わりこむモノ
「リリィ、大丈夫?」
〈YES.防御が速かったおかげで大幅な損傷は防ぐことができました。ですが、翼の四枚はすぐには使えません。正確に機能を使えるのは六枚です〉
「機天使二機に対して、翼は六枚」
機天使に取り付けられた翼はその名の通り、飛翔の際の制動などの役割の他に、白雪姫の場合は攻撃の反射、ラプンツェルの場合はワイヤー収納。
その他に盾やソードとしての使用が可能だが、本来の数の半分を削られたことは手痛い。
自己修復が完了するまで極力戦闘は避けて逃げるか? いっそのこと、こちらも悲劇武装を用いて迎撃するか、ウィルベルは軽く唇を舐める。
戦う場合は、二機を相手にしなければならない。そのうちの一機は十二翼を背負う熾天使。
ラプンツェルのワイヤーは迷彩機能を兼ね備えている。
蜘蛛の巣を避けるように飛び回りながら、同時に智天使からの攻撃に応じなければならないということだ。
考える点はそれだけではない。
白雪姫と同じく、ラプンツェルも他に悲劇武装をいくつか持っているはずだ。
それを使われては勝ちは見えてこない。
こちらも悲劇武装で応戦しようかと思うが、彼女の姿が脳裏をよぎる。
湖の中から突然現れた、彼女。
あの子はいまだ、この戦闘を遠くから見守っているのだろうか?
なぜそこまで彼女に拘泥するのか、ウィルベル自身もよくわかってはいない。ただ、一般民を戦いに巻き込むことに抵抗があるのだ。
――なにをいまさら、と軽くため息を付く。
〈これからどうするのです?〉
リリィが問いかけてくる。
「うーん、頭が痛いね」
思わず苦笑が漏れる。戦闘においてここまで悩んだのは初めてだった。
〈ウィルベルの本来の目的はなんでしたか?〉
「島から逃げることだけど」
〈でしたら、そのようにすることが最善かと思います〉
「あの二機から逃げ切れるかな」
いまだ、距離をとりつつ膠着状態は続いている。
ハガルのほうでもこれからどうするべきか考えているのだろう。
〈この戦いが長引くほど、状況は不利になります。いつ島から増援が来てもおかしくはありません〉
「だったら、逃げるしかない?」
〈それが現状の最善解だと――対空迎撃ミサイルの射出を感知〉
「え!?」
思わず声が漏れる。
リリィの言葉に、それは島から放たれたものだと思ったが、シェードのモニタに映し出される情報は、島とは真逆の方角。地上からの攻撃だ。
*
「くっそ!」
ミサイル発射はハガルのほうでも感知した。
「シティの方角だが、射出位置はシティ防衛区画からじゃないな」
〈データ照合完了。都市軍で使用しているものではありません〉
シェードモニタに表示される情報。迎撃を知らせる警報音は鳴り止まない。
「改造型……レジスタンス系の連中か?」
ハガルはフッドペダルを一気に踏み込み、白雪姫に向かって飛ぶ。
予測着弾地点は現在地だ。
「ウィル! ミサイルの迎撃は可能か!?」
ハガルは回線の向こう側の弟に向かって叫ぶ。
*
言葉を失いかけていたウィルベルの鼓膜を、ハガルの声が震わせる。
〈智天使、急接近。マスター〉
ハガルの言葉はリリィも聞いていた。
「迎撃って……」
脳裏に浮かぶのは、もう二度と使わないと誓った悲劇武装だ。あの機能ならば迎撃は可能だ。
だが、この状況だ。
「島で用意したミサイルじゃないの?」
白雪姫の眼前で、智天使が急停止する。
『島は地上に基地なんて持ってないし、同盟国はこの大陸とは海を挟んで北側だ!』
《解析完了しました。迎撃したとして、ジャミング等の影響を受ける可能性があります》
ハガル機のAIが冷淡に答える。
『三機そろって制御不能なんてだせぇことやってられるか! トゥール!』
再び、頭上からワイヤー群が降ってくる。
ウィルベルは咄嗟にそれらを避ける。
『なんで避けるんだよ! 状況わかってんのか、このタコ!!』
ハガルが言ってる言葉のほうが理解不能だとウィルベルは心の内で呟く。
「ミサイルが飛んでくるんだろ! だからってどさくさに紛れて僕を捕まえようとするな!」
『わがまま言うんじゃねぇ! とりあえずここから移動するぞって話だ!』
〈その意見に私も同意です。ウィルベル〉
「でも……」
リリィの言葉に反論しようとするが、言葉が浮かんでこない。警報音が思考を邪魔してくる。
「……避けるのを、援護してくれるってこと?」
『ああ、俺はこんなところで死ぬ気はねぇし、ここで白雪姫が壊されても怒られるからな』
結局自分のためじゃないか、とウィルベルはため息をつく。
そこでふと頭に浮かんだのは、桃色混じりのブラウン髪の少女の事。
〈ウィルベル?〉
ミサイルの予測落下地点と、その種類などの解析データを表示させていく。
「避けるのはダメだ」
『ああ? なに言ってんだ?』
「あの少女がいるんだ」
湖の中から出てきた不思議な子。
あの場から立ち去っていたとしても、シェルターか何かにでも入っていなければ被害を受けるはずだ。
ここには木がたくさんある。落下と爆発の衝撃でたくさんの木々がなぎ倒され、吹っ飛ぶ。ミサイルから逃れるのは容易い。その場合、助かるのは二人だけ。
ミサイルの軌道を遮るように無傷の六枚の翼を前方に配置する。
白雪姫の動きに、ハガルは眉をひそめる。
『おい! 避けるって言っただろ? まさか迎撃するつもりか!』
「そうだよ」
悲劇武装は使えない。だが、ミサイルをレーザーで撃ち落とすことは可能だ。
不幸中の幸いか、ステルス型ではない。
ミサイルの軌道は完全に把握できている。
あとはレーザーの照準を合わせて撃てばいい。
それだけなのに――
『お前ってやつは!』
白雪姫の隣にハガルが操縦する智天使が寄る。
『いいか、迎撃するってことはただの防衛じゃないんだぞ。こちらにはミサイルを撃ち落とすだけの力があると、相手に言うようなものなんだぞ?』
「実際にそうじゃないか。過去に何度も島を狙って放たれたミサイルを撃ち落としてきたんでしょ?」
ウィルベルの反抗的な言葉に、ハガルはグッと喉を鳴らす。「だったら、ここで撃ち落としたとしても問題ないじゃないか」
『馬鹿か! この場合は売られた喧嘩を買うような――』
〈ミサイル迎撃射程可能距離に入ります〉
二人が言い争っている間も、AIたちは冷静に分析を続けていた。
ミサイルを完全に撃破するならもう少し近くで撃たなければならない。
「リリィ、照準とカウントをお願い」
〈了解しました〉
『この後どうなっても俺は何もしないからな!』
そう言って、ハガルは後方へと後退する。
リリィが十秒前を知らせ、五からカウントダウンしていく。その時だ。




