クソ天使マジ許さんからな!
「異世界辛いわッ!」
俺はゴブリンと対峙しながら叫んでいた。
「なんでこんなボロい剣持って、防御力ほぼゼロみたいな格好で戦ってんだよ! チート能力は!? 可愛いヒロインは!? もう一度言う...異世界辛いわッ!」
そんな叫びに少し怯んだゴブリンに向かって俺はがむしゃらに剣を振るった。剣の使い方なんて全くわからない。とりあえず鋭利な刃の部分で斬り付けたらなんとかなる! ってか切れ味悪いから剣捨てたわ! 蹴って殴って首絞めて。小学生の喧嘩、ガチで命奪うバージョンでゴブリンを仕留める。
「...ふぅ、一日働いて収穫はコイツ一匹。...やってられるかッ! 」
なんで俺がこんな過酷な生活を強いられているのか。それは三日前に遡る。
「え? 俺死んだの?」
俺、高山一成はアホ面を晒して目の前の美少女にそう言った。
「うん、死んでる。アホみたいな死に方してるよお前」
目の前の美少女は速攻で答えた。
「アホみたいな死に方? え? ちょっと待って...え? 死んだ? 俺が?」
もう言葉が出てこないとは正にこの事かと思うくらいに言葉が出てこない。
「だから何回も言ってんじゃん。お前死んでんの。アホみたいに階段から落ちてアホみたいに白目剥いてアホみたいに頭から血出して死んだの。わかる?」
正直まったく実感が湧かないが、階段から落ちて死んでしまったらしい。
「...えっと、俺死んだんですよね? なら、今のこの状況はなんなんです?」
「プッwww 以外に受け入れ早ッwww たいした人生送ってこなかったから受け入れも早いってかwww」
目の前の美少女は、腹を抱えて笑うという言葉を体現していた。
ってかなんだこいつ。今までスルーしてきたが、口悪過ぎないか? まず状況とこいつの見た目から察するに天使的な何かだろう。天使をイメージした時そのままの格好をしている。天使の輪に羽。白いワンピース。うん、天使だ。
だが、如何せん口が悪い。なに? アホみたいに階段から落ちてアホみたいに白目剥いてアホみたい血出して死んだって。
アホみたいにっている? 馬鹿にしてるよね。人の命なんだと思ってんだッ! 確かに死因ダサすぎワロタだが!
俺はそんな理不尽な状況にもめげず、再度天使的な美少女に話しかける。
「...えっと、楽しんで笑っていらっしゃる所大変恐縮なのですが、そろそろ今のこの状況のこと教えていただけないでしょうか?」
俺の人生史上でも最高にへりくだった。まあ人生終わってるらしいけど。
「別に笑ってねーし。お前如きで笑えねーし」
え、何こいつマジで。顔めちゃくちゃ可愛いのに性格どブスじゃん。客帰ったあとのキャバ嬢じゃん。
「お前はたいした人生送ってねーのにアホみたいな死に方したから、店長が可哀想だっつって特別に違う世界で新しい人生を送らせてやるって話になってんの」
店長ってなんだよ。神様的な何かじゃないのかよ。コンビニなのここ?
「...はぁ。じゃあ俺はこのまま違う世界に行くんですか?」
「そうなるね。まあめんどくさいから、もうこのまま飛ばしちゃうね」
「えッ!? いやまだなんの説明も聞いて───────」
「ガンバー」
それが三日前の出来事である。
「思い出しただけで腹が立つッ! あいつ面倒臭いからって説明もまともにしなかっただろ! 死ぬぞ! 店長とやらの優しさ全無視してすぐ死ぬぞ!」
クソ天使へ5分くらい悪態をついていた俺だったが、急にアホらしくなって黙って帰ることにした。
俺は街に着くと、一際大きな建物に入る。建物の中は大勢の人で賑わっていて、正直クソうるさい。
俺は変な人に絡まれないように、なるべく端っこを歩き受付に向かった。
この建物は冒険者ギルドと呼ばれるもので、その名の通り冒険者が依頼を受けたり、報酬を受け取ったりする所だ。
「すみません、これ換金してください」
俺は受付のお姉さんにゴブリンから剥ぎ取った耳を渡す。
「はい、ゴブリンたった一匹ですね! かしこまりました!」
いや、辛辣が過ぎる! 確かに一日働いて帰ってきたやつがゴブリンの耳1個だけっていうのもなんだけど、わざわざ言う必要ある!?
「...はい、よろしくお願いします」
「ではこちらが報酬の500ゴールドになります!」
心の中では言い返せるのだが、現実世界では言い返すことも出来ず、お姉さんに渡された500ゴールドを握りしめて冒険者ギルドを後にした。
俺が今住んでいるのは新人冒険者用の寮のような場所だ。月1万ゴールドで借りることが出来るので、お金の無い新人冒険者にとってはありがたい存在なのだが、何故か臭い。常に臭い。造りも古く、ギシギシ鳴らない箇所が逆に無い。常にギシギシ。オー〇リー春日の部屋の方がまだマシに見えるレベルだ。
「これからどうすっかなぁ...。毎日500ゴールドじゃ生活できないよなぁ...」
ちなみに、500ゴールドは日本円でいう500円とだいたい同じっぽい。ようするに俺は1日働いて500円を手にしたのだ。やったね!
「いや! もしかしたら何か凄いチートな力が眠っている可能性もあるッ! 明日こそはモンスター倒しまくって稼ぎまくってやるッ!」
俺は割と諦めが悪いようで、そこが異世界で生活する上でとても役に立っていた。
そして俺は今日もゴブリンを殴っていた。
「もう嫌ぁあああああああああああああ!!」
もう無理だ! 俺なんの力も持ってねーよ! もう分かっちゃったから!
か〇はめ波も出なければ、ス〇ンド使いでも無かった。本当に俺はただの高山一成だった。森の中で他の冒険者に白い目を向けられても気にせす、本気でか〇はめ波の練習をしていたがついに出ることはなかった。
「...こりゃもう、ゴブリンを何とか効率的に倒す方法を考えて稼ぐしかないか...」
先が見えない不安。これアレだ。就活で周りの友達ばっかり内定決まっていくアレだ。
そんなことを考えていると、茂みの向こう。森の奥の方からゴブリンの叫び声が聞こえる。
「あっちにゴブリンいるのか。どうしようかなー。剣使い物にならんしな。ってか、素手で戦ってる俺って案外凄いんじゃない?」
俺は独り言を呟きながらもゴブリンの声のする方へ歩いていっていた。
「...ん? なんか様子が変だな。ゴブリンが暴れてるような...」
ゴブリンの異変を察知した俺は茂みから顔を出す。そこにいたのは一匹のゴブリンと一人の美少女だった。その美少女は手にナイフを持っており、ゴブリンに徐々に近づいていっている。
「どうやって殺そうかなぁ。やっぱり指から徐々に削っていく? それとも×××?」
はい、やばいやつ確定。俺はその美少女の存在を一瞬で頭から排除した。
「俺は何も見ていない...俺は何も見ていない...。よしっ! 」
そう呟きながら俺は音を立てないようにその場を後にしようとして───────ボキッ。小枝を踏んだ。
「あっ...」
森に響く小枝の折れる音。
しかし、美少女はピクリとも動かない。
あっ、これバレてないパティーンだ。助かっ──────
「だあれ?」
あっ、やっぱりバレてました。
美少女はありえない方向に首を曲げてこちらを見ている。
怖っ!? 何あれ!? ゴブリン小便漏らしてるし...。今まで見た生き物の中で1番怖い...。
美少女と目のあった俺は動けずにいた。そんな俺に構うことなく美少女はこちらに向かって歩いてくる。
いやっ! 来ないでっ! 俺よりゴブリンの方がお金になりますよ!?
美少女がこちらに向かって歩いている間、ゴブリンは逃げ出していた。
クソッ! もう獲物俺しかいねぇ!
「いつからいたの?」
美少女はそう聞いてくる。美少女は青い目とブロンドヘアーが特徴的で、耳が長い。とにかく長い。多分これがエルフというものだろう。異世界ものでは定番である。
「えっと...なんのことですか?」
俺はとぼけることにした。頭に飼っている小さい100人の俺が全員賛成の札をあげている。
「私の独り言聞いたりしてない?」
なるほど、その確認か。ならば答えはひとつ。
「バリバリ聞いてました! (聞いてません!) 」
...アレ? なんか今おかしい事言ったよな?
「...やっぱり聞いていたんですね」
美少女の目から光が消えた。
おいおいッ! これはヤバイ! この目はヤバイ! なんでか知らんけどヤバイって!
俺は必死にその場から逃げる。しかし、いつの間にか腰が抜けていたようでほふく前進のような格好になった。
そんなほふく前進真っ最中の俺の足を美少女が掴む。
痛ってぇ!? 何だこの握力! 室伏かよ!?
「私の闇を知ってしまったのなら生かしておくことは出来ませんねー。このままここで人間の解体ショーとしましょう...」
美少女はとんでもない事を口にした。
「ちょッ!? ちょっと待て! 確かに聞いたけど何とも思ってないから! 良い趣味持ってますね! ぐらいにしか思ってないから!」
思ってもない言葉を投げかける。なぜなら俺は必死だったからだ。このままじゃ数分後には俺は肉塊になっているだろう。そんなのなりふり構ってられない。
「...本当に?」
「本当! 本当! すっごく素敵だなぁ。是非ともお友達になりたいなぁー! なんて...」
それが決定打になったのか、俺の足から手を離してくれた。あぁ、やばかった。頭の中では潰さる林檎の映像が永遠と流れ続けていた。
「そんなこと言ってくれた人、あなたが初めてです!」
さっきまで目に光の宿っていなかった美少女はまるで別人のように明るい笑顔を俺に向ける。
「...は、はぁ。それはよかったです...」
正直俺は今とても焦っている。なんか凄く嫌な予感がするからだ。そう、例えるならド〇クエで仲間が増える前のイベント。あ、絶対これ仲間になるわ。
「良かったらお友達になりませんか? 出来れば、パーティーに入れてもらえたりしませんでしょうか?」
断ったら多分これ殺されちゃう。
「ウン、ワカッター」
俺は考えることをやめた。もうどうにでもなれ〜。なるようになるさ〜。
「...本当ですか! ありがとうございます! 私、マリファって言います! これからよろしくお願いしますね!」
マリファはそう言うと飛びっきりの笑顔を俺に向けた。あれ? 普通に可愛い女の子じゃん。もしかしたらゴブリンを痛ぶろうとしていた女の子は俺のストレスが創り出した幻想? あぁ、絶対そうだ! こんな可愛い女の子がクサレサイコパスなわけがない!
「あっ、あと私と同じ趣味をお持ちの方なんて初めてで本当に嬉しいです! また今度お話しましょっ!」
現実逃避タイム終了〜。後半キックオフ!
やっぱりクサレサイコパスじゃねーか!
俺の異世界生活一体これからどうなっちゃうんだよ...。