ユキヤの過去 前編
「私は捨て子でした。
親の顔は知りません。里の長に拾っていただき、幼き日々は健やかに育ちました。
忍の里は、かつて日の本から来たという一族が住まう里です。
長の家にあった古い書物や、私たちの里でのみ使う『漢字』という文字、そして、私の名前も。
やはりこの世界のこと、なのかもしれません」
こちらをしかと見つめて話す彼女の話を、半蔵は黙々と聴く。
「数えで十二になったある日、長は突然私たちの前からいなくなりました。
理由はわかりません。私は、再び捨て子同然となりました。
忍の里は一族以外が住むことを嫌う土地。長の庇護なきダークエルフの私に、居場所などありませんでした。
それでも私は食い下がりました。泥にまみれ、疎まれ、忌み嫌われながらも……里で忍としての鍛錬に励みました。
……いつか長が……自らの居場所が戻ると信じて」
「……」
彼女は守りたかったのだ、自らの唯一の心のよりどころである『居場所』を。
自分という捨てられた存在がいることのできる場所を。
半蔵は生返事を返すばかりで、かける言葉を見つけられなかった。
「そして私は一人前の忍となり、初にして最も過酷な任務に就きました――――」
次話は18時に更新します。