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離反者と兄弟と

〈再びミサイルの射出を確認〉


 智天使のAIが警告する。


「レジスタンスのやつら、シティの連中よりも武器持ってんじゃねぇかよ!」


 ハガルは毒付き、二発目のミサイルに関する情報を拾っていく。

 一発目よりも威力が高い。

 二発目、いや三発目が本番という場合もありうる。


 軽く唇を噛むのと同時に、白雪姫の前方、縦のように組み合わされた六枚の翼からそれぞれ一本ずつ、計六本のレーザーが射出される。

 それは誘導部分はもちろんだが、中に入った燃料タンクごと溶かしていく。

 爆発も最小限だ。

 都市から離れているとはいえ、レジスタンスで用意する武器に不具合は多い。おいそれと扱いが大変な核や水素は使えないということだ。


「ウィル! 二発目が来るぞ!」




「わかってるよ!」


 リリィはカウントダウンに入っていて口頭では伝えなかったが、シェードモニタで二発目のミサイル射出を知らせてきた。

 二発目は一発目よりも威力が大きいタイプだとすぐに解析結果がでた。


「リリィ、まだ迎撃は可能?」

〈速度から計算すると、冷却と再充填に時間がかかるため、ギリギリかと〉


 ミサイル一個撃ち落とすのに翼を六枚も使ったのは失策だった。保険のかけすぎだったとウィルベルは舌打ちする。

 自己修復中の四枚で迎撃できるか予測を叩きだすが、やはりエネルギー充填に時間がかかりすぎる。




「トゥール!」

〈なんでしょうか?〉

「お前のほうでもミサイルの迎撃は可能だろ?」

〈白雪姫のような長距離を保った状態では難しいです。ワイヤーの長さには限界がありますから〉


 レーザーの場合であれば、エネルギー量を増すことによって射撃距離を伸ばすことは可能だ。ただし、バレルやマズルの強度を上げる必要がある。

 それに対し、ラプンツェルのワイヤーの長さは伸ばすことはできない。

 一番は技術的な問題だ。あと、長すぎても制御が難しくなる。

 今回の場合は、ワイヤーを使って叩き落とすしかない。


 ――一発目で回避行動をとっていればよかったんだ。


「ウィル、お前は後ろに下がれ」


 そう言って、ラプンツェルと一緒に白雪姫よりも前に出る。

 ラプンツェルの悲劇武装、その名も「出入り口のない(トゥール)」は、翼と翼の間に電磁バリアを張ることが可能だ。

 攻撃に対し、防御力を叩きつける。そうして身を守る。

 防御はどんな攻めに対しても対抗できる最高の武器だとハガルは思っている。


「悲劇武装――」

 「発動」と言う、もしくはコマンドを打ち込めば翼が勝手にバリアを展開する。それが、シェードモニタに映った高エネルギー反応で思わず息を飲んでしまった。


 だが、AIトゥールはすぐさまパイロットの安全を最優先とするために悲劇武装を発動させた。

 視認が先だったか、衝撃が先だったか。

 膨大なエネルギーの塊が襲い掛かってきた。




 それはウィルベルのほうでも確認していた。

 ――高陽電子エネルギー反応。

 徐々に迫ってくるミサイルとは別だ。もっと向こう。ハガルが言っていたシティの方角からだ。


〈パイロットの安全を最優先とします。これより迎撃から防御へと変更――〉


 リリィは確かに翼をレーザー砲撃から防御態勢にするために信号を送ったはずだ。

 そしてその信号は確かに届いて、盾となってくれたはずだ。

 眼前のラプンツェルも悲劇武装を展開した。

 しかし、陽電子砲を受け止めたものの、エネルギーがすぐにゼロになるわけではない。飛び火のようなものだ。

 「出入り口のない塔」に当たって散ったエネルギーの欠片が白雪姫に届いたのだ。




「ウィルベル!」


 白雪姫の被弾。


 飛翔機をやられたのか、木々の海に真っ逆さまに落下していく。

 インカムで名前を呼ぶが、イヤホンから入ってくるのは嵐のようなノイズ音。高エネルギーによって、一時的にこの場のありとあらゆるものが滅茶苦茶にされたのだ。こういった場合、一番被害をこうむるのが電子機器だ。


「トゥール! お前は大丈夫か?」

〈問題ありません〉


 すぐさま悲劇武装を解除して、落下する白雪姫を追いかけようとするが、ノイズ混じりの声がそれを止める。


『ハガル、すぐ島に帰還しろ』


 AIたちとまるで変わらない感情を感じない冷淡な声。


「エイジ! お前のほうからも見えてるんじゃねぇのか!?」

『見えている。そしてシティからも通信が届いている。すぐに機体を回収しないのならば何度も撃つと』

「ここは空白地帯じゃなかったのかよ!?」


 制空権。島とシティの間にあるこの森の上は正確にどこの国のものとは決まっていなかった。だから島――エイジもハガルに対して白雪姫奪還の命をすぐに下したのだ。


「エイジ、ここでシティの要求を飲めば、ここは完全に奴らのもんってことになるんだぞ? わかってるのか?」

『それくらいはわかっている』


 少し苛立ち交じりの声が戻ってくる。『だが、今ここで戦争を始めるわけにはいかない。それくらいはわかっているだろ』

「シティなんて機天使を全機投入すれば数時間で滅ぼせるだろ」

『ハガル、もう猶予はあまりないぞ』


 軍師であるエイジの言葉に反論するハガルだってわかっている。事はそれほど簡単なことではないと。

 シティを攻撃すれば、シティを含む同盟国の連中が今度は島を襲う。そうならないために、ここはいったん引けと。

 だが――


「ウィルベルはどうする? 白雪姫だってそうだ」

『……捨てておけ』

「おま――」

『その森に関してはシティも簡単に手が出せない。シティとの話し合いが落ち着いてからでも白雪姫の回収は可能だ』

「アイツがっ、ウィルベルが怪我してたらどうするんだって聞いてんだよこっちは!」


 その言葉が出るまで、少し間が空いた。

 ほんの少し、いや、とても長い時間だったかもしれない。


『どちらにせよ、ウィルベルは離反者だ。それを忘れるな』


 通信は一方的に途切れた。

 ハガルは、やり場のない怒りに舌打ちする。

 ウィルベルのことが大事かと問われれば、素直にうなずくことはできない。だからといって、見捨てろと言われても、今のように尻込みしてしまう。

 同じ遺伝子情報で作られた疑似兄弟。エイジだってそうだ。

 ハガルは舵を切り、島へと方向転換する。


 ――兄弟なんてクソっくらえだ。


 白雪姫が落ちて行った先を振り返らず、遠く霞む島へ、何も考えずに向かった。

 島で生まれた人間にとって、島以外に帰れる場所などこの世界にはないのだ。


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