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第3話:5分で終わる魔王討伐-B

 しまった!と思うと同時に、俺の体は勝手に動いていた。容赦なく詰め寄る魔王よりも一完歩早く回り込んだ俺は、手刀を振り上げたタイミングで彼女に覆い被さって地面に倒れる。


 ざくっと、嫌な音がした。何かが突き刺さったような音。


 体中が熱くなり、貫かれたところから血がどくどくと……流れない。


 「目が!目がぁーーーっ!」


 目の前には仰向けの体勢で顔を真っ赤にしているルカがいて、くっついた体から震えが伝わってくる。どうしよう。魔王でなくても相棒によって天国への扉が開かれそうだ。顔を後ろに向けると、両目に手を当てて苦しそうにしている魔王が俺に乗っかってじたばたしている。


 なにこの三人羽織?どうしたこの世、なにがどうなった。


 もう一度正面を向いて我が身の脇を覗けば、ショルダーバッグがずぼりと突き破られていて、中からは液体が飛び散っていた。


 -預かっといて。ほら、魔王とドンパチやってるときにスランプとかシャレになんないし。


 こういう形で窮地を脱する一助になるなんてノストラダムスですら予言できまい。レモンは自称勇者二名を救った。


 「いつまで乗っかってんのよ!」


 ルカの右足に蹴り飛ばされた魔王はケツをこっちに向けたまま顔をうずめている。その様を確認してにいっと不敵に頬を緩ませたルカは、床に転がっていた杖を握りしめる。


 何故だかわからないが猛烈に嫌な予感がする。それはまずい。大変まずいですよルカさん。奴のケツに杖の先を向けて一体何をする気だ。予感は的中し、ルカの右手が魔力の波動に包まれる。


 「エアロ」


 なけなしの最後の気力を絞ってルカは自身の杖に風の加護を施した。その結果どうなるか?答えはシンプル。杖の先が魔王のケツ目がけて一直線に飛んで突き刺さる。


 「おぎょーーー!おぎょーーーっ!」


 断末魔とも奇声とも受け取れる叫びを上げた魔王は、ケツを手で押さえたまま何度もホッピングする。あいつのアキレス健はそこだったかと妙な感心すら抱いてしまう。体の一部に弱点を設定しないといけない中でケツを選択したのならある種、合理的ではある。相手がルカでさえなければ。


 「見事やお前ら!でもな、俺は眠りにつくだけや。数百年後は絶対許さんからな」


 思いの丈を吐き捨てた魔王の全身がどんどん薄くなって透過していく。曲がりなりにも魔王なのにこのやられ方でお前は本当にいいのか?ちなみに数百年とか言われても俺たちは生きてないし、居座る気もないから予定では子孫もいない。


 「あ、そうだ。宝玉」


 起き上がった俺は魔王が首にかけているペンダントをつかんだ。


 「二人ともこの世界に居候する気はないんでね。二度と会う気はないからこれだけはよこせ」


 透過する最中に、魔王が首を傾げる。


 「二人?……もしかして、召喚された理も知らんなんてことあらへんよな」

 「知るか。さっさとよこせ」


 ぽかんと魔王の頭をはたいた俺は、ペンダントごと引きちぎって宝玉を手にした。なにかを言おうとした魔王は文字通り消滅していって、途端に静寂が訪れる。


 手にした橙色の宝玉をまじまじと見ると、黒いペンで文字が書いてある。持ち物に名前を書くとか魔王のくせに小学生みたいなことしやがって。興ざめだ。


 「ツミタ?」


 本当に勝利したのか。世界に平和が訪れたのか。いや、訪れたにしろフィニッシュがあれでは魔王もうかばれない。せめて史実は大魔法で憤死したことにしてやろう。


 -ツミタの手から離れるのは久しいな。初めてお目にかかる。理に導かれし者よ。


 どこからか聞こえる老人の声に、俺もルカも互いに顔を見合わせる。


 「男の声真似か?」

 「なんで私が言ってることになってんのよ。あんたじゃないの」

 「新しい才能だな。もはや男と言っていい」


 即座に発動された火炎魔法に俺の顔面は黒焦げまっしぐらだ。


 「どう見ても君が握ってるそいつでしょ。でも、理ってなんのこと?」


 -理は、移送の条件。別軸の者を移送するに足りる条件を指す。


 「条件?」


 眉をひそめるルカに宝玉は「うむ」と言葉で頷く。


 -声によって人は世界を渡り、招かれる。心からの叫びと言ってもいい。その者の思いに反応した人間が空間を渡り、やってくるのだ。


 「つまり、私は誰かに呼ばれた……もしかして私、モテてる?」


 -呼んだ相手が異性とは限らぬ。


 「ロマンのないガラクタね」


 一応、送り返してもらう道具だからな。最低限の扱いはしてやれよ。


 「まあいいわ。せめて願い事ぐらいはきっちり叶えなさいよ」


 -無論だ。勇者よ、その者を指す人物を述べてみるがよい。たったひとつの願いごとを見事叶えてみせようぞ。


 よし、と握りこぶしを作った直後に俺たちは不穏な言葉に顔を向け合った。


 願いごと、ひとつだけ?

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