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第4話:ヤケ酒におぼれるゆうしゃさま―C

 用を足し、手を洗ったところで鏡の自分を見ながら今後について思いを巡らせた。


 とにもかくにも平和だけは訪れた。帰る権利についてはもう少し話し合うべきだけど、正直なところ誰かを押しのけてまで俺は元の世界へ帰りたいというわけでもない。指輪まで作ったルカと違って、俺の動機はどこまでも弱い。


 ポケットの中のペンダントを俺は取り出した。小さなロケットが付いているあたりがいかにも恋愛事情を抱えてそうだ。


 いつもならスルーを決め込むけど、今日に限っては逆だ。そっと見てそっと閉じれば見ていないのと同じだ。ルカの本気ってやつを覗き見てやろうじゃないか。こいつは帰る人間を定める大きな参考材料にある。



 かちっと開いたその中に人は写っていなかった。



 完全に面食らったというか、肩透かしだ。こういうのってペアや家族とかの写真を入れるべきだろう。それなのに我が相方ときたら時計台が恋人ときた。


 夕陽に照らされ十七時を回ったことを針で示す金色の時計台は、俺の通っている大学にも建っているほどありふれたものだった。これの何が重要なのか、正直理解に苦しむ。


 テーブルに戻ると頬杖をついた姿勢でルカが遠くを眺めていた。向かいの席に座るなり「ほれ」と俺は雑にペンダントをルカの手元に置いてやる。


 「ちょっと……人のもんを」

 「誤解だ。君が寝落ちしたときに落としたんだよ」


 ふーん、と実に訝しげな視線が俺の胸に突き刺さる。俺の信用度はそんなに地の底なのか?実際見てしまったけど。いっそ彼氏の写真とかだったら決め手になったのに。


 「笑いたきゃ笑いなさいよ。オトコひとり写ってない安物のロケットよ」


 たしかに時計台を胸に仕舞うオンナは初耳だな。なんて納得したが最後だ。しらを切って何言ってんだこいつはって顔で俺は押し通す。


 「私が、私にした約束なのよ。時計の針を止めてしまったのは私だから、せめて元に戻したい。伝わらなくていいから思いを伝えたい。それだけのために今日まで生きてきたから」


 どこにでもある時計台とか思ってごめんなさい。スペシャルワンな時計台だそいつは。バツの悪さを感じていると、不意にルカがすっと俺の手元にグラスを寄せてきた。


 「ウーロン茶、酔い覚ましに入れといたから」


 普段の傍若無人っぷりはどこへいった。覗き見した相方に、なんと慈悲深い。やっぱり相棒ってのは持ちつ持たれつだよな。そう思って一気に飲み込んだ俺は垂直に吹き出して椅子ごと床に落ちていった。


 「ウーロンハイぐらい予想しときなさいよ。馬鹿」

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