中国からの殺し屋(1)
闇に暗躍し、ターゲットの命を奪い取る裏稼業・殺し屋。
これは、その中でも最強と謳われた1人の殺し屋と仲間達の変化の物語。
「3人共。落ち着いて聞いてくれ。実は……先生と大牙がやられちまった」
校門の桜が淡いピンク色の花を咲かせた平成18年4月10日の昼休みに聞かされた翔馬からの突然の知らせ。穏やかな気候に似つかわしくない衝撃的な内容に、中学3年生になった龍と雲雀と柚は驚愕した。
翔馬からの話によると、2人は昨夜、ある暴力団を壊滅させる仕事を受けていたのだが、そこの用心棒として雇われていた殺し屋に阻まれ、返り討ちにあったんだそうだ。
その殺し屋の名は海凜華と海王龍。中国の裏社会では、実の姉弟殺し屋としてその名を轟かせている実力者である。
「一応、2人共大けがで済んだし、組長の首も取ってはきたんだが、奴らのことだ。近い内に必ず報復にくる。つーわけで、今日学校が終わったら、大牙を見舞いに行くぞ。あいつから詳しい事情を聞かないといけねぇからな」
「そうだね」
そう答える龍の胸中には、大牙と紫乃を負かすほど腕が立つ殺し屋・海姉弟に対する興味と警戒心があった。
午後1時半頃。新学期が始まって間もなくということもあり、午前中で学校が終わった龍達は、大牙が入院している病院に着き、彼がいる個室に入った。
「あ。ちわーす。先輩達。ご心配おかけしてどうもすみません」
「まったく。油断してるからそうなるのよ」
「うげっ。いつもながら辛辣っすね。猫宮先輩」
「けど良かった。無事そうで」
見たところ外傷も少なく、いつも通り元気な様子に、龍は安心してそう言ったが、当の本人から即否定された。
大牙いわく、弟の王龍は長身と馬鹿力を駆使した格闘戦しかなく、まだなんとかなるのだが、問題なのは姉・凜華の方だった。
というのも、彼女の武器は流星錘という中国の武器で、本来は先端に鉄球がついた打撃武器なのだが、彼女の物は鉄球の代わりに猛毒を噴射する大型針がついたカスタム仕様となっている。
幸い、刺さりが浅かったおかげで命を落とさずに済んだものの、猛毒を浴びたことで大牙は戦闘不能になり、今も首から下が麻痺してロクに動けないらしい。
「ともかく、やられた俺が言うのもなんすけど、気を付けてくださいね。あの女、マジでヤバいんで」
「わかったよ。大牙君」
龍はそう言って後輩の忠告を胸に刻んだ。
「よし。んじゃ次は、武文ん家だな」
「そうね。どういうわけか今日、学校をサボってたみたいだし。じゃあ、大牙君。くれぐれも安静にするように。早く解毒するためにも、ね。なんなら手っ取り早く私が抜いてあげよっか? アッチの方も一緒に」
小悪魔のような顔でそう言う柚の言葉と目に、鳥肌が立った大牙は、
「ノーサンキューっす! これから透美さんが見舞いに来るかもしれないのに、猫宮先輩とヤってる現場なんか見られたら、俺、透美さんに合わせる顔がありませんっ!」
と、全力で拒否し、龍達に彼女を連れて出て行ってくれるよう頼んだ。
そんな彼らと入れ違いに、学校を早退した透美が見舞いに来ると、大牙は気まずい空気になるのを未然に防げれたと、冷や汗をかきながらもホッとし、入院の経緯を説明した。
『喧嘩の仲裁に入ったらその1人がとんでもなくヤバい奴で、そいつに毒を盛られた』という嘘をつき、殺し屋だということを隠して…………
新たに始まった死獣神シリーズ。
冒頭から波乱の展開となりました。