表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/13

第6話:re-encounter

 夕暮れが近づきながらも敷地内はまだ盛況を見せていて、遠目でも人の多さがわかる。


 夢なら早く醒めてほしい。幻なら錯覚だと言ってほしい。目の前にある光景は望み続けた世界だった。夕陽の光が差して見えづらいけど、現在地は俺の通う大学の敷地だ。


 気持ちの整理がつかないままぼうっと歩いていると、道端で棒立ちになりながら泣いている子供を見つけた。


 「どうした?お母さんとはぐれたか?」


 言葉では表さないが、縦に首を振ったそいつを見るなり俺は身を屈めた。


 「お母さん探そう。すぐに見つかるよ」


 か細く「うん」という声を出した少年はひょいと俺の両肩を跨ぐと、少年の足をつかみながら俺は敷地を歩き始めた。屋台ゾーン、展示物ゾーン、音楽のライブ会場はチケット制だから出入口から辺りだけを見回す。歩いているうちに遠くから驚きの声が聞こえ、頭上から「おかあさん!」と少年が前方の女性へ叫ぶ。


 母親のもとで少年を降ろした俺は、無邪気に手を振る少年にバイバイと手を振った。俺にしては珍しい殊勝な心掛けだ。そう思いながら見た時計の針は夕方の五時ちょうどを差している。


 どうしようもなく心臓がばくついて止まらない。心臓の鼓動はどんどん早くなっていって、動揺が収まらない。理由、理由は……そうだ、あの、ロケットの風景。


 近づいた時計台の下に、そこにいてほしい後ろ姿があった。


 「よ……よお」


 恐る恐る声をかけた俺に対して「きみ、誰?」とつんつんして彼女は答えた。人違いなはずがない。ルカであることは疑いようがない。でもこんな冗談は今まで一度もされたことがない。


 もしかして、向こうの世界ってのは俺だけが見た幻だったんだろうか。そもそも出会っていないから変な人と思われているんだろうか。邪推だけが心に広がっていく。


 「あ、いや、まあ、そりゃそうなるよな。ごめん、人違いだ」


 踵を返して逃げようとする俺に「なんて」と彼女はくすっと笑った。


 「はじめまして、だね。まえだかなた君」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ