで制止する。
先程まで微笑を浮かべていた奴の厳しい表情に俺を見た従者と衛兵が揃って立ち竦む。
天井まで蹴り上げられ床に落ちたランスロッドは口から吐瀉物を吐き出していたが、お構いなしにその青い髪を掴んで顔を上げさせる。
「ランスロッド、君は街で平民の女の子をナンパしているそうだね。貴族がしかも公爵家の者が平民をナンパするのはいかがなものかと思うけれど、それより問題は君にナンパされた女の子が全員傷だらけで放り出され余程酷い目にあったのか中には精神を病んでしまった子もいるって話を聞いてね。イースト公爵家の権力を使って箝口令を敷いているようだけど、これは立派な犯罪行為だから独自に調べてみたんだ。被害にあった女の子と目撃者の裏はとれているから国王に報告しようと思っている。君の行いを知った慈悲深い我が王はどういう裁きを下すかなぁ?」
俺の言葉に顔色を変え暴れ出すランスロッドに再度蹴りをくれて頭を靴底で踏みつぶし髪を掴む。ベリベリと鈍い音がして青い髪が頭皮ごと剥がされる音と絶叫が辺りに響いた。コイツはリアの髪を引っ張ったらしいから倍返しだ。
平凡な体型とは裏腹に俺の戦闘力は超一流になっていた。王都に3年いる間に騎士団に通い鍛えたのだ。全てはリアを守るために。
血と吐瀉物に塗れた頭を抱え悲鳴を上げ転げまわるランスロッドを一瞥し、壁にもたれ掛かり吐血しながら呻いているリュナンに振り向く。
「リュナン、君は年上のご婦人に人気があるようだね。複数で人には言えないようなプレイも楽しんでいるとか…。人の性癖はそれぞれだから、とやかく言うつもりはないけれど4大公爵家の者としてあまり醜聞になるようなことは慎んだほうがいいんじゃないかな?領地にいる君のお父上はこのことご存じなの? ん? 何を証拠にって? ……今ここで実名言ってもいいのかな? 私は困らないが君の立場も相手の立場もあるだろうから控えていたんだけど言ってもいいんだね? 代表的な所ではマゾ侯爵夫人、ビッチ子爵夫人、サド男爵、あぁ君って男色もいけたん「やめてくれええ‼︎」」
俺の言葉はつんざくようなリュナンの悲鳴で遮られる。
確たる証拠を出したわけでもないのに勝手に自滅したことに冷笑する。秘密の情事を本人は上手く隠していたつもりが俺に具体的な名前を挙げられてパニックになったのだろう。メンタル弱すぎだな。
王都にいる3年の間、騎士団に通う傍ら俺は社交も広げ脅せそうなネタを収集していった。全てはリアを手に入れるために。
黒い瞳に力をこめて『次はない』ということを暗に示し2人に言い放つ。
「さっさと消え失せろ……二度と私のリアの前にその面を見せるなよ?」
クズ共を一瞥しフィリアに向き直ると心なしか頬を紅潮させ呆然とこちらを見ている彼女がいた。
しまった‼︎ 思わず素が出た‼︎ 怖がられてる? 俺、リアに嫌われる⁉︎
嫌な汗が湧き立ち俺は慌ててフィリアの元へ駆け戻る。
「リア……ごめん、怖かった?」
「……え?」
「リアは暴力とか脅しとか嫌いだろ? 嫌なところ見せてごめん……」
「っ‼︎ いいえ! いいえ! ファル様は私を守ってくれました! 本当のファル様はとても優しいのにこんなことさせてしまって申し訳なくて。でも……戦ってるファル様は……かっこよくて、その……見惚れちゃいました」
可愛いいい~~~‼︎ 俺の婚約者可愛すぎ‼︎ しかも俺のことかっこいいだって‼︎ もうマジでリアが望むなら毎日何人でもしばき倒せるよ⁉︎ 大丈夫! 俺、公爵だから何人か誤って殺しちゃっても闇に葬れるし! どっかの青髪の脳筋バカみたいに証人や証拠を残すようなバカな真似しないし!
フィリアに褒められハイテンションになった俺は彼女の手をとり首を傾げる。
「リアは俺の婚約者なんだから君を守るのは当然だろ?」
「……でも……ファル様を見て思ったの……逃げてばかりじゃダメだって。私、もう逃げない!」
そう俺に言いきったフィリアの瞳には強い力が宿っていて俺の握った手を握り返すと、コツコツとヒールの踵を鳴らして前に出て大きく息を吸い込み凛とした態度で佇んだ。
ああリア、なんて気高いんだ……そのピンヒールで踏みつけてほしい。リアが吸い込む空気になって肺の中に入りこみたい。
俺の変態チックな思考なんて知らないフィリアはまだ倒れたままのクズ2人に絶対零度の眼差しで盛大に吐き捨てた。
「私が結婚するのはファル様! 私が大好きな人はファル様だけ! 貴方達とだけは絶対に結婚しない! 2人ともずっと大嫌いだった。今も大嫌い! 二度と近寄らないで! 変態‼︎」
はい撃沈……。リアに大嫌いなんて言われたら俺なら死ぬね。
がっくりと項垂れて床に突っ伏してしまった2人をそれぞれの従者たちが引きずるように連れていく。主人が阿呆だと従者は苦労するな。
壁際に控えた自分の従者を見るとその目はしっかりと『アンタも一歩間違えればあちら側でしたよね……』と語っていたが俺は華麗にスルーした。
◇◇◇
王都の屋敷に到着した俺は恥ずかしがるリアを横抱きにして自室へ連れていく。
王宮を辞した後の馬車の中でリアはどこか落ち込んでいるようだった。そんなリアをそのままノース家へ帰せるはずがない。まあ元々真っすぐ帰す気は更々なかったが。
自室の扉に鍵をかけベッドは色々とやばいのでソファに腰かける。もちろんリアは俺の膝の上に乗せている。
リアが落ち込んでいるのはやはり俺の暴力が原因だろうか?
かっこいいとか言われていい気になっていたけどやっぱり本当は怖かったのだろうか?
それともクズ共にゲスな脅しをかけたことか?
リアの涙に激高してしまったあの時の俺を殴りたい‼︎
リアに嫌われたら死ぬ。拒否られたらリアを殺して俺も死ぬ。いや、殺すのは無理……それはダメだ……監禁しよう、そうしよう!
フィリアを監禁する方法を巡らせ暫く無言で彼女の滑らかな髪を撫でていると徐にリアが口を開く。
「……ファル様、私のこと嫌いになった?」
「へ?」
思いもよらないリアの質問に思わず間抜けな声がでる。
今、何て言った? 俺がリアを嫌いになる訳がないだろう⁉︎ 天地がひっくり返ってもそれだけは有りえない。
だがリアは不安そうに言葉を続ける。
「男の子に下着見られたことがあるとか……幻滅した? あの時ファル様舌打ちしてたし……」
舌打ち? 俺がリアの前で? 思考を巡らせリアの下着を見たというランスロッドを殺そうと思ったのに剣がなくて殺りそこねたあの時かと思いだす。チっ! やはりあの脳筋バカ殺っておけば良かった。でもリアが落ち込んでいた原因が俺に嫌われたかもなんて嬉しくて死にそうだ。ああもう! 本当にリアは俺の心を破壊する天才だな。
だらしなく緩みそうになる頬を叱咤してフィリアの髪に口づける。
「そんなこと気にしてたの? 舌打ちも聞かれていたのか……恥ずかしいな。嫉妬しただけなんだけど……」
「嫉妬?」
「俺だって男だからね。好きな人の下着を見たなんて他の男が言ったらヤキモチやくし怒りもするの!」
いつも年上の余裕ってやつを心掛けていた俺の子供っぽい言い分にリアは目をパチクリさせている。いわゆるギャップ萌えというやつを狙ってみたのだが失敗か? これは軌道修正の必要がありそうだと考えていると、ふわりと花の香りがしてリアは吐息が俺の顔にかかる位に近く顔を寄せる。
つーか近くで見ても可愛過ぎる! しかもすげーいい匂い……とトリップしそうになった俺の頬をリアが両手で持ち上げた。
「ファル様、大好き」
「俺もリアが大好きだよ(たぶんリアより何億倍も重い好きだけどな……)」
そう言ってリアの頬を撫でながら金色の瞳を覗く。美しく蠱惑的なリアの瞳が俺の漆黒の瞳を映し出している。
俺はあの日リアに出会った時からずっとこの瞳に囚われて、きっとこの先も囚われ続けたままなんだろうな、ま、こちらも離してやるつもりはないけどね。なんてことを考えながらそっと顔を寄せた。
リアとの深い口づけは想像以上に甘かった。
時折漏れるリアの悩ましげな声に俺のブラックサン(あ……思わず言っちゃった)が反応しっぱなしで焦ったが悟られないように何とか誤魔化した。
リアの口腔内の全てを貪りつくした後で漸く解放してあげると彼女は乱れた息遣いをして涙目で見つめてくるから結局また何時間もキスを続けた。3年も禁欲生活を続けてきたんだ。正式に婚約したのだからキス位思う存分してもいいだろう。
リアに怯えられるのを避けるため、猛るブラックサン(あ……また言っちゃった)を使用せずに留めたことは褒めてもらいたい。
自分の膝の上で放心状態のリアの腫れてしまった唇をまた酷使させるべく舌でこじ開ける。リアは吐息を漏らしながらも侵入してきた舌に応えてくれて俺は漸く手に入れた宝物と甘い口づけを堪能した。
ファル編はこれにて完結ですがフィリア視点のおまけがあります。蛇足になるかもなのですけど…。