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めぐりあい

「囲炉裏……懐かしい音、ここは……うぅっ! 」


 はじめは焦点があっていなかったが、次第に意識が覚醒してくる。暖かいものに包まれた感触とパチパチという懐かしい音で、彼女は自らがおかれている状況をすくなからず察する。

 

 なぜ自分はこんなところにいるのだろうか。確か先ほどまでは山の中にいたはず……。と、彼女は湧き出る疑問を解くためにもとりあえず、起きて確認することにしたが、痛む体のせいでうまく起き上がれない。無理やり起こして再び確認しようとしたとき、


「起きたか。……無理をするな。まだ傷は癒えていない」


 おもむろに動きだす彼女を、誰かが制しながらゆっくりと再び布団に寝かせる。

 警戒の色を示したとき、彼女の目の前の人物が口を開く。


 「俺はこの家に住んでいる半蔵という者だ。家の前で倒れていた君を介抱させてもらった。別に怪しいものではない」


 半蔵は彼女を見つけた時、見た感じでは行き倒れかと思ったが、体に刻まれた傷を見た瞬間に違うと確信し、同時に驚いた。

 普段は人よりも獣のほうが通りが多いからだ。

 

 彼女と出会ったのはほんの数日前の――雨の日。あの時、半蔵は目の前に倒れているのを見かけてからは一心不乱に介抱したのを覚えている。倒れていた原因は極度の疲労が主であったが重度の外的損傷が見られたことと体温が雨に奪われていたことから、あのまま雨の中に放置していたら、数時間もしないうちに死んでいた可能性があった。それを考えると、彼女が助かったのは本当に奇跡かもしれない。


 半蔵が思考に浸っていると彼女も同じように何かを考え出す。

 

 そしてふと、つぶやくように彼女は言う。


「では、あの後、私は助かって……」


 何かを思い出したようだ。ということは、記憶はしっかりと残っているのだな、と半蔵は判断する。

 

 しかし、只事ではないのは明白。半蔵は遅くなりとも警戒する。それがハリボテであることに本人は気付いていない。根底にあるのは彼女の容態に対する不安の気持ちであって、自身の心配ではないからだ。

 

「この家の主人のあなたが、私を介抱してくださったのですか?」


「ん、ああ、そうだ。勝手ながらも一応手当はさせてもらった。目の前で死なれたらたまったもんじゃないのでな」


 少し棘のある言い方になってしまい、半蔵は訂正しようとするが、


「そうですか。……かたじけない。こうして得があるだけでも、私には上等です。それに、手当も……」


 彼女が礼を述べてきたのでいうのをやめる。

 安心する半蔵をみて彼女はとても申し訳なさそうに再びお礼を述べている。これはどうにも上辺だけで述べているようには見えない。きっと本心でそう言っているのだろう。少なくとも半蔵にはそう見えた。

 

 そんな彼女は、布団から包帯で白くなった手を上にだして見つめている。その腕には包帯を巻いているにも関わらず、とてもほっそりとしていて、巻いていないところから覗くその褐色の肌がこの状況の不自然さをより強調している。

 幸い、顔には傷はついておらず、頭にも目立った外傷はなかった。

 

 彼女は日本人離れした銀髪とその褐色の肌を持ち、整った顔立ちで、さながらハリウッド映画に出てきそうなほどの容姿だ。その上、彼女が持つその紅の瞳は、人を射抜くような鋭さを持っている印象を抱いた。それらが相まって、美しくも強く見える。半蔵にとっては今までに見たことのないほどの麗人である。また、その瞳は切なげな雰囲気を纏っているように見える。

 半蔵はひとまずは彼女が落ち着くまで、そばにいようと決める。


 しばらくして、それが杞憂だったことが分かった半蔵は起きた時のために用意しておいたお粥をとりに行くために部屋を出ようとする――――が、それを焦った様子の彼女に止められる。


「あ! 主人! 人を呼ぶのは控えてください……私のことは、心配無用です。うぅっ!……」


「おい、無理をするなといっただろう! まだ傷はいえていないんだ。それに……この家には俺しかいない、安心してほしい」


 体を起こそうとしているところを戻って支えてあげる。背中に添えた手からは、あたたかな体温が感じられ、彼女という存在が現実味を帯びていることを実感する。

 あの日、半蔵が助けたときの彼女の体は濡れて、まるで死体のように冷たくなっていた。

 半蔵はもうあんな(・・・)思いをするのは二度とごめんだった。それがよぎると無我夢中で介抱した。

 半蔵は昔のトラウマが少しフラッシュバックするとともに、助けた日のことを思い出す。


「……少し休めば問題ありませんから、どうか、このまましばし……主人、恩にきま、す――――」


 礼を告げると、彼女はそのまま、フッと全身から力が抜けていくように気を失った。

 突然のことに慌てる半蔵だったが、息はしているようで、確認すると眠ってしまっただけのようだ。

 半蔵はしばらくこのまま寝かせておいておくことにした。


 これが、半蔵の一生を共に過ごすこととなる彼女、もとい――ユキヤとの最初の出会いだった。



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