彼女の秘密 後編
半蔵の興奮に少したじろいでいたが、ユキヤは気を取り直して話を続ける。
「ダークエルフはご存知ないですか? ……王都でもそうあまり多くはありませんからね」
半蔵が驚く姿をみて、ユキヤは自分の種族を知らないのだと推測する。
「(これまた新しい単語が出てきたな……王都、か。ダークエルフや王都といい、まるでユキヤが別の世界、もとい異世界から来たと言わんばかりだ。それに、いま彼女が来ている服、どこかで……?)」
「そして、さらにご存じないかと思いますが、この衣服は忍という特殊な――――」
「……忍? もしかして、忍術や手裏剣の方の忍か?」
ユキヤの口からでるとは思わなかったその単語を耳にして前のめりに反応してしまう。それは彼女も同様だったようだ。
「し、知っているのですか!? 」
「あ、ああ」
ユキヤの思いがけないリアクションに半蔵は戸惑いつつも、肯定の返事を返す。
「忍術や手裏剣のことまで……っ! 主人、もしや只者ではないのですか!?」
これまた見当違いなのだが、半蔵は特に気にすることもないと判断し、流した。
半蔵はそれが本当だったらな、と心の中で軽い自虐をする。
「王都でも極限られた要人や貴族たちだけに、代々仕えてきた我らを……いえ、もう我らではないですね」
寂しそうに呟くユキヤには先程の覇気は視られなかった。哀しいような寂しいような、そんな雰囲気が漂っている。
「これがお伝えできるすべてです。忍びのことを話したのはせめてもの主人への信頼の証です」
「そうか……」
彼女の中では『忍』は他人には話してはいけないことだった。「だった」というのも、すでにユキヤは守るべき指針をなくしているため、秘密にしなければいけないという枷を外していた。
半蔵が礼を述べると、ユキヤは微笑み返してくれたが、先程の哀しそうな表情は隠せておらず、若干引きつった笑顔になっている。それがどういう理由からきているのかは、半蔵はまだわからない。
「……私も、一つだけ聴いてもよいですか?」
「もちろん、俺に答えられる範囲でならなんでも答えよう」
「でしたら、ここはどこでしょうか? 王都でもありませんし、里とは似ているようですが……」
「ここは日本、という島国だ」
「二ホン……もしや、ここは日ノ本と呼ばれた国なのですか?」
「そうだな、確かに昔からそう呼ばれているが――」
「ならば、私はあの世界から……私は、あの世界からも捨てられたのですね……」
「(……ん? どういうことだ?)」
とても小さな、消えるような小声で呟かれたその一言を半蔵は聞き逃さない。ユキヤは何かをあきらめたような瞳で、自らの、布団を握りしめる手を見ている。
その日はまだ全快していないということもあり、彼女には早めに寝てもらった。
寝床に入ってからもあの事を考えていたのだが、彼は言葉の意味を掴むことはできなかった。結局、いろんなことが落ち着くまで待つことにした。
今日は6時から3時間おきに更新します。お時間がある時にでもお読みください。